第六章 召喚後150日から180日後まで(流通促進と防衛対策)
第1話 トーゴの鍾乳洞探検 1
魔術師のセリンさん、ブルスから戻ってきた。
荷車に積んだ機械とともに。
レンジャーのジャンさんも、予想通り雪を頂くゼニスの高山を超えて、エディから帰ってきた。
ブルスの王様もエディの王様も、ともにこちら側からの提案を了としてくれた。
冬になったら、ダーカスに来ることも
リゴスの王様もサフラの王様も了解って話になっているから、サミットの開催は決定。
で、サミットならいいけど、「世界王様会議」とかのベタな名称で呼ぶと、パタリ□の世界みたいな感じになるのはなぜなんだろ……。ちっとも常春じゃないけどな。
ともかく、トーゴの
ジャンさんが言うには、エディの王様、すごく前向きだったと。
というのは、ゼニスの山がある以上、人の往来は難しくて、両国は争いになりようがない。ならば、ダーカス持ちでエネルギーを供給して貰えるんだから、ありがたいって。
割り切ってるなぁ。
魔術師のセリンさんがブルスから持ち帰ってきた機械は、ざっと見てみたんだけどワケが解らない。
箱の中に、金と石、そして『魔術師の服』と同じような、冷たい金属にも感じる布が重ねられている。
それぞれの素性を、この世界の物品に詳しいハヤットさんに聞いてみないと、なんとも判断できないよ。
で、これは俺の仕事。
あとできちんと調べよう。
その一方で、ケナンさんたちのパーティーは、自分たちへの仕事の依頼を果たすべく、トーゴに先行しているケナンさんに合流するために出かけていった。
それも、ただ空手で、ではない。
パーティーで唯一女性の魔術師のセリンさんは、ギルドの出張所職員になる予定のラーレさんの護衛をしながら、トーゴに向かった。
弓使いのアヤタさんとレンジャーのジャンさんは、必要な荷物を持って、だ。
ケナンさんは、トーゴで下準備をしていて、必要なものとかを記した手紙を定期便で送って寄こしていたんだ。
トーゴの鍾乳洞の探検って仕事、俺も行ってみたかった。
ただ、足手惑いにしかならないのは自覚しているので、我慢したんだよ。
俺もトーゴからの帰りにちょこっと入ってみたけれど、どことなく生臭さがあって、なんか未知の生き物がいるんじゃないかという不安はあった。
洞窟の底を流れる、地底川にいる魚のせいかも知れないけどね。
ただ、この世界は一度開発され尽くしているから、未発見の生物やモンスターっていう可能性は低い。
いるとしたら極めて長寿の、そして時間とともにどこまでも大きくなる生き物だろう。ヘビとかだったら、やだなぁ。完全に水曜スペシャ○ルだよ。
ただ、俺、この世界では、まだ魚類と哺乳類しか見ていない。
昆虫はいないみたいだし、鳥類もいない。両生類と爬虫類もいないかもしれないけど、いないと決めてかかることもできない。現に俺、ケナンさんたちにカエルにされかかったし。
鳥類と違って、地や水に潜られたら判らないしね。
だから、なにが出てきますやら。
で、ここでちょっと話が前後しちゃうけど、この洞窟探検報告書は読んでいて、相当にどきどきするものだった。
自分の脳内の報告を読む声が、田ϕ信夫さんになってしまう。水曜スペシャ○ルの「探検隊」とか、幼い頃に、親父が見ていたからね。
こんな感じだよ。
* * * * * *
トーゴの洞窟に潜む、謎の巨大生物を見た!
その呪われた正体を求めて、ケナン率いるミスリル
しかし、パーティーを待ち受けていたのは、恐るべき暗闇と寒さの魔境であり、次々と底知れぬ危機が牙を剥いたのだ!
果たしてケナン達は、獰猛で狡猾な謎の巨大生物を捕らえうるのか!?
* * * * * *
いやね、報告書自体は冷静な文章だよ。
ケナンさん達、経験豊富な冒険者だからね。
読む俺の問題なんだよ。
どうも、「探検」って単語に過敏に感応して、修飾語を行間に過多に足しちゃうんだ。あと、
ともかく……。
ヤヒウの脂を染み込ませた松明だけでなく、魔法による照明のためのコンデンサとか、ロープとか防寒対策の服とか、防水バッグとかのたくさんの物資をダーカスから持ち込んで探検は始まった。
洞窟の入口から昔の遊歩道を外れ、深い底に入り込んでいく。
ただ、ケナンさん達に成算はあったらしい。
生臭い臭いがするということは、空気が動いているということだし、その流れを遡っていけば臭いの元に辿り着けるって。
なるほどね。
言われてみりゃ、そのとおりだよ。
臭いのしていない、すなわち洞窟の空気の動かない場所にいるかもしれないじゃんって疑問は、「洞窟の空気の動かない場所にいると死ぬ」っていう補足が書いてあって「なるほど」って思った。
この世界に酸素という概念はない。ルーも知らなかった。
でも、呼吸ができない気体があるってのは、解っているんだな。
考えてみれば、この世界、火山があって硫黄があって、硫化水素による事故もある。「呼吸ができない気体」に気がつくのも当然だよね。
で、松明を燃やすと、自動的に風上が判るから、その方向に辿っていったらしい。
また、松明が燃える場所では呼吸ができる。経験豊かな冒険者であるケナンさん達は、それを知っていたらしい。
問題は、その空気が入る口がどこにあるかということ。
どこかに洞窟が抜けていればいいけど、洞窟底の川の流れで空気が循環して動いているだけなのであれば、それで探検は終わってしまう。「生臭さの原因は川の魚、以上!」ってね。
ある意味1番好ましい結果だけど、そうにはならなかったようだ。
− − − − − − −
やはり、鍾乳洞には奥があった。
何本かに行く先は分かれていたが、選ぶ道は決まっている。
空気が流れ出てくる1本だ。
一筋の水の流れは、空気と逆に流れ込んでいる。
廃墟の任務であれば、剣使いのケナンが先に立つ。でも、ここは洞窟なので、レンジャーのジャンが先頭に立つ。
洞窟は、なだらかな下りが続き、徐々に狭くなった。
さらに細かく曲がりくねりだしたので、魔術師のセリンが
そう長い時間、明るさが保つわけではないが、コンデンサが複数あるので繰り返し呪文を唱えることになっても心配はない。
この場合、2つの選択肢があった。
周囲を明るく照らす方法と、パーティー全員に夜目が効くスキルを与える方法だ。
どこかの有人の建物への潜入であれば、迷うことなく夜目が効くスキルを与える方法を選んだだろう。
今回も、洞窟の底に潜む何モノかに不意打ちをかけるのであれば、その選択がベストではある。
それでも明かりを増す選択をしたのは、洞窟の中という特殊な環境下で、暗闇の中を進み続けることへの精神的な影響を考えたからだ。ミスリル
さらに言えば、明かりに向けて、不意打ちをされる心配は少ない。
物陰から密かに近寄ろうにも、その生臭い体臭がある限り、レンジャーのジャンがそれに気が付かないということはありえない。
逆に明かりから逃げようとすれば、狭い洞窟の中でその巨体が邪魔になる。楽に追いつけるだろう。
また、その事態が起きないほど小さい生き物であれば、それはそれでやはり問題はない。
周囲を明るくした効果は高かった。パーティーの歩く速度は、松明をかざして手探りで歩くのとは比べ物にならない。
それでも、1万歩ほど歩くうちに洞窟は細くなり続け、地を流れる川の水位は増した。松明の炎は激しく揺らいでいる。
松明は火種という意味もあれば、突然現れた何かに叩きつけることもできる。だから、周囲が魔法で明るくなっていても消さない。
ジャンがふと左手を上げた。
全員が動きを止める。
そのまま上げた左手で、松明を指差す。
松明の炎の揺れに増減がある。
洞窟の奥から吹いてくる風に、周期がある。
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