第27話 航海
終わりだ。
リゴスでの、予定されたすべての行程が終わった。
大量の羊皮紙が、双方の覚書から条約レベルまで交わされて、うず高く積み上げられている。これら写しは、リゴス側からも書類が改ざんされないよう見張られながらエディとブルスに運ばれ、間違いなく約束されたものとなる。
また、これらの条約は、エディとブルスにおいても詳細に検討され、ダーカスとの条約の雛形になっていく。
そういう意味では、まだ訪問国は2国を残しているけど、今回の外遊は山を越したと言っていい。
これで、俺たちはリゴスの街を離れ、川沿いを西に下って船に乗る。そうすれば、あとは寝ていてもエディまで連れて行って貰える。
この行程は、距離の割りに短く済む見込みだ。
なぜなら、リゴスの川沿いの道を下った港の街イズーミにも、
なので、人の往来も多いし道はよく整備されていて、ずっとなだらかな下り坂。
しかも、ダーカスからコンデンサが届いた。
俺達が、リゴスを発つ前に間に合ったんだ。
となると、それを運んできた荷車があるってことで、荷物の輸送も楽になるし、疲れた人は荷車に乗れるからさらにスピードがアップする。
ばたばたと支度が整って、出発の、というよりリゴスとお別れの儀式。
街外れに、リゴスの王様と王宮の人達。魔法学院の魔術師さん達に、ギルド本部の人達。そしてさらに、リゴスの商人組合の重鎮さん達、みんなでお見送りに来てくれている。
本郷はまだ旅に耐えられる状態でないので、置いていく。
リゴスの王様から、ダーカスの王様に贈り物が渡された。
羊皮紙が一枚。
で、中身は、この先3年間の、リゴス産ゴーチの木の樹液の優先買取権。
これは、ある意味とんでもない。
リゴスは、ダーカスの化学産業の独走を、3年の間許すと決めたのに等しいからね。
あとこれは、ミライさんがリゴス領に入ってからも、ゴーチの木の治療を続けてくれたことに対するお礼という意味もある。
まぁ結局は、リゴス国内の、
また、あいつには銀貨で報いてやらないとだなー。
で、お互いにあいさつしあって、再会を約束して再び歩き出す。
王様、心はホームシックでも、身体はたくさん歩いたうえで十分な休憩が取れて、絶好調みたい。俺達をおいて、すたすたと歩いていってしまう。
俺達、その後を慌てて追いながら、リゴスの人達に手を振る。
やっぱり、別れってのはどことなく淋しいな。
俺達、出発のときと人数、まだそうは変わらない。
デリンさんと最年少の魔術師さんが、留学のために残っただけだからね。
この2人とのお別れ会は、昨夜済ませている。
リゴスの技術者も、これから行く港町イズーミの
もう、みんな気心が知れているので、相変わらずわいわい話しながら歩く。
で、俺達、歩きだしてすぐに、この道がヤバいことに気がついた。
無意識に小走りになっちゃうんだよ。なだらかな下り坂で、あまりに歩きやすいからだ。荷車だって、引っ張るという感じはない。坂道を転がっていくのを、軽い力で制御しているだけだ。
でも、走れば当然疲れるからね。
気をつけて歩かないと、だ。
それ以外は、今までの歩きの旅と変わらない。てか、ここまでいい感じの道ならば、ケーブルカー作れるんじゃないかな。ケーブルシップで船を上り下りさせるより、よっぽどいいかもね。
リゴスの技術者にちらっと話してみたら、興奮していた。彼らは、ダーカスのケーブルシップを見ているから、頭の中にイメージが明確に湧くんだろうね。
「アイデア料は要らないからさ、実現させてよ」
そう言ったよ。
内陸の首都と港を結ぶという意味じゃ、ダーカスと事情は変わらないからね。きっと役に立つはずなんだ。
歩き続けて、2泊した翌日の昼、港の街イズーミに着いた。
港といっても、まぁ、海産物をちょぼちょぼと獲るボート未満の乗り物が10に満たない数あるだけだ。それより、
そんな状態なので、ダーカスから来た船は、とてつもない巨船に見えたよ。
船には、エディへ行くための物資が積み込まれていた。
大部分のものはダーカスから持ってきていたけど、水とか生鮮食品はここで供給したらしい。ま、俺たちも人数いるからね。
リゴスの技術者ともいよいよお別れだ。
彼らは、ここで
一つの国に、
俺達が乗り込んで、すぐに出航。
俺の配下のうちの8人が、操船してくれる。
帆を上げるさまが、もうとても手慣れていたよ。
で、一旦は西に進んで沖に出て、それからは南下したい。
それなのに、風向きは北風。
沖にさえ出ちゃえば、魔法を使わなくても天然の風で船は進んでくれそうだけど、それまでが大変。座礁しちゃったら、目も当てられないからね。
いよいよ、魔法による航法が近くで見られるって、わくわくしたよ。
で、最初は乗っていたはずの、ダーカスの魔術師さんがいない。最初はあれって思ったけど、もう必要ないんだと。風吹かす魔法だけ使えればいいし、魔素はコンデンサがあるしで、省力化されたんだとさ。
で、魔法が使える1人が自分の前にコンデンサを置いて、ちょこちょこって感じで呪文を唱えると、ばんって帆が一気に膨らんだ。
一気に船が走り出す。
なんかもう、モーターボートみたいだ。
沖にでて、船長役が羅針盤を見て、「魔法解除」って叫ぶ。
膨らんでいた帆がぱたりと垂れたけど、間を置かずに再びゆるゆると膨らんだり垂れたりしだす。
あー、こっちは天然の風なんだね。リズムがあるよ。
……なんかいいなぁ。
帆船の旅って。
魔法の風の走りもいいけど、急ぎでなければ天然の風、もっといいかも。
波を切る音、後ろから追い越していく風、流れていくリゴスの大地。
きっと、エディ、ブルス、ダーカスと、荒涼とした風景は変わらない。でも、1年後、2年後、5年後って緑が増えていくはずだ。
そんなの眺めながら、定期便だとしても船の旅を続けるのって、それはそれで良い仕事な気がしたよ。
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