バ美肉おじさんの解体新書

工事帽

バ美肉おじさんの解体新書

1.概要


 本書では、数年前より観測された「バ美肉おじさん」と呼ばれる生物の生態及び成り立ちについて記す。

 「バ美肉おじさん」とは本邦ほんぽうにおいては「人間」とも呼ばれるヒト亜族に属する動物の一種であり、オスの特性を持ち、ある程度の年齢を経たものが変態(注1)したものである。尚、よわいが成年に達していない場合には「男の娘おとこのこ(注2)」と呼ばれる場合があるが、リアルでも観測されることを始め、生態には大きな隔たりがあるため、本書では触れない。


注1:変態とは形態が変化することを示す。HENTAIではない

注2:男の娘とは、肉体的には男性であるものの、見た目が女性にしか見えない者のことを示す。擬態の一つではないかとの説はあるが、男の娘に共通する体験やトラウマなどは観測されておらず、変化した理由は不明である。



2.発生時期


 男性が女性の「役」を演じるというものは、江戸自体に成立した歌舞伎の女形おやま(注3)に見えるように発想自体は古くから存在する。

 ネット黎明期のおいても「ネカマ」と言われる男性が女性キャラを使って演じることは行われており、中にはネット越しの初恋相手がネカマだったというネタで漫画を描いている猛者も存在する。……ネタだよね?

 ともあれ、演じることは古くから存在したものの「バ美肉」という言葉が登場するのは2018年を待つことになる。

 その前の年、2017年より、動画サービスのYouTubeやVR空間で他者との交流が出来るVRChatというソフトで女性アバターを使用する者達が登場した。この当時はまだLive2Dや3Dモデルを用いたというだけで、声は元のままのおじさんの声であった。2018年にはボイスチェンジャーを用いた女性声の者が登場することによって「バ美肉おじさん」の原型が作られたと言われている。アダムの誕生である。いや、イブかもしれない。


注3:女形とは、江戸時代に歌舞伎等で女性が演じることが禁止されたために、その代わりとして男性が女性の役を演じることから始まったと言われている。時が経ち、禁止が事実上無効になった現在でも続いているのは謎である。



3.生態


 「バ美肉」とはバーチャル美少女受肉の略称であり、「バ美肉おじさん」とは受肉した魂がおじさんであることを示す。「受肉」という言葉から転生物語が連想されるが、ここでの受肉はアバターによる代替えであり、アバターより元の肉体に戻ることも可能だという研究結果が出ている。

 基本行動や精神性は、魂であるおじさんに依存する部分が多く、受肉初期にはおじさんとしての特性を色濃く残すものである。しかし、受肉してからの期間が長くなるにつれて肉体に精神が適合し、Kawaii Moveとよばれる仕草を取得し、言葉使いも女性のそれへと変化していく。

 先に、「元の肉体に戻ることも可能」と言ったが、これは受肉初期の状態であり、長い間、受肉したまま過ごした個体から魂を引き離せるのかは判明していない。最初期に受肉した個体でも3年経過していないこともあり、経過には注意が必要である。



4.進化


 発生時期の項でも振れたが、発生初期の、まだ「バ美肉おじさん」と呼ばれる前の段階ではボイスチェンジャーは使用されていなかった。

 2020年では現在では、ボイスチェンジャーを使用することが主流ではあるば、元のおじさん声のままの者も、ボイスチェンジャーなしで女声を発声する「両声類」にそれぞれ分化して進化を続けている。

 この分化は声による分類である。他にも3Dモデル派とLive2D派という分け方をする場合もあるが、両方の肉体を得ている者も多く、受肉体としての3DモデルとLive2Dには大きな差は存在しないと思われる。


 YouTubeやニコニコ動画といった動画サイトで生息が確認出来ることが多い「バ美肉おじさん」であるが、最近は活躍の幅が広がっている。

 Live2Dの特性上、元の絵が必要になることから、絵描きを生業としているおじさんが自ら書いた肉体に自分の魂を入れる現象が発生。その果てに、自分の薄い本を書くという事態に陥っている。また、言葉巧みな吸血鬼の唆されたバ美肉おじさんがグラビアビデオに出演するなど、新しい女性体の一つとして活動の場を広げている。



5.最後に


 本書では「バ美肉おじさん」について記載した。当然のころながら、その逆、女性の魂が男性アバターに受肉したものや、女性の魂が一見女性に見える「男の娘おとこのこ」に受肉するなど、性差を超えた転生体は数多く確認されている。

 これらは「バ美肉おじさん」のように一つの用語で定義されてはいないものの、既に存在している新種の一つである。我々はこの事実を重く受け止め、ヒト亜族の新たな進化と分化に向き合うべでではないだろうか。

 最後に、ここまで本書を読んで下さった諸兄に感謝の意を込めて、有名な言葉で締めさせて頂こう。


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