コウケーニョとの別れ
リーグは18節まで順調に終わった。リーグ戦は7試合で4勝1分2敗でマンチェスター勢に2敗を喫した。ユニオンとブルーズは1位がブルーズ、2位がユニオンというように独占しており、この2チームは圧倒的だ。
秀徹はリーグ戦6試合に出場し、3ゴール2アシスト。そこそこな成績だ。
チャンピオンズリーグはグループステージまでが終了し、パリシティにアウェイで1敗を喫したものの、合計で5勝1敗という好成績でグループを1位通過した。秀徹はこちらでは3試合2ゴールと好調であり、チャンピオンズリーグの得点ランキングでも3位につけている。ちなみに1位のクリストファー・ローガンは6試合で9ゴールを叩き出しており、ミスターCL(チャンピオンズリーグ)という異名は伊達ではないと証明している。
チームメイトの中では、サリーが今季は圧倒的に好調であり、リーグ戦では16試合出場で14ゴール4アシストと圧倒的である。以下は主なアタッカーの成績。
サリー、20試合16ゴール5アシスト
フェルノーネ、16試合7ゴール7アシスト
マニャ、18試合10ゴール3アシスト
秀徹、20試合14ゴール6アシスト
コウケーニョ、18試合9ゴール6アシスト
今季はサリーとともにコウケーニョの調子もかなり良い。まさにバルサシティに相応しい選手に大成したという感じである。
そして、次戦はダービーマッチ。マージーサイド州にある両チーム間で行われることから通称マージーサイドダービーと呼ばれる試合である。相手チームはエヴァートン・ブルーズ。ビッグ6には入らないものの、プレミア・リーグ屈指の実力を持つチームであり、強敵だ。
エヴァートン・ブルーズには今年、13年間マンチェスターユニオンでエースとして君臨してきたルーネーが復帰し、他にもGKに若手のピックケードを起用してある程度の成功を収めている。ただ、一方で大型CFのルカスを放出したダメージに苦しんでおり、得点力不足が最大の弱点である。
アン・スタジアムは今日、立ち見が出るほど観客が大量になだれ込み、大盛況であった。現在のリヴァプール・レッズはリーグ4位に甘んじているものの、メンバーは史上最強とまで謳われるほど豪華である。エースのコウケーニョの移籍の話も加熱しており、このメンバーを見れるのは今だけということで、レッズファンもブルーズファンも会場に駆け込んだのだ。
会場は大盛り上がり。レッズファンは元々情熱的であり、今回もその情熱を発揮してレッズを応援する。相手のブルーズもちょっと圧倒されている。
試合は、まさに今季のレッズの集大成とも言えるような見事な展開となった。コウケーニョ、マニャ、秀徹、サリーによる完全な連係プレーで相手を圧倒。歓声だけでなく、プレー内容でもブルーズは圧倒されることになった。
レッズの攻撃はハマらずに不発となることが多い。それ故の敗北もしばしばある。ただ、ハマればそれは強力であり、ハマって負けたことはない。
前半12分、相手のボールを奪ったデークが精度の高いロングフィードを繰り出せるロバートに渡し、彼が左足からロングフィードを出す。相手の最終ライン際にいた秀徹はロバートからパスを受けると、足元でするっとトラップし、瞬時にマニャにパスを出す。
ボールを受け取ったマニャは一人を素早くかわすと、左外側のスペースに走り込んだ秀徹にスルーパスを出し、ペナルティエリア左側で秀徹は再びボールを受けた。中を見れば相手は2人。だが奥に走り込んでいるサリーを確認した。
中に向かって秀徹はアウトサイドでパスを出し、ボールは半円を描いてサリーの足元へと正確に送られる。あとはサリーもゴールへと蹴り込むだけだった。
特に、この試合はコウケーニョの働きがよく効いていた。やはり、どこにでも顔を出してボールを受け取り、攻撃の流れを作れる選手というのは潤滑油の役割を果たし、チームの攻撃を円滑に進める上で必要な存在だ。秀徹は以前クラップ監督とコウケーニョの会話を盗み聞きしていた時のことを思い出した。
そして、本当にコウケーニョがこのチームから抜けるならどうなるのだろうかと考えてみる。彼は9ゴールと6アシストという素晴らしい記録を出しているが、試合の中身を見れば数字に出ているもの以上の貢献をしている。彼はチームにとって必要不可欠だ。
2-0で試合を折り返した後、思い切ってドレッシングルームにてコウケーニョに移籍のことを尋ねてみるが、何も答えない。
「今日の活躍を見て、やっぱり残ってほしいなって思ったんだ。」
秀徹はついついそう口に出すが、ハッとしてその後に黙り込んだ。いかにチームにとって必要であろうとも、彼の人生は彼が決めるべきであって秀徹が口を出すべきではない。それに、残留という道が決定的に誤りだったとわかった時、彼に責任は取れない。
釈然としない思いを抱えながら、お互いピッチへと再度向かった。
後半8分、秀徹はコウケーニョのスルーパスから裏抜けを成功させ、キーパーとの1vs1もループシュート (爪先などでボールをすくい上げて蹴ることでボールを浮かせるシュート)を打って競り勝ち、1ゴールをあげた。これがまるで別れのアシストのように思えた。
ブルーズのメンバーではルーネーが孤軍奮闘している。彼はゲームメークからシュートまでをこなす、まさに現代型OMFであり、これまでもマンチェスターユニオンが獲得した様々な名手と共演して彼らを引き立てながら自身も結果を残してきた。ただ、ブルーズの他のメンバーのクオリティはプレミア・リーグでやっていくには然程高くない。
チームの状況は、皆がルーネーを頼って彼が位置するOMFへとボールを渡すが、そこを中継させようにもパスするターゲットがいないという状態だ。レッズも、その辺は心がけており、新たにアレキサンダーに代わってレギュラー入りしたRSBのゴメロも守備に徹している。
ただ、このゴメロが守備に徹していられるのも、コウケーニョが右サイドにも顔を出してサリーの攻撃を補助しているからだ。コウケーニョがいなくなったら今の攻撃パターンは半減するだろう。
(俺が何とかしなきゃいけないのかな。)
そんなプレッシャーを秀徹はひっそりと抱え込むことにもなった。
試合終了間際、フリーキックのチャンスとなる。コウケーニョと秀徹がフリーキッカーで、秀徹はプレースタイル的にも被ファール回数が多いため、彼がファウルをもらったら彼が蹴り、他はコウケーニョが蹴るというきまりだ。
今回は秀徹がファウルをもらったが、目で合図してコウケーニョに譲る。
「旅の餞別だよ。コウケーニョ、君がいなくなったら寂しいし、チームも変化を迫られることになるけど、俺が何とかしてみせる。その代わり活躍してくれよ。」
その言葉を聞いてコウケーニョは思わず涙する。彼にも不安はあるし、忠誠を誓っているレッズのプレミア・リーグ初優勝もチャンピオンズリーグ優勝も見れないまま去るのは辛い。そのメンバーに自分がいないのもなお辛い。
ただ、それを心配して言葉をかけてくれる友人を得られたことに満足感も覚えている。また、彼ならば自分がいなくてもチームを良い方向に導いてくれるだろうと確信する。
「大丈夫か、コウケーニョ!」
「無理すんなー!」
観客からは彼を心配するサポーターの声も聴こえる。
(ここを去るのがより辛くなるじゃねえか…。)
心の中で悪態をつきながらコウケーニョはフリーキックの体勢を整え、ホイッスルを待った。
「ピーッ!」
とホイッスルが鳴ると、コウケーニョはこのフリーキックに願掛けをしてボールを蹴った。上手くいきますようにと。
ボールはカーブしながら相手が作る壁を越え、ゴールの左下の隅へと吸い込まれていく。どうやら神は加護をしてくれそうである。
(どうか、シュウトを世界一の選手にしてやってください。)
それこそがコウケーニョの偽らざる思いであった。
〜〜〜〜〜
クリスマスも終わり、プレミア・リーグはオフシーズンに突入した。レッズは19節が終わって4位とそこそこの成績を収めている。サリーは16ゴールをあげて得点ランキングでトップを走っている。が、15ゴールをあげているケレンがすぐ後ろに迫ってきており、かなり危うい。
秀徹は9ゴールをあげており、得点ランキングではマンチェスターユニオンのルカスに並ぶ7位である。すでに日本人によるプレミア・リーグ史上最高得点を叩き出している。日本ではワールドカップを目前に控えているため、秀徹フィーバーが巻き起こっている。
コウケーニョはやはりバルサシティへと移籍するようだ。リヴァプール・レッズ史上最高額の1億4000万€ (約182億円)での移籍だ。
彼に思い入れ深いマニャやヘンドレーソンはその移籍をとても悲しんだ。ただ、クラブにとっても仕方のない移籍である。今夏に獲得したデークにかかったのは9000万€。今では納得の額ではあるが、当時は高過ぎるとファンの内で抗議活動まで行われたほどで、その投資額の回収には必要不可欠な売却なのだ。
「じゃあな、コウケーニョ。」
秀徹は静かにため息を吐き、別れを悲しんだ。自分が去ることは二度経験したが、残されて誰かが去るという経験はあまりしていない。特にチームの中核をなすような選手がそうなるという経験がなかった。
(俺も今後の身の振り方を考えなきゃな。)
高橋秀徹
所属 リヴァプール・レッズ
市場価値:1億5000万€
今シーズンの成績:21試合、15ゴール、7アシスト
総合成績:83試合、60ゴール、30アシスト
代表成績:5試合、4ゴール、1アシスト
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