第25話 王様達の到着 1


 ルーにしごかれて、棍棒なんかもチラつかされながら勉強して、コーヒーを熱望してはチテのお茶でごまかされて、って毎日が終わった。

 ダーカスの王様が、各王の出迎えにトーゴまで行く。そのお供で俺もトーゴまで行くんだ。

 正直、ほっとするよ。

 「これでギャラがおんなじ」ってなら、俺は傘を回す役のほうが楽。

 って、我ながら、古っ!


 さてさて、王様のトーゴへ行く予定は、実際の時間より1時間遅い時間が公開されている。

 セキュリティのためだ。

 だから、王様と同行する俺たちは、また早朝の暗いうちに屋敷を出た。

 今回は、もだ。

 正直、ちょっとどころでなく怖い。並んで歩いていても、威圧されている気がするよ。


 ネヒールの大岩でエレベータに乗り、プラットフォームに降りる。

 うん、これだけ聞くと、どこぞの地下鉄で出勤するみたいだよね。

 ともかく、そこにはもう書記官さん達を始めとして、トーゴに行くメンバーが揃っていた。あとは、武官のトプさんに守られた王様待ちだ。

 帰りには、3人の王様と同行することになるから、定期便のケーブルシップに余裕を持たせておく必要がある。だから、案外行く人数は少ない。トプさんが往路の安全にこだわったのは、そのせいだ。


 王宮料理人さん達が腕をふるった、豪華なお弁当が積み込まれる。片道5時間から掛かるから、お弁当と飲料水は絶対必要。で、俺たちの分もあるけど、それ以上にトーゴに着いた各王に対するもてなしが必要だからね。

 もっとも、今回は、4歳の女王様に配慮して、特例として帰りは片道3時間での運行を予定している。


 いつもであればトイレは、途中で停まるエフスとトーゴの円形施設キクラの停船場で行けるんだけど、今回はエフスはパスとなる。だから、4時間は辛抱しないといけないので、ここで生体タンクを空にしておく必要がある。

 帰りは、全部停まるから良いんだけどね。

 

 いよいよ王様が来た。

 トプさんと2人で、エレベータでプラットフォームに降りてきた。

 そのあとで大臣も降りてくる。

 王様、初めてのケーブルシップだからね。イベント感があるよ。


 それぞれに挨拶を交わし、いよいよ出発だ。

 俺は、ここのところトーゴまでは歩きでの移動が多かったので、座っているだけで着く定期便のケーブルシップはありがたいよ。

 さあ、出発、出発。



 − − − − − − − −


 トーゴに着いて、トイレも済ませて、王様は開拓地や港の視察に入る。

 各王が着く予定時刻、魔術師さん達の風によって船は動くから、そうはずれないはず。だから、この際なので、視察しておこうって話になっていた。


 でも、その前に。

 1番できのいい藁半紙に記された、デミウスさんの村長任命の辞令が王様から直接手渡された。それも、村長だけじゃなく、一代貴族にもなっているらしい。王様、大盤振る舞いだよ。

 とはいえ、デミウスさんは、破壊活動からケーブルシップを守っている実績があるからね。この功はとても大きい。

 それに、奥さんになったラーレさんは、ここでギルドの支部の仕事をしている。その仕事もやりやすくなるはずだ。


 パターテさんにも、名誉村長の称号が与えられた。

 そして、王様が言う。

 「パターテよ。

 余が無理を言ってトーゴまで来てもらったが、見事、その責を果たしてくれた。礼を言う。

 そして、引き続き、来年の作までは、ここのいる者たちへの農業指導、よろしく頼む」

 「儂のような老骨でも、なんとか務まったようで、なによりじゃ。

 この頃、儂も若返ったようでの。あと1年くらいであれば、役にも立とうかの」

 ……まぁ、そうだろうなぁ。リゾートに出発するときの、パターテさんの元気さはハンパなかったもんなぁ。

 

 「ついては、選んで欲しいことがある。

 デミウスは一代貴族に叙した。同等のことをパターテにもとは思ったのだが、どうだ、パターテ、それとダーカスにいる息子のタットリに広い農地を与えるのとどちらがよい?」

 「王様、儂が老い先短いって言いたいのかの?」

 「余の口から、そんなことを言えるものか」

 王様、満面の笑みで言う。

 ああ、こういうことを言うときは、深刻な顔しちゃダメなんだな。俺、1つ学んだ気がする。


 「我が王よ、お心遣い、感謝いたしますぞ。

 一代貴族などにさせていただいても、儂はもう何年も保たんのじゃ。

 そこを取り繕ろわず、タットリに土地をと、そのご厚情、ありがたくて涙が出るわい」

 「パターテよ、そちには、別にもう1つ考えていることがある。

 ダーカス国内の、公衆浴場だけでなく、リゾートまで含む全浴場の一生の入浴権を与えよう。

 新たにできたところは一番乗りし、また、いつでもどこででも、好きに温まるがよい」

 「なんと、まあ。

 王様はまことの名君でいらっしゃるわい。儂としては、そちらの方が嬉しい」

 パターテさん、よほど嬉しいらしくて、感極まってしまったのか、王様の手をとってぶんぶん振る。

 そして、ずっと一緒に開墾をしてきたトーゴの若い衆の中には、その光景を見て涙を流しているのもいる。

 デミウスさんのムチに対して、パターテさんは実の父親みたいな飴の位置で、本当に慕われているんだろうなぁ。

 


 ルーが耳元で解説してくれた。

 「王様、よく考えてますね。

 デミウスは村長ですから、子供が有能か判らないので一代貴族に。実務優先ってことです。この先、港の管理の仕事も増えてきますからね。

 それで上手く行ったら、一代の枠を外すのかもしれません。

 つまり、今時点でのデミウスへの褒美とは別に、実務に有能でなかったら人を代えられるように含みをもたせているんです

 また、今、一代貴族にしておくと、この土地の什一税の1割が王と貴族の2割に設定されても、先々違和感がありません。

 あとからこの土地の統治を貴族が行うことにすると、その時に、税金が倍に増税されることになりますからね」

 ……なるほど。

 貴族経由で上納されとしたら、税は上がってしまうんだ。だから、最初からそう設定してしまうのか。

 でも、それでも2割って安いなぁ。


 ルー、続ける。

 「タットリに土地を与えるということは、実はこれ、実質的に男爵相当なんですよ。

 これも、その広い農地を耕せなくなったら、だれにでも売ってその土地を明け渡せってことですね。男爵なりの領地ということになったら、今度は売れず、取り上げられずってことですからね。

 あと、パターテには慰労の意味は足されても、デミウスと違って、その実績に武功はありません。その差もありますね」

 これもなるほど、だ。

 若手美人政治解説者として、デビューできるぞ、ルー。


 「でも、パターテさんの風呂の件は、マジ、羨ましいかも……」

 俺のつぶやきに、ルーが呆れた顔になった。

 「あのですね、『始元の大魔導師』様。

 あなたはダーカス国内の、全風呂を作っているんですよ。

 どこへでも行って、好きに入ればいいじゃないですか」

 「えっ、俺も大丈夫なの!?」

 「顔パスでしょう?

 なんでそう思いません?」

 「だって、電気工事したあと、施主の家に行って風呂に入るって行為はあまりに異常で……」

 「それとこれは違うでしょうに。

 『始元の大魔導師』様は施主側です!」

 ……えっ、そうなのかぁ。

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