準々決勝ーブルーズ戦

「ヘイル監督解任の話は本当だったのか…。」


翌日のテレビを見て秀徹は呟く。ワールドカップまであと3ヶ月ほどしかない。そのような時期に監督を解任するというのはかなりの異常事態に違いない。

実際、監督の解任はチームの状態をまっさらな状態に戻すのとほぼ同義。重い決断だっただろう。


「君はこれを英断だと思うかね?」


小林は秀徹に尋ねる。


「確かに英断です。小林さんに前言ったように彼は全く日本の監督には向いてなかったですから。でも…、この時期になるまでこれを放置していた日本サッカー協会にはヘイル監督以上の責任がありますよ。」


秀徹の返しに小林も納得する。

もし、西田が動いてくれなかったら、この監督解任の動きはなかっただろう。秀徹は心から彼に感謝するが、それと同時にじゃあ誰が新監督を務めるのかという問題がある。

個人的には西田にやってほしい思いはあるのだが、まだ誰になるかは決められていない。


「でも次の監督の人事があれだったら話になりませんよね。」


「まあ確かになぁ。」


とにかく、今の日本代表を現実に基づいて采配できるような監督が就任してくれるのを待つしかなかった。



〜〜〜〜〜



代表ウィーク明けに待つのはチャンピオンズリーグの決勝トーナメント準々決勝である。

リヴァプール・レッズが戦う相手はマンチェスター・ブルーズ。ハズレと言える相手だ。


以前、ブンデスリーガでもブルーズのグラディオ監督とクラップ監督は熾烈な争いをしてきた。

総合力で勝るミュンヘンやブルーズを指揮しているので、タイトルはグラディオ監督の方がとってはいるが、グラディオ監督にとってクラップ監督は天敵のようなものだ。

厳しいハイプレスから相手のボール回しを阻害するその戦術によく苦戦させられている。とはいえ、今季の対戦成績は2戦2敗。レッズが逆境に立たされている。


「レッズもかなり良いチームでしょうが、ブルーズは今季異常な強さでプレミア・リーグやチャンピオンズリーグを勝ち上がってますからねぇ。」


解説や前評判では試合はブルーズが有利だと指摘している。確かに今季のブルーズは異常に強い。

だが、クラップは勝つ気満々であった。ハードな日程の中、与えられた二日の練習でとにかく速く攻撃することを意識させ、


「いいか、試合を前半だけで決めてしまえ。グラディオ監督の戦術は強いが、波に乗るまで時間がかかるし、良い形が作れなければ成立しない。では、我々はその前に息の根を止めてやればいいのだ!!」


と演説した。この速い攻撃のキーマンになるのは、CMFのチェレンバンだ。彼は珍しく足が速くてフィジカルの強いCMFで、縦への推進力がある。運動量も多いことから、コウケーニョのような攻撃の繋ぎの役割を果たすと期待されている。


いざ本番、アン・スタジアムで行われる試合に、観客は詰めかけた。レッズはホームで今季はまだブルーズを迎え撃っていない。これが初のアン・スタジアムでの一戦になる。

グラディオ監督は選手入場で観客の前に立った。アン・スタジアムが放つ独特で嫌な雰囲気に思わずため息をもらす。レッズのサポーターが放つ相手へのプレッシャーは、相手のサッカーをやりにくくさせ、選手を萎縮させる。すでに気持ちで負けつつあった。


(いやいや…、我々は勝たねばならない。それに、俺たちは今季は二回とも圧勝しているんだ。負けるわけがない。)


グラディオは自分に言い聞かせて試合に臨んだ。



4-3-3の陣形で両者は試合に臨む。前回まではクラップも王者ブルーズとの対決のため、慎重な入りをしていたが、今回は一気にカタをつけるべく、3トップのサリー、マニャ、秀徹が一斉に襲いかかった。

グラディオのブルーズにおけるポゼッションサッカーは、出来るだけコンパクトに選手たちを寄せて色々な選手でトライアングルを作りつつ、チャンスを作り出すというものだ。

また、偽サイドバックという、サイドバックを中央に寄せさせる戦術も駆使している。

これをすることで、特定の選手だけでなく、ほぼ全ての選手が中央でパス回しを行う。また、サイドバックの攻撃や守備の幅が大きくなる。


攻撃面ではもちろん中央の突破力やパスワークの安定がはかれるし、守備面でも利益がある。というのも、基本的に一番サッカーでやられてはいけないのは中央突破だ。

サイドからなら崩されても中央に折り返すだけタイムロスが発生するし、難易度も高いのでまだ良い。とにかく、中央は固めなければならない。

そこで、サイドバックを中央に寄せさせるのだ。これなら中央突破されにくくなるし、サイドバックの選手はスピードもあるのでサイドから攻撃をされても時間稼ぎはできる。


普通のチームならばこの戦術を崩すことは中々出来ない。これこそブルーズが常勝軍団になった理由である。

ただし、今回のレッズにそれは通用しない。相手の右サイドにいるRSBのランナーという選手は足が尋常ではなく速い。

だが、逆のLSBのジンチェスはスピードよりもテクニックを評価されている選手だ。ここを突けば崩れそうだ。


クラップは秀徹とサリーの二人で右サイドから突破するように要求する。この二人はスピードもドリブルスキルも世界有数のレベルを有する実力者だ。

ボールを奪われてからジンチェスは急いで右サイドを固めるが、秀徹に難なくドリブル突破されてしまう。ここまでのスピードでサイド突破されたことがなく、ブルーズのディフェンス陣は慌てる。が、容赦なく秀徹とサリーは上がっていく。

そして、ランナーの後ろから中央へと忍び寄っていたマニャが一気に中へと飛び込み、それを見た秀徹が中へとスルーパス。マニャが強烈なシュートを放ち、王者ブルーズから簡単に1点をもぎ取った。



まだ前半6分のこと。ブルーズは久々にこんなに早く先制されて思わず動揺する。まだまだだとグラディオは選手たちを鼓舞するが、ここぞとばかりにレッズの選手たちはハイプレスをかける。

特に効いたのはマニャとミレナーによるタクティカルな潰しだ。狙われたのはRSBのランナーとDMFのフェレナンディの間で、マニャとミレナーの息ぴったりな潰しは効果抜群。

ミレナーはボールを奪い、CBを監視していた秀徹が即座に前へと走り込み、ゴールを奪った。


ブルーズのメンバーは、前半10分までに2点が奪われたことに軽い絶望を覚える。以前パリシティと戦ったときにも勝者は逆境に弱いと言ったが、今のブルーズはパリシティ以上の勝者だ。

リーグでは未だ無敗。ここまで敗色濃厚なのは久しぶりである。


さらに前半42分には、三人を軽々と突破した秀徹がペナルティエリアに侵入。ボールを受け取りに来たチェレンバンにバックパスした。

そして、彼のロングシュートが炸裂。3-0と圧倒的な劣勢にブルーズは立たされることになった。


前半の終盤や後半からはブルーズもペースを上げて攻撃していた。デブライルや、ダビド・シムバによるゲームメイクから、鋭いスターレングらのようなウイングによる、スピードある攻撃には苦戦した。

ただ、アレキサンダーの奮闘や最強のCBデークのおかげで失点もせずにすんだ。GKロレスのポロリも今日は発動しなかった。


結果は3-0。さらに一週間後に行われたセカンドレグのブルーズのホームに乗り込んでの試合でも2-1と競り勝ち、レッズは5-1で準々決勝を勝ち進んだ。

まさかここまで圧勝になるとは思っていなかった解説者や記者らは結果に驚く。プレミア・リーグやFAカップとともにチャンピオンズリーグを獲るというグラディオの儚い夢は砕け散ったのだった。

秀徹の成績は2試合で1ゴール2アシスト。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:1億6000万€

今シーズンの成績:33試合、25ゴール、13アシスト

総合成績:95試合、70ゴール、36アシスト

代表成績:6試合、4ゴール、1アシスト

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