中皮腫に父を取られて

ありき かい

第1話……中皮腫


 中皮腫という言葉を知っていますか?

 私は知りませんでした。

 中皮腫と聞いて、肺気腫の間違いでは?

 その言葉を聞いた時、そう返しました。それほどに耳慣れない病名です。

 そして、今もぼんやりでしか知りません。

 肺がんに間違われてしまうほどだそうです。

 だから、専門医もとても少なく、肺の専門医でも見逃してしまうほどの希少ガンです。

 中皮腫から連想しにくい、肺の病気。病気の中でも厄介なガン。ガンでありながら、希少とは?

 というか、それは何が原因で起こるのよ?

 治療方法はどんなことで、手術だとかそんなのは?


 無数に浮かんでは漂うその問いに答える間も、調べる時間もなく、実父は亡くなりました。

 享年61歳。

 悪性胸膜中皮腫──それが正式な名称であり、実父の命を刈り取った存在。

 アスベスト──サイレントキラーの別名を持つ、一時期は建築業界では持てはやされたその物質が原因でかかる病気。

  

 愛人どころか、人混みで擦れ違った見知らぬ赤の他人に実父を取られた気分です。

 何もお互いに出来ないまま、見送った弔い。

「アスベスト関係の仕事も、材料建築の家で育ってたとか住んでもないのに……何でや」

 そう言っていた実父の想いを、私なりに引き継いでいこうと思います。



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