第36話 修繕
とりあえず、一旦船にはダーカスに帰って貰う。
距離が近いから、1日あればダーカスのトーゴまで船はたどり着くはずだ。
それまでの間に、雷に会うかどうかは完全に運だけど、たくさん魔法を使って、船のスピードを上げられるだけ上げれば、確率としては随分と安全になるはずだよ。朝とかの安全な時間に走るだけ走っちまえばいいからね。
で、もう1艘の方を回して貰おう。本当に、無理をしても2艘作っておいてよかったよ。
で、で、そこまで考えて。
あったんだよ、完成済み避雷針。
トーゴの灯台だ。
思いついた瞬間に、俺、おもわず小躍りした。
後にも先にも、自分の人生の中で、小躍りとか実際にすることがあるとは思わなかったけど。
トーゴで
で、短期間とはいえ、
そのあと、避雷針アンテナは規格をきちんと決めて作り出したから、その1本は規格外になってしまって空に浮いていた。だから、それをトーゴのネヒール川河口に運んで、灯台に流用したんだ。
で、海沿いに設置するものだから、錆止めの処理もきっちりと済ませてある。
つまり、そのままブルスに持ってくるだけで、用は足りてしまう。
灯台の方は、まだ船が2艘しかないし、夜間の沿岸航行は基本的に自粛している。もう少し航海術が上がってからでないと、座礁事故の元だからね。だから、しばらくは撤去しちまっても困らない。
俺の考えを聞いたルーは、王様の元に走る。
トーゴの灯台の撤去許可を貰うためだ。
俺は、俺の配下の船乗りたちに灯台輸送について話すとともに、ヴューユさんに頼んで、トーゴの村長のデミウスさんへの手紙を書いて貰った。
なんたって、土木工事に必要なのは人手だ。
そして、あそこは農閑期にも関わらず、藁半紙作りに大車輪の忙しさのはずだからね。
うまくすれば、明後日にはしっかりした避雷針が立つ。
だから、それまでに俺達は、ブルスの
でも、ま、ここブルスでも石工さん達は凄腕だ。
規格ブロックは、国境を超えたここにもある。
つまり、工期は余裕ってこと。
ただ、避雷針の先端の高さが高いほど、雷はきちんと落ちてくれるからね。できるだけ土台も高く設置したい。
あとは……。避雷針が届いたら、先端を改造して、高さを変えられるようにできないかな。魔素流のときは低く、そのとき以外は高く、だ。
倒したり起こしたりは、大きさからして重労働だからね。簡単にできる方法の検討もしておくべきと思ったんだ。
とりあえず、安全が確保された前提で、
どうみても、もう、メンテナンスという範囲じゃない。
とりあえず、雷は、文様の先端が部材化して、
そして、その屋根の周囲が炭化して崩れて、雨が漏る。応急処置も、文様をいじるのが怖すぎて、修繕の体をなしていない。
もう仕方ないから、炭化した木材部分を大きくえぐり、他の木材を削ってはめ込む。
文様は、金の棒で継いで室内から屋外へ出す。
その金の棒の頭が一番高くなるように気をつけながら、屋根材を葺き戻す。
これで、雨仕舞いはほぼ、いいだろう。
ほぼというのは、この国の気候を知らないからだ。
ダーカスはゼニスの山から吹いてくる風が乾いていて、雨が少ない。
その常識じゃ、たぶんダメだろうな。
で、あまりにバケツを引っくり返したように降るとしたら、さらにもう少し手を考えないといけない。単に上から下と、毛細管現象だけでない流れが生じるかも知れないからだ。案外、水ってのは暴れるんだよ。
おそらくは、今差し込んだ金の棒も、傘型にして、周囲の屋根材を覆う方が良かったのは判かりきっている。でも、これもこの国の技術では作れないんだ。あとでダーカス製に交換してもらうことになるだろうな。
そう考えると、ダーカスの技術力、あらためてすげぇなぁ。
文様自体は、いつものように埋め金をして補修していく。
ゴーチの木の樹液のゴムもリゴスで仕入れてれてあるから、テスターで導通の確認後、しっかりと塗っていく。
ルーが変わらずそのあたりの作業の指揮をとってくれているので、俺は他のことに集中できるんだ。
で、潜り込んだ床下も酷いもんだった。
水たまりがいくつもある。
これじゃあ、木造建築、保たねぇよ。
どうやら、周囲の街づくりで水の流れが変わって、海手前のここに集まってきているようだ。
暖炉に火を入れて、床下への出入り口も開けっ放しにして、少しでも空気を動かして乾くようにした。
その上で、このあたりはもう仕方ないから、ブルスの王様のところに直談判という報告しておいたよ。
水路を付け直すか、
ただ、早急に手を打たないとヤバい。「死ぬよ、アンタ」って、この世界に来てから2回目の脅しを掛けたよ。
ともかく……。
そこまで終わらせて、今まで見たどの
最後の最後にきてだけど、これはダーカスから行動を共にしてきたブルスの技術者達の手に負える代物じゃなかった。来てよかったよ。もう、本当にぎりぎりだ。
来年を俟たずして、炎上していたかも知れないなぁ。
この世界では、こうやって国が滅びてきたんだって、そう思ったよ。
で、そうこうしているうちに、避雷針の鉄塔を積んだ船も戻ってきた。
ブルスの街の人達も、大勢集まってきた。
なんかさ、ダーカスで
避雷針アンテナとして作られ、次に元灯台、そしてこれからは避雷針となる鉄塔は、船から下ろすのも大きくて重くて一苦労。
積むときの方が、遥かに楽だったはず。
なんせ、港の岸壁の高さが違うからね。トーゴなら、潮の状態で船べりよりも岸壁の方が高い時間がある。でも、ここじゃいつだって、岸壁は船べりよりはるか下だ。
でも、人数は下ろすときの方が、倍以上多く集まっていただろうなぁ。トーゴはまだ140人くらいしかいないし、ここじゃあ300人じゃ利かない人数の野次馬が、一斉に協力してくれたからね。野次馬の人数はもっといたけど、それ以上は割り込む空きもなかったんだ。
明日の自分の命を保証してくれる鉄塔だからね、みんな、他人事じゃないんだ。
で、ダーカスの船が傾くほど人が乗り込んで、わいのわいのと強引に運び出していった。
そのあと、船がすうって浮き上がったからね。まぁ、よほどの輸送だったってことだ。
ダーカスの王様も見に来ていたけど、その感慨深そうな表情の意味は解るよ。
ダーカスは、他国を救えるほどの力を付けていたんだよ、この1年で。
王様、ほとんど寝ないで頑張っていたからね。
感慨深いものがあるだろうなぁ。
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