第47話 君に、託そう。

 開いた職業欄には、『上級呪術騎士』の一つだけが書かれていた。特に不満に思うことはないし、今さらこのスタイルを捨てるつもりはないので、上級呪術騎士を選択する。


【転職により『中級呪術』が『上級呪術』に変化します】


【転職により『中級盾術』が『上級盾術』に変化します】


麻痺パラライズを習得しました】


石化ブロックを習得しました】


【ナックルシールドを習得しました】


【バトルヒーリングを習得しました】


 前回同様若干緊張しながら進化したが、特に悪影響は無い。胸を撫で下ろしながら、新しく習得した技を確認することにした。

 麻痺はその名前の通り相手を麻痺させる呪術だ。相手のMAGDによって麻痺の時間と部位が異なるとのことで、相手が悪ければ足先や膝がしびれる程度。相手がよければ全身が麻痺して動けなくなるらしい。石化も同じようだが、こちらは解除するのに中級光魔法の『リカバリー』か高価で手に入りづらい『パナケイアポーション』が必要……と非常に非常に手間がかかり、なおかつ重複する。


 最初に腕が石化して武器が振れなくなり、足が石化して逃げられなくなり、全身が石化して死に至る……ようやく呪術が殺意と悪意を見せ始めている。

 効果が狂暴すぎる分、必要とされるMAGやMPは他と一線を画するが、一回掛かるだけで最早戦闘不可能に陥るというのはえげつない。というか、せっかく初めて明確に敵の動きを止めることの出来る麻痺を手に入れたのに、その直後にその上位互換を出して来るとは……麻痺も強酸の様な運命を辿るのだろうか。

 気軽に使用できるって面では麻痺に軍配が上がるし、相手によるか……。


 相手が高機動形だったりした場合は、手足を痺れさせるだけでその動きを封じることが出来るな。相手によって使い分けよう。

 さて、ナックルシールドは……嘘だろ? 説明文が『盾で殴る』の一言だけなんだが。注釈に追加効果としてノックバックと相手を気絶させる可能性がある、と書いてあるが、筋力に一切自信の無い俺の盾殴りではほぼその可能性は無いだろう。

 ほとんど活躍の場が無さそうなナックルシールドに比べてバトルヒーリングの効果は単純でも使い勝手が良さそうだ。即座にHPを5パーセント回復させる……キャストは二分か。


 キャストが長いが、指輪の効果で即座にHPを10パーセント回復させられる。また一つこれで死ににくくなったな。

 ……さて、ステータスで確認すべきは残り一つ。種族固有スキルの『円環の主』だ。禁忌に身を浸からせてまで手に入れたスキルなのだ。どうか強くあってほしい。


『円環の主』

効果:対象のHPとMPの値を交換する。使用時、反転した二つの値の差の半分のダメージを受ける。使用できるのは自分のレベルより下のプレイヤー、敵モンスター、敵ボスのみ。状態異常判定なので抵抗されることがある。


「……ん?ちょっと待て? リスクと制限合わせても鬼畜過ぎるだろ」


 一度この能力にからめとられれば、タンクは即座にその防御力を紙以下に落とし、魔法使いはMP切れに目を回すことになる。唯一無事でいられるのはカルナのように両方共に殆ど数値を振らなかった者か均等に振り分けていた人間だけだ。

 流石にボスに使ったら半分……いや、ダメージは二倍されるからそのままの差分ダメージが俺に襲いかかることになる。下手したら五桁のダメージを受けかねない。オルゲスの様に膨大なHPで殴りかかってくる相手には相性最悪だ。


 だが、それにしても凶悪なスキルだ。タンクなんて殆どMPに降らないだろうから、HPが次の瞬間上限100ちょいとかあり得る訳だ。


「流石に状態異常無効には効かないし、時間経過と光魔法とかで解除されるだろうけど……ヤバイな」


 整理してみよう。四桁近いHP、MPに合わせて高いステータスで盾をやりつつ敵には高火力の闇魔法と状態異常を雨あられと撒き散らし、HPとMPを吸収して常にステータスが全快状態で状態異常が一切効かない。盲目、毒、麻痺に石化、衰弱、果ては睡眠や呪いまであらゆる状態異常を撃ち込みつつ、面倒な敵のステータスを反転させて長所を完全に殺す上精神体で物理が効きにくく、殺すには膨大なリジェネを越える火力でMPもまとめて五秒以内程度で削りきらなければいけない。


 完全にレイドボスである。実際は魔法にとても弱く、魔法を引き撃ちされたり囲まれて魔法を撃ち込まれたりすればあっという間にHPはレッドゾーンになるが。やはりどうあがいても数と魔法を合わせられれば勝てないのが精神体の性だ。元々この種族は魔法使い相手にタンクをするようには出来てないのである。それは命の理を理解したルーン・ライヴスでも同様だ。

 多少は打たれ強くなったとて反転は馬鹿にならないHP消費だし、魔法は相変わらず痛い。


 俺自身のプレイヤースキルの無さもかなり問題になるだろう。下手をすればレオニダス戦の様に技量に撃ち落とされる。


 高いレベル、考え抜いたビルド、唯一無二のユニークスキルと最高のシナジーをもつ装備、種族、職業。これだけあっても俺は全く安心できない。身に染みて知っているからだ。数というものがどれだけ恐ろしいか、戦いというものはいかに過酷か。


 ――そして、越えられない人の壁を越えた者共の強さを。


 たった一人では決して防衛なんて出来ない。最奥にこもってひたすら守りを固めても、ある一線を越えた連中はそこに易々と踏み込んで、そして勝ちを奪い去っていく。

 悔しいことに、俺にはその一線を越える才能はない。


 前に本で読んだシェイクスピアの言葉を思い出した。


 曰く、『臆病者は死ぬ前に何度も死ぬが、勇者は一度しか死を味わわない』。


 俺は間違いなく勇者足り得ない。これまでに何度も挫けているし、戦いの最中に尻尾を巻いて逃げようとしたことなんて数えるだけで二つもある。

 けれども、俺は負けるわけにはいかないのだ。魔物のために人に見せつけてやると誓ったのだ。そして、このゲームを楽しみ尽くすと啖呵を切ったのだ。


 ならば引けない。迷わない。凡人はせめて凡人らしく、ありったけの勇気と泥臭い意地で地べたに這いずり回ってでも、勝利の美酒を飲み干してやる。

 余裕綽々に酔いの回った赤ら顔で、空っぽの盃を人間様に放り捨ててやろう。


 にやりと人の悪い笑みを浮かべながら、ちらりとカルナの方を見つめると、カルナは恐らく進化途中なのか空をボーッと見つめていた。俺の方の確認は完全に終わったはずだ。あとはカルナを待つのみ……。

 暫くボーッと立ち尽くすカルナを見つめていると、カルナに変化が訪れた。その巨大な体躯が、突如赤々とした炎に包まれたのだ。それはレオニダスに宿った不屈の炎にも似た深紅のベール。


 驚きに目を丸くする俺の前で、その炎はカルナの全身を這いずりまわり、猛々しく燃え盛っている。見ているだけで目が覚める血潮のような炎は確かにそこに燃えているが、大地の草花は知らん顔でその場に茂り、近くにいる俺も全く熱を感じない。

 それはきっと擬似的な炎。荒ぶる激情と本能の奔流。鬣を日の光に曝す獅子の様に、荒々しく逆巻く炎を纏って静かに目を瞑っていたカルナに、不覚にも見惚れてしまった。


 どうするべきかあわてている俺を置いてきぼりに、炎はゆっくりと収束していき、やがてカルナの体に溶けるように消えていった。それと共に青白いカルナの皮膚に赤い刺青が刻まれた。両腕を通って首に、首を通って背中、腰まで抜けるその刺青は一瞬金色に煌めき、それと同時にカルナが目を覚ました。


「……どうだった?」


「……どうもしないわね。面倒な事を言うお馬鹿さんと炎の中でダンスしたぐらいよ」


 直訳するとイベント先の仮想空間で、燃え盛るフィールドの中でNPCと全力で殴りあってたって感じか。なんだか浮かない顔をしているが、向こう側で何かあったのだろう。いかにも触れないでほしい、といった空気を出していたので触れないが。

 カルナは暫く自分の体の変わりように目を白黒させていたが、気に入ったわ、と一言呟いた。


「種族はどんな感じだ?」


デルタアンベルグ辿異性高位不死者ってやつね。本当は別だったのだけれど……まあ、いいわ」


 本当は別? かなり興味をそそられる言葉だが、詮索はしないでおく。俺だってルーン・ライヴスについてそれほど話していないのだ。あの黒い影についても、能力についても。それなのにずけずけと個人の情報を知ろうとしてくるのは、中々に質が悪いと思う。

 俺が己を律していると、カルナは手早く転職を終わらせたのかロードを探しましょうか、と言った。それに頷いて、ゆっくりと歩きだす。やはり少し様子の可笑しいカルナに首をかしげながら、近くの戦士にロードの所在を訪ねると、元々スケルトンが多かったレオニダスの方面に居るとのことだった。


 礼を言って目的地に歩き出す。暫く歩いていると、カルナがおもむろに言った。


「……もし、もしよ」


「……」


「二つの選択肢を出されて、その二つともが自分の満足のいかないものだったら、ライチはどうするかしら」


 少し考える。例えば、ロードとこの墓地を天秤に掛けてみろ、なんて言われたら……。あぁ、考えるまでもなかったな。考えるなんて馬鹿馬鹿しいことだった。答えは一つしかないだろう。


「そんなふざけたことを抜かすふざけた野郎をぶん殴る」


 自分でも驚くぐらい真面目な声が出た。俺の単純明快な答えに、カルナが足を止め、目を大きく見開いて俺を見つめた。その様子に首を傾げると、カルナは最初は小さく、やがて大きく笑いだした。それは今までに見たどの笑みとも異なっていて、素直というか、あか抜けたというか……とにかく初めての笑いだった。

 さんざん笑ったカルナは、目に溜まった涙を軽く拭ってこう言った。


「あぁ……貴方って面白いわね」


「なんのことなのかさっぱりなんだが」


「いいのよ、私個人の事なんだから」


「んー、そういうことならいいけどさ」


 悩んでるなら、ちゃんと言えよ。そう言うと、カルナは考えておくわ、と軽く笑って俺の先を歩きだした。慌てて着いていく。正直徹頭徹尾「ハテナ」が尽きないが、目の前を行くカルナの笑みは朗らかで、それを見るとどうでもよくなってしまった。

 まあいいか、と自分を納得させて、二人して最高に遅い足を回して墓地を歩いた。



 暫く歩くと、視線の先にいた白竜がゆっくりと鎌首を上げ、こちらを視認した。かなり遠い位置にいるが、メラルテンバルの知覚圏内のようだ。流石はドラゴン、格が違う。

 メラルテンバルはこちらに向けた視線をゆっくりと下げ、恐らく足元にいるであろうロードに耳打ちをした。すると足元の白い人影は慌てた様子でフードを取り、髪の毛を手櫛でといている……様にも見える。


 AGI1の恩恵を存分に賜った俺たちがロードの前にたどり着くと、既にロードは用件を理解しているようで、手元に二つの袋を持っている。後ろに控える四人も何やら柔らかい面持ちだ。


「ふぅ……ロード。なんかうまい言い回しが思い付かないんだが……えーと」


「依頼の報酬ですよね。分かってますよライチさん。初めて墓守として正式に出した依頼ですから、文字数だって覚えてますよ……多分」


「煮え切らないけれど、あなたらしいわね」


「うぅ……煮え切らないとか悲しいこと言わないでくださいよぉ」


 優柔不断なのは僕の悪い癖ですけど、とロードは呟いて、手元に持っていた布の袋を俺達に渡した。俺が手に触れると、キラリと輝いて、金の光の粒子となって俺の体の中に取り込まれた。


【通貨:1,000,000エヒトを獲得しました】


 メニュー画面を開いてみると、しっかり百万の字が長らく寂しかった『所持金』の欄に埋まっている。少しだけお金が残っていたのは、恐らく初期に持っていた所持金の千エヒトだろう。

 グレーターゾンビと化していたオルゲスに殴り殺されていくらかロストしていたが。

 懐かしい記憶がちらりと脳裏によぎった。


「正直、私たちがお金持っててもしょうがなくないかしら」


「……確かに、何も買えないどころか金を使える相手が現れるかも怪しい」


「完全に歩く金庫よね、私たち」


 ポーションや装備品など、欲しいものは山程ある。だが、それよりも大きな問題が山程ある。町にはいれない、物を売ってくれない、プレイヤーの目につきたくない。

 正直嫌になってしまう。しかめっ面をした俺の脳に悪魔的な発想が走った。


「町の門番襲撃しようかな……もちろんイベント後になるけど」


「全くメリットを感じないわね。けれどまあ、面白そうね。是非とも混ぜて欲しいわ」


「……流石に僕は手を貸せませんよ? 貸したいかと言われれば迷わずライチさんの手を取りたいですけど、人間さんを敵に回すのは大変な事なんです」


 それに、僕の魔法はアンデッド相手じゃないと微妙なんです、とロードは付け足した。恐らくロードには凄まじいまでのアンデッド特効が乗っているのだろう。

 町の門番は、俺たち魔物にとって絶望の具現体だ。お前ら魔物なんざ一歩ほども町には入れてやらねえ、とレベルを武器にこちらに絶望をぶつけてくるNPC……それが、他ならぬ魔物の手によって倒されたら。少なくとも他の魔物への鼓舞にはならないだろうか。もちろん今やれば確実に俺の手札を晒す地雷行動に等しいが。


「えーと、次にライチさんとカルナさんに渡すのは……蘇生ポーションのレシピです。死者蘇生は禁忌中の禁忌ですが、肉体から剥離した魂をすぐにもう一度入れ直す程度であれば、大丈夫なはずです」


 ロードの言葉と共に、後ろに控えていたメルトリアスがゆっくりと紙束を俺達に渡した。メルトリアスが、ゆっくりとこちらに紫色の瞳を向ける。その目の下には霊体と化しても拭えぬ隈が残っていた。


「このポーションは死んでからすぐにかけなきゃ意味がない。気をつけてくれよ」


 彼はそういうなり、ゆっくりとロードの後ろに戻った。その顔は、どことなく晴れやかなものの様に感じられる。


【蘇生ポーションのレシピを獲得しました】


【全世界に通知します】


「ま、そうなるか」


「なんだか私の名前まで載っているわね」


「それはまぁ、カルナも一緒にクエストをクリアしたわけだし……」


 二人で会話をこなしながら、汚れた羊皮紙に目を写した。うわぁ、これは手間がかかりそうだ。『反魂石』とか『銀月草』……え、『白竜の涙』とかマジか。

 ちらりとメラルテンバルに視線を向けると、メラルテンバルは視線に気づいてか軽く肩をすくませた。


 材料や製作についてはともかく、これで蘇生ポーションのレシピは手にいれた。あとは……なんだったか。絆の輝石とかだった気がする。


「えーと、次は……絆の輝石ですね。皆さん、よろしくお願いします」


「勿論だ」


「うむ」


『はい』


「あぁ」


 ロードの言葉に合わせて、後ろの四人がゆっくりと前に出た。オルゲスとメラルテンバルは俺に。レオニダスとメルトリアスはカルナに視線を向けている。何が始まるのかと身構えながら目の前のオルゲスに視線を向けると、彼は最初に出会った時のように朗らかに笑っていた。


「ライチ、よくぞ我を鎮めてくれた。我らを再び相間見えせてくれた」


『僕も感謝するよ。理性を無くして暴れる僕を止めてくれて、本当にありがとう。最後の最後まで、暴れさせてくれてありがとう』


 だから、と二人は同時に言葉を紡いだ。オルゲスが軽く宙を握りしめ、メラルテンバルが目を瞑った。青い風が、俺たちの間を抜けていった。


「だから、託そう……」


『僕たちの半身を……』


「ライチに」 

『君に』


 オルゲスの拳がキラリと緑に光った。同時に、メラルテンバルの前に緑の光が集まり、小さくそれらは形を持った。エメラルドのような煌めく宝石……まるで絆を内包したような、なんとも目を引き寄せる輝きを秘めたそれを、二人は俺に託すと言った。それがなんなのかはさっぱりだが、どう動けばいいのかはわかる。ゆっくりと二人に近づいて、その石を受け取った。


【アイテムを入手しました:絆の輝石『拳闘士のオルゲス』】

【アイテムを入手しました:絆の輝石『白竜メラルテンバル』】


俺の手のひらの中で小さく煌めくそれらに見惚れながら、鑑定を飛ばす。


『絆の輝石:拳闘士のオルゲス』レア度:アーティファクト唯一無二

古代のコロシアムから全世界に名を轟かせた希代の剣闘士、オルゲスの輝石。念じれば世界の果てであろうとオルゲスが君の呼び掛けに答え、少しの間とはいえ呼び出されるだろう。


効果:拳闘士召喚

効果時間:二分

アイテムリキャスト:二十四時間


 アイテムの内容に愕然としてオルゲスに視線を向けると、俺の反応に満足したのか、オルゲスは大きく笑っていた。メラルテンバルも優しげな感情をその目に浮かべている。


「え、ちょ……こんな大層なもの、貰っていいのか?」


「大層もなにも、それは我らの半身だ。我らを救ってくれたライチには、正当にそれを受けとる資格があるだろう」


『本当は全身って言いたいところだけど、僕たちにはロード様とこの墓地があるから、そうはいかなくてね。でもまあ、君の窮地に颯爽と現れてあげることなら出来るよ』


 カルナの方をみると、俺と同じく愕然としていた。ふふん、とメラルテンバルが笑った。未だにこの二人をいつでも呼び出せるようになったという事実に溺れていると、俺たちの様子を見たロードが畳み掛けるように言った。


「では最後に、この場所のポータルを開きたいと思います」


「ちょ、ロード。ポータルって何だ?」


「名前からしてワープが出来るようになるって所かしら?」


 衝撃から立ち直れていない場所に新たな情報をぶつけられると、流石に処理が厳しい。ロードはそうですね、と顎に手を当てて考えた。


「大まかに言うとカルナさんの言う物で間違いないです。ポータルは時空の歪みを利用した術でですね……大きな町や、それこそ王都には必ずポータルがありますね」


「あぁ……なるほど、帰還魔法的なのが使えるようになるのか」


「ファストトラベルって感じね。ポータルには何処でも移動できるのかしらね?それともポータルからポータルしか無理なのかしら?」


「いえ、基本は何処でも出来るはずです。ポータルからの移動でない場合は、創造神であるエヒト様の加護を受けたエヒト硬貨を代償にそれぞれに移動できるのです」


「それってつまり……」


 金があれば毎日のように墓地に戻れるということだ。ポータル様様か。カルナが呆れたような目で、またバカなこと考えてるんじゃ……と、呟いているが、この際無視だ。何処からでもポータルに移動できる、と言ったロードの顔は上機嫌といった様子だ。

 だが、よく考えたら他のプレイヤーが軽くこの場所に足を踏み入れることにならないだろうか。警戒と不安半分にロードに聞く。


「ロード、ポータルが開通したら沢山の人間がこっちに来るんじゃないか?」


「いえ、確かポータルは一度触れていないとそれぞれのポータルに移動できなかった筈なので、それは無いですね。……つまり、このポータルを使う最初の栄冠はライチさんとカルナさんにあるということです」


 にこりと金の瞳を曲げて笑みを浮かべたロードは、堪らなく可愛い。最近は耐性がついてきたと思ったら、少し離れるだけでこれだ。全く油断ならない。俺の様子に疑問符を浮かべたロードは、それを軽く振り払って、誇らしげに銀の杖を掲げた。


「なんか謎に緊張してきたな」


「スカイダイビング前の飛行機の中みたいな緊張よね」


「スカイダイビングしたことあるのか?」


「無いわ」


 頓珍漢な事を言うカルナに苦笑いを浮かべながら、ゆっくりと杖を構えたロードを視界に入れた。ポータルとは一体どんなものなのだろうか。期待を胸に、俺はゆっくりと佇まいを正した。

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