春の日
並ぶ桜の木々の下、地面を覆うように落ちている花びらの数を端から数える。いち、に、さん、し。ふと見ると、コンクリートの地面にしゃがみこむ子どもがいる。ご、ろく、しち。黒髪のおかっぱ。薄ピンク色のワンピースが桜と同化している。はち、きゅう。小さな背中。見覚えはないのに、それが幼い日の自分の背中だとわかる。じゅう、じゅういち、じゅうに。赤いランドセルを背負っていたころの、今思えばとても小さかった女の子を見下ろしている。重なりあう花びらを見下ろしている。じゅうさん、じゅうし。すべての花びらが、枝の先で生まれ、いつのまにか土に還っていくように、わたしもまた。じゅうご、じゅうろく、じゅうしち。聞きなじみのあるような、ないような幼い声がこだまする。じゅうはち、じゅうきゅう。飽きることなく足元を見下ろして、女の子は桜の花びらを数えつづける。にじゅう、にじゅういち。日差しのやわらかな午後だった。
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