第27話 水汲み水車(ノーリア)の完成 1
ついにこの日がきた。
街中が浮かれている。
避雷針のアンテナを
いや、確実に多い。
だって、あの時から見たって、ダーカスの人口、200人は増えてる。ダーカスの元々の人口が800人に満たなかったことを考えれば、働き盛りの年齢の人間ばかりが200人以上増えたら、そりゃあにぎやかになるよね。
しかも、アンテナよりも効果がその場で見える。しかも、自分の生活に密着して、だ。イベントとしちゃ、これ以上のものはないよね。
俺、通りに出て、ルーと一緒に水車が通るのを待っている。
人口も増えたし、今のダーカスは食料輸入国に転落しているけど、この
畑はもう、水を欲している農作物でいっぱいだからだ。
すごいなぁ。
ついでに言うのも変だけど、牧草地はもうほぼ完全に草原になっているし、この世界の羊であるヤヒウの群れがそのなかで転げ回っている。
で、ところどころに牛とかロバとか、俺の世界の生き物がぼーっと草を喰んでいるし、鶏も駆け回っている。もうさ、雌鶏は卵を抱いているんだって。
鶏が増えたら、焼き鳥と唐揚げが食べたいよ。
ま、しばらくは、数を増やすことが最優先だし、食べるにしたってまずは玉子だけどね。
で、牧草のアルファルファは、肥料が不要って書いてあったから種を仕入れたけど、実際、勢いよく生えている。
タットリさん、ヤヒウが食べ切れない分を刈り取って、肥料に使うって言ってる。ケーブルシップができるまで、海産の肥料の供給は少ないからね。
で、ダーカスは冬は来るけど氷は張らないらしいから、最低量の牧草は確保できるかも知れない。
冬越しさせる家畜の数も、増やさなきゃだろうからね。
あとは、サイレージとか作らなきゃなのかな。それが何かは俺にはよく解らないけど、獣医さんになる学生さんの漫画に出てたよね。
これもやっぱり石材が確保できるかだけど、
ともかく、今はヤヒウの数より、草地のほうが広いから、牧草を根っこまで穿り返して食われないうちにどんどん移動させられる。だから、復元も早い。きっと、草をたくさん食べて、ヤヒウもあっという間に育つよね。
花も咲きそうで、ミライさんが、ミツバチを待機させている。
これ、今までのこの世界じゃ、考えられない程良い草だってさ。
そんなこんなで、日本の、とはちょっと違うけど、豊かな田園風景ができあがりつつある。
これで
シーズン的に合わなかったから播種はこの秋だけど、来春、菜の花畑ができたら、それはそれでまた美しいはずだ。
水車、エモーリさんの工房からネヒール川の河原まで転がして運ぶのかと思ったら、とんでもないって。
円が歪んだら用を足さなくなるし、車輪として外周が全重を支えられる強度はないと。
中心軸で全重を支えるような構造になっているから、地上を転がさないほうが良いんだそうな。
で、横から見たら正三角形の鉄枠の台車がすでに作られていて、その頂点に
まだバケツは付いていないけど、なんか、見た目は完全に観覧車だ。
最高の高さも高くて、重さもきっと10トンを越えるだろう。
これを見たらさ、
俺とルーが留守している間に、大量の砂鉄の輸入をしたそうだから、王様の懐、相当に厳しかっただろうね。俺の持ち込んだ皿とコップと包丁、アレらがなかったら、マジで厳しかったってのが解るよ。
ただ、これが設置できれば、ひとまずはもっとも大きな課題の水供給が解決する。
そして、数年もしないうちに経済効果で、確実に黒字になる。うっかりすりゃ、今年のうちに黒字になっちゃうかも。
ま、今はそんなことより、祭りだよ。
お神輿の代わりに、観覧車が祇園祭の山鉾巡行よろしく引っ張られるんだ。
で、台車は1つしかないから、2往復。
午前午後と、両方大騒ぎだと思うよ。
台車にはたくさんの取っ手がこれでもかって着いていて、そこに沢山の人が取り付いていた。
そしてまた、その取っ手に革紐を結びつけて、一回り大きい人の輪もできている。
基本的に台車は、設置場所の川に向かってなだらかに降りるだけだから、人の力もそれほど要らない。ただ、安定を崩すと大変なことになる。
なので、リバータのときのルーの役割と同じように、高いところで観察して指揮をする人が、ところどころで屋根の上に旗を持って登っている。
これだけ人が多いと、人の声なんか聞こえないからね。
ゆっくりと近づいてくる、水車を載せた台車の先頭には、エモーリさんがいる。
俺、思いっきりぶんぶん手をふる。
正装したエモーリさん、俺に気がついて、深々と頭を下げて通り過ぎていく。
うわ、俺、VIP扱いかよ。
普通は無視されるもんだろ、こういうのってさ。
今日の設置手順としては、運ぶ、架台に設置する、バケツを取り付ける、回すだ。
で、1本の水路に直列に2つの
で、2つ目にバケツが付けられたら、水路が開けられ、水が流れ込んでくる予定。
そうしないと、水の流れに逆らって水車を止めておかないと、バケツが取付けられないという事態になるからだ。
一旦、この巨体が回りだしてからじゃ、人力では止められないからね。
例によって、食堂のオヤジは金のお玉を振り回しながら、道端にまでテーブルを並べて商売をしている。
相変わらず、ボッているみたいだけど、ま、好きにするがいいさ。
俺の財布に向けられるのでない限り、そのたくましさは嫌いではないよ。
でも、今度、なにかサービスしろってのは言ってみようかな。
この祭りの原因は俺なんだから。
ギルドで募集された骨拾いの100人も、90人以上がダーカスに残って開墾するって。しかもリゴスに帰る数人も、農業したい人の心当たりがいるってことで、その人達をダーカスに送り返してくれるそうだ。だから、結果として、120人くらいでトーゴの農村はスタートしそう。
また、数少ないけど、家族を持っているって人も数人はいる。その人達は、1年経ったら家族を呼び寄せるってさ。
で、今日は、その90人も水車運びを手伝ってくれている。
自分たちが関わった、リバータの骨がどうなるのか見たいって。
通りにいる人々の、熱気が物凄い。
老若男女、すべての層の人達が通りでごった返しているし、王様も衛兵に囲まれて見物に来ている。
ケナンさん達のパーティーは、それぞれの国に王様の手紙を持って出発しちゃっているけど、見たかっただろうなって思うよ。
あ、あと、ついでだからってのも言い方に問題があるかもだけど、ルーの母上、リゴスにいるのがダーカスに帰ろうかって話、ケナンさんが護衛しながら連れてきてくれることになった。
依頼としちゃ、ミスリル
安心できるし、とても助かるよ。
で、コケないように、ゆっくりゆっくり動かされている台車が、俺の前を通り過ぎていく。
そして、ゆっくりと角を曲がって見えなくなった。
俺、ルーと水車の設置場所に向かって歩き始めた。
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