◆第三章◆ 遺されしもの(5)
ニールとシルビアが力強く砂を蹴り、煙を残しながら一直線に進む。
その先には砂漠の中に浮かぶ建造物。距離が近づくにつれ、次第にその姿が露わとなっていく。
「なんて規模の遺跡だ! こりゃ大発見なんじゃないか!?」
ホークが感嘆の声を漏らした。無理もない。
城壁は赤褐色の石を積み上げて造られており、見上げれば首が痛くなるほどの高さだ。要所には円柱の城壁塔を備えており、当時の堅牢さを如実に物語っている。
この分厚い壁が砂漠の大地に延々と伸び、遺跡全体を囲っているのだ。目算でも、ミドガの街がすっぽり収まってしまう位の規模はある。
「わかったから落ち着けよ。それより、まずは馬車だ。あれは隊商のものなのか?」
「そう考えるのが自然だろう。まあ、行って確認してみればわかることだ」
「そうか。となると――これでわかりそうだな。なにが起こったのか、もな」
迫りくる城塞を見据え、ディーンは頷いた。
…………
遺跡の前まで来ると、改めてその大きさに圧倒される。城壁にぽっかりと口を開けた城門もまた規格外の大きさで、馬車が数台横に連なっても余裕があるほどだ。
城壁に沿って進み、横切り様にディーンが中の様子を伺う。
分厚い壁を穿つ穴のその向こうには、半ば砂に埋もれた状態でいくつかの建物が確認できた。
広場の中心に鎮座する噴水跡、巨木のような柱が目を引く大神殿、外壁を超える高さでそびえ立つ見張塔、最奥に鎮座する蟻塚のような城――あれが王宮だろう。
永い歴史に埋もれてきた証か、崩れかけているものも見受けられるが、どれをとっても豪奢な造りだった。これが――かつて栄華を極めた古の大国。そのなれの果てか。
ディーンは城門を通り過ぎ、そして数台の幌馬車の前で止まる。
特に異変はない。
全く人の気配が無いことと、馬車を引いていたはずの馬が一頭もいないことを除いては。
無言のままホークと顔を見合わせ、銃を抜き馬を降りる。
息を殺し、静かに馬車に近づく。途中、ホークの手を合図に、左右二手に分かれる。
右手へと進み、ディーンは手近な馬車の荷台の中をそっと覗く。
麻布の幌に塗られた油の臭いが鼻につく。キャンバス越しの柔らかな陽光に車内の様子があぶり出される。
整然と木箱が並んでおり、荒らされた様子はない。物資を運んでいたままの状態だ。
その先のもう一台の馬車も同じように確認する。こちらは積荷が少々乱雑だが、これは行商人たちの生活物資だからか。
「ディーン、
反対側を調べていたホークが戻ってきてそう告げる。
「そうか。こっちは争った形跡もなければ、物資が奪われている様子もない」
「ああ。オレのほうも同じだ。それとやはり誰もいない」
状況から物盗りのしわざではない。そしてこの場所で争った形跡も見られない。
残る可能性は――自らの意志でこの遺跡に入り、未だ戻っていないということか……?
頭上に輝く太陽に目を細め、ディーンは城壁を見上げる。
――? 壁の表面が……動いたような気がした。
次の瞬間――壁からそれが宙へと飛び出し、逆光に浮かびながら落下してくる。
「ホーク! 上だ!」
二人は離れるように後ろへと飛び、ディーンが上空の標的を撃ち抜く。
頭部を穿たれ、そのまま地へと落ちた機構獣が衝撃で砕ける。
バラバラになり転がった頭部には鋭い大あごと巨大な眼。丸みを帯びた胸腹部に六本の脚。大型肉食獣ほどのサイズの、
「ディーン! ……まだくるぞ!」
ホークの声に壁を見ると――あちこちで城壁の色に紛れて潜んでいた機構獣が一斉に降ってくる。
目の前に現れた獣をニールが踏み砕き、蹴り飛ばした。
「ニール、シルビアは任せた! そっちを頼むぜ、ホーク!」
ディーンたちを取り囲むように地へと降り立つ機構獣の群れ。
ディーンが的確なヘッドショットでにじり寄る蟲を次々と鉄屑に変え、ホークの華麗なファニングショットが飛び掛かる凶獣の頸を抜き頭部を分断する。
二つの銃口が止むことなく空気を震わせ、同時に破壊音を響かせる。破断した金属片が周囲を赤黒く染め上げていく。
「――どうだ!? そろそろ終わりそうか!?」
「ああ――こっちは片付いた!」
ホークが答え、向き直る。ディーンが最後の一体に狙いを定め――引金を引いた。機構獣が反り返り吹き飛ぶ。
――同時。ディーンの真上から迫る一体の凶獣。
「! ちっ――まだ……!!」
ディーンが地を蹴り、寸での回避を試みるが――
ホークが
瞬時に六つの鉛玉が放たれ――機構獣は空中で鉄屑と化した。
――――。
「今度こそ片付いた……か?」
辺り一面に散らばった機構獣の残骸の中でホークが注意深く城壁に視線を巡らせる。
「――みたいだな。にしても……思ったよりやるじゃねぇか。助かったぜ」
機構獣の姿が無いことを確認し、警戒を緩めながらディーンが言った。
「ははっ、ようやくお役に立てて何よりだ――」
その時。かたり、という物音に二人は素早く銃口を向ける。
照準の先、幌馬車の影から半身を覗かせていたのは――不安げな眼差しでこちらを伺う、白いワンピースを着た一人の少女だった。
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