エピローグ

「はぁ……はぁ……ちょっと。――何なのよ。もう!!」


 夜の道を我が家に向かって走る。


 アタシは今何者かに追われていた――


 ホントはバイトはもっと早く終わるはずだったけど、新しいスマホを買うためにシフトを多めに調整してもらっていた。それで帰るのが遅くなった。


 ――通い慣れた道だから別に暗くなっても大丈夫かと思って軽く考えてたらこれだ。


「誰かぁー!! 誰かいませんかぁー!! 助けてくださーい!!」


 さっきから助けを求めながら走っているけれどまったくの無意味。元々人通りの少ない道ということもあって、さっきから誰ともすれ違わない。

 せめて近隣住民に声が届けばとも思うけど今のところ音沙汰なし。


 聞こえていないのか、あるいは他人事だと思って無視しているのか。


「返せぇー!! ――チのスマホー!!」


 後ろから何やら叫んでいる声が聞こえてくる。かろうじて聞こえてきたのは、返せとスマホという言葉。


 スマホ……? スマホ――!?


 アタシはバカだ。何かあったときはスマホで助けを求めるのは初歩の初歩だ。それがなくて何おためのスマホだ!


 アタシは走りながらスマホを取り出し電話をかけた。


『はい。どうしたの則子?』


「あ、カレン!! アタシ今追われてて――マジ助けて!!」


『はぁ? 何の冗談。――ってか、息荒くない?』


「冗談じゃないってば!! 走ってんの!! 追いかけられてんの!!」


『はぁ!? マジで!? 警察には連絡したの?』


「…………」


『え? なんで黙るのよ?』


 カレンの言葉で思い出した。こういうときは先ず警察だ。焦ってたせいでいつもの癖が出て友だちに電話をかけてしまったのだ。


「ゴメン! 切るね」


『え? あ、ちょ――』


 アタシは通話を強制的に終わらせて警察に連絡する。


「えっと……」


 警察って何番だっけ?


 ヤバい――! テンパって番号ど忘れした。


「ああでも、119か110よね」


 取り敢えずどっちかに連絡して間違ってたらもう1つにかければいい。


 走りながらスマホの番号をタップ。


 別のことをやり始めるとアタシの意識はそっちに集中してしまう。そうなると必然的に走る速度が落ちて――


「イ――ッ!?」


 後頭部を硬いもので殴られた。そんでもってアタシはそのまま地面に突っ伏した。


「ぅ……ぁ……」


 脳が揺れてる。


 すぐに立ち上がって逃げなければと思っているのに体が動かない。


 直ぐ傍に人の気配を感じる。その人物は当然アタシを追いかけていた人物だ。


『はいこちら119番。火事ですか? 救急ですか?』


 スマホから聞こえてくるのは119番対応。


 ――アタシ番号ミスったぽい。


 傍にいた誰かがアタシの手からスマホを奪って、


「すいません。間違えました。ごめんなさい」


 勝手に通話を切った。


 その声は女性の声だった。てっきり暴漢の類だと思ったけど違ったようだ。


「このスマホ。やっぱりモッチーのだ」


 ――モッチ? 誰? っていうか、そのスマホはアタシのだ。


「ねぇ、あなたモッチーとどういう関係?」


 意味がわからない。


「ア、ラシは――ッチ。……らない」


 アタシはモッチなんてやつ知らない。


 それを伝えようと思ったけど、まだ頭がグワングワンしててうまく喋れなかった。


「ちょっと何言ってるかわかんないんだけど」


 誰のせいだと思ってるんだ。それもこれも全部アンタがアタシの頭を殴ったせいで……あれ――? この状況マズくない?


「はぁ……話せないんならいいや。――あ、でも、モッチーのスマホ盗んだ報いは受けてもらわないとね」


「ぬす、んでない……あ、たし……だし……」


 さっきよりちょっと喋りやすくなっていた。


「はいはい。盗んだ人はみんなそう言うんだよね」


 だったらどうしろと?


「んじゃ――」


 ブン――と風を切る音が聞こえた。


 それが何の音か理解する前に――


「――せーのっ!!!!!」


「ぅが……ッ」


 後頭部にものすごい衝撃が走って、アタシは意識を失った……

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