vsローマ

思ったよりも厳しいシーズンになりそうだ。それが秀徹がリーグ第9節までを終えてみての感想である。9節まででリーグに7試合、カップ戦に1試合出場した。結果は7試合2ゴール2アシストと、1試合0ゴール0アシスト。総合して8試合で2ゴール2アシストだ。しかも、あれから奪ったゴールはPKでの一発のみであり、実質0ゴールである。

ドリブルは相変わらずなのだが、やはり抜いてからどうするかという問題と、シュートを打つのにどう持っていくかが課題となっている。

これは以前苦戦した、シュートの際のボディバランス調節とはまた別問題だ。シュートを打つときには当然シュートを打つだけのスペースや時間が必要となる。それを確保していないのに打とうとすれば、ボールはなす術なく奪われてしまう。ただ、ペナルティエリア内でそれを確保させないディフェンスをセリエAのチームはしてくるのだ。それだから非常にシュートが打ちにくい。

特に5節で対峙したユヴェ・トリノのディフェンスは固かった。彼らは組織的なディフェンスをしてきて、特にゾーンの間で潰しに来るいわゆるゾーンディフェンスによって秀徹は得意のドリブルすらも中々上手く行使できなかった。正直、ミュンヘンとは比べ物にならないほどの守りの固さだった。

その代わり、ミュンヘンほど攻撃陣は強くなく、決まった戦術に基づくと言うよりは個の力に任せた戦い方をしていたが、それでもやはり強かった。

ディブラによるドリブル突破なんかはやはり圧巻だったからだ。左足でボールを持ってステップを踏みながら距離を詰め、相手の出方を伺いつつ一気に左右のどちらに切り出してドリブルしていく。攻撃のバリエーションも豊かで、本当に上手い選手だ。


チームとしても3勝4分2敗と苦境に立たされている。特に得点不足に喘いでおり、9試合で決めたゴールはわずか10点。トップ層とは倍近く違う。何しろ、トップスコアラーが3得点のバッキなのだ。このままではチームは確実に出場権を獲得できない。


(どうしたものか。このままでは監督を解任されてしまう。)


焦った監督が捻り出した策がフォーメーションチェンジである。では、誰が必要で誰が必要ではないかをよく考える。

まず、GKとDFについて考えたが、これはほぼそのままで良い。GKのドンナモンジャは17歳なのに上手くやっているし、DFもロマニョーレを中心に固い守りを構築できている。

次にMF。これまではベテランのモントレーを出していたが、かなり高齢選手になってきた彼は運動量の都合上、ディフェンスすることに必死になっている。しかし、監督の目指すサッカーをするためには、CMFであろうと前線に出て攻撃参加して貰わねばならない。そのため、二列目から飛び出して攻撃ができるクロアチア代表の大型MF、パリャピッチを採用することにした。

また、今季2試合しか出場していない本多だが、紅白戦などでは活躍できていないものの、Aチームに出して秀徹と組ませると非常に調子が良くなっている。まだゴールはないがアシストも記録している。あまり監督は彼のことが好きではないのだが、今後は積極的に採用することにした。


そして、一番の問題となったのが、やはりFWの人選だ。CFはバッキで良いのだが、お互いに仲の悪いLWGの秀徹と、RWGのサソのどちらかは変えねばならない。監督は迷った挙げ句、CFも出来て一応結果も出しており、ドリブル成功数の高い秀徹を選んだ。

ここから4-3-1-2というトップ下としてOMFを置く形をとって、秀徹は2トップの一角として試合に出場することになったのだが、これはウイングからのサイドアタックを中心に据えるという宣言を覆すことでもある。ミランのファンやメディアもこの決定を批判したのだが…、結果的にこのフォーメーション変更は功を奏することになった。



フォーメーションチェンジを行ったミランが第10節で戦ったのは、現在首位のユヴェにぴったりくっついて二位となっているローマFCだ。

今年はこのローマがとにかく強い。右サイドからはモハメド・サリーがその有り得ないほどのスピードでドリブルを仕掛け、隙あらばカットインからゴールも叩き出す。その隙が無くとも、中央に構える現在得点ランキング首位を爆走するジャコがゴールを決めるのだ。彼は身長が高くフィジカルも強いので、ヘディングだろうと抜け出しだろうと、ペナルティエリア内での混戦の中だろうと確実に決めてくる。とても相手からすると厄介な相手だ。


今日のミランはトップ下に本多を置き、中央にかためた中盤の厚みで勝負する。この前のクラブミラノの戦術に似ている。ただ、CFに入っている秀徹は足元でもらって独力でシュートに持ち込める選手で、バッキは裏抜けやペナルティエリア内での回しからゴールを決める選手で、クラブミラノよりかは戦術と人選がマッチしている。

試合が始まると、4-3-3をとるローマはミランが以前目指していたようなサイドアタックからの崩しを開始した。サイドには技術もスピードもあるサリーとシャーレビィが配置されており、非常に強力だ。しかも中には身長の高いジャコなどもいる。クロスも選択肢にあるのだ。

特にエジプト代表のサリーのドリブルは上手くて速い。その攻撃にミランの右サイドバックは全く対応出来ていない。特に、スピードを出し始めてからの加速力がかなり凄まじい。

今のところシュートを打たれるには至っていないが、危険この上ない攻撃力の持ち主だ。



何とかして二人がかりでサリーを抑え込み、ボールを奪取すると、今度は中盤を経由して攻撃へと持ち込む。この4-3-1-2にして良かったことは、もちろん中央からの攻撃もできるのだが、中盤の3が少し下がり目にポジショニングすることで、サイドバックによるオーバーラップを促進させることができ、サイドからの攻撃も選択肢になることだ。

また、秀徹のような本来はサイドアタッカーである選手を中央に置くことで、彼がスペースを見つけ次第サイドに流れることも想定され、攻撃パターンも確保できる。当てずっぽうな戦術だが、現状のミランでできる最大の攻撃力を誇っていた。


本多がボールを持つと、彼は前を向いてチャンスを伺う。彼は特別ドリブルが上手いわけではないのだが、フィジカルが強く、パスセンスもある。ここまでオランダやロシアなどでも活躍してきた。そんな彼だから、ボールキープには自信があり、味方が上がるまでの時間稼ぎを一人でこなせる。

そして、味方の2トップが上がったのを確認すると、左足でフライスルーパスを繰り出す。そのパスの予測される落下地点はペナルティエリア付近。秀徹からもまだ距離は10m以上離れており、DFに追いかけられながら確保しなくてはならない。


秀徹はボールを取るために抜け出す。ほぼ完璧なタイミング。DF陣もまだ動き出せていない。これは取ったと思った秀徹に、ただ一人、CBにして異常なスピードを持ち合わせるマナラスが反応し、それを必死においかける。ここまで速いDFに追いかけられた、というか並走されたことのない秀徹は驚く。全力疾走してるはずなのに突き放せない。

このままではシュートに持ち込むことはおろか、下手したら先にボールに触れないと感じた秀徹はボールの手前、何とか左足でスライディングして右の少し後ろを走るバッキへとスルーパスを出した。

足も多少マナラスの方が長いので、自分が先に触れるだろうと思っていたマナラスは秀徹に足を引っ掛けられて倒れる。だが、サッカーではボールを先に触れば相手を倒しても余程悪意がなければファウルにはならない。


ボールが送られてきたバッキはそこからさらに加速してゴールへと向かう。キーパーとの1vs1も着実に決め、前半4分、不振に喘ぐミランによる先制点が生まれた。



意外にも強いミランを警戒したローマはとにかくクラブの伝統的な強みであるサイドアタックによる同点弾を狙う。ただ、ミランもそれを指をくわえて見ているわけではなかった。秀徹は特にサリーの様子を見て、


(あのスピードとテクニック…、俺なら止められるかもしれない。)


と感じた。本来ならすべきではないかもしれないが、このままだといつかやられてしまう。秀徹は物は試しだと思って、一度サリーを止めるためにディフェンスしてみた。

急に守備参加した秀徹にサリーや味方のバックも驚くが、一度秀徹の好きにさせてみる。ミランの皆が練習などで秀徹の足の速さだけでなく、そのディフェンス能力の高さを知っていたからだ。カバーリングなどの戦術的なディフェンスは苦手だが、対人ディフェンス能力はCB並に高いのだ。


サリーは彼が寄せてきたことに驚きを隠せない。さらに彼はサリー並に速いのだ。瞬発力では上回ったサリーだが、トップスピードに乗れば秀徹は互角以上の速さである。

ただ、サリーはスピードだけで相手を抜くようなただのアスリートタイプの選手ではない。トリッキーな技で仕掛けたりはしないが、ボディフェイントやキックフェイントなどを駆使して、方向を切り返したりして相手を抜き去る。これには秀徹も苦戦させられた。もう少しで取れそうな位置にあえてサリーはボールを置いて、ドリブルするのだ。しかし、下手にそれに足を出せばすぐに抜かれてしまう。非常に厄介な相手であった。


とは言え、スピードだけで対抗できる秀徹がサリーの進行方向を塞ぐだけでサリーのドリブルの脅威は少なくなる。そこに他の中盤やDFの選手が殺到すればボールは取れる。そんな強引な方法でサリーは何とか抑え込むことに成功した。


前半29分、秀徹がサリーのボールをやっと独力で奪い取ることに成功した。デュエルを仕掛ける度に動きが成長していく様子に、サリーは不気味さすら覚えた。

秀徹がボールを奪って前を向くと、そこには前線にはあまり味方選手がいない。リーグ屈指の攻撃力を誇るローマの攻撃を食い止めるために、チーム全体として守備意識が高まっていたのだ。


(じゃあ、俺だけでいってやろう。)


そこで秀徹はそう企んで動き始める。最近さらに速くなったその脚力でピッチ左サイドを爆走する。相手のDFやMFも危険を察知して秀徹を止めようとするが、秀徹は全く動じずにドリブルを続けた。

まず、ハーフラインを越えた辺りで二人の中盤の選手に遭遇する。5mほど二人は距離をあけ、前にいる選手に対してもう一人は右斜め後ろで構えていた。

秀徹はそこで一旦止まり、位置を調整する。そして、納得する位置に入り前にいた選手に股抜きを仕掛ける。股をあけていた前の選手はするっと抜かれ、秀徹は左側からすぐに回り込んでボールと合流して攻撃を再開した。もう一人の選手も反応できなかった。

先程の位置の調節とは何かといえば、もう一人の選手から見て死角に入る位置の調節だ。実際、もう一人の選手から秀徹は見えていなかった。だからこそ急に味方の股からボールが出てきても反応出来なかったのだ。


その後、ペナルティエリア付近で二人に囲まれても、シザースを連続して繰り出し、左足から四回してから右に切り返して一人をかわし、その切り返した際の隙を狙って足を出したもう一人を、咄嗟に右足でエラシコして出して来た足の下を通して抜き去り、ゴール目の前でシュートを放った。

これにはアウェイで行われたゲームなのにも関わらず、スタンディングオベーションが行われた。四人を突破してからのゴール。中々できる芸当ではない。


その後、さらにローマは秀徹と本多に速攻されて崩され、後半35分に失点。大方のローマ優勢との見方をひっくり返す、3-0での勝利がミランにもたらされた。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ→ミランfc(Loan) 

市場価値:4500万€

今シーズンの成績:9試合、4ゴール、3アシスト

総合成績:39試合、24ゴール、16アシスト

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