◆第二章◆ イレギュラー(8)

「なんだなんだ? なんの騒ぎだ?」

「あの機構獣を倒した女だよ。今度はなんでも射撃の腕を競うんだってよ」

「よし、俺は姉ちゃんの勝ちに賭けるぜ」

「その勝負乗った。俺はホークだ」

「いや、どっちも当たりはしねえさ。こいつはドローだな」

 ディーンとホークの射撃勝負。事を嗅ぎ付けた酒場の客が、勝手に賭博の種にして盛り上がり始める。

 …………

 木杭の上に瓶を配置し終わり、アレンが大きく布を振って合図する。

 アレンが成功と失敗の判定をし、ホセが立会人をする事になった。

「準備完了だな。さて、どっちから先にいく?」

 ホークがディーンの顔を見る。

「アタシが提案したゲームだ。順番は譲るぜ。先か後か――好きな方を選びな」

 瓶は五本。つまり三本先取すれば勝利は確定。当然失敗は大いにあり得るが――仮に互いが全て成功した場合。逃げ切れる可能性のある先行の方が優位と言える。

「そう言うなら、先にやらせてもらおう」

 ホークはグラスを煽り、ウイスキーを飲み干して席を立つ。

 テラスの階段を下り、腰のホルスターから抜いたのはシングルアクション方式の六連装リボルバー銃。

 マットな仕上がりのウォールナット材のグリップに、黒光りする銃身。

 撃鉄を起こし――頷いてホセに合図を送る。

 ゆっくりと腕を伸ばし、構える。

 ――一秒経過。

 狙いは左から二番目。木杭の上で瓶が夕日を浴び、微かに透き通った光を放っている。

 ――三秒経過。

 光を照準の先に捉えるも――僅かな身体の動きに、銃口が揺れる。

 ――五秒経過。

 息を吸い――吐き――吸い――止める。

 ――九秒経過。

 ピタリと揺れが止まる。刹那――引金を引く。

 撃発。銃声が乾いた空に響く。そして――

 …………

 …………

 …………

 経過を見守る一同。緊迫した時間が過ぎ――アレンが大きく布を回す。成功の合図だ。

 おお……! 周囲がざわめき、あちこちから感嘆の声があがる。

「すげえ! ホントに当てやがった!」

「おいおいおい! こりゃあもう勝負ありなんじゃねぇか!」

「いいや――まだわからねえ! 面白くなってきたぞ!」

 ギャラリーが騒がしくなる。

 ホークが銃をホルスターに収め、テラス席のディーンに振り返る。

「正直……驚いたぜ。当てちまうとは」

「ま、こんなもんだ。さぁ、ディーン。お前さんの――」

 不敵に笑みを浮かべたホークが言い終わる前に――

 立て続けの発砲音。一発、二発――三発。

「番だ――……ぜ……?」

 座ったままのディーンの右手には例の大口径銃。銃口から漂うのは火薬の臭いと白い煙。

 ついさっきまでお祭り騒ぎを見せていたギャラリーは静かに――固まっている。

 ホークはゆっくりと、振り返る。視線の先には――

「さ……三発! 三発とも……成功ですーーーーっ!!」

 声を張り上げて布を振るアレンの姿。

 …………。

 ぽろり、とホークの口から葉巻が落ちる。

「アタシの勝ちみたいだな。なんなら……残りの一本も開けとくか?」

 ディーンがグラスを口に運びながら言う。

「い……いや。飲み過ぎはよくねぇ……やめておこう……な?」

 ホークは顔を引きつらせながら、かろうじてそう返答した。

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