◆第二章◆ イレギュラー(7)

 夕暮れ時になり、酒場にも次第に客が入り始める。

「よし、それじゃ早速だが出発は明日だ。経路だが――」

「待ちな。仕事は受けるつもりだ。だが――条件交渉がまだ終わってないぜ」

 ディーンがホークの言葉を遮った。軽く息をつきホークはどうぞ、とばかりに両腕を開く。

「まずホーク。アンタのウデだ。それなりに覚えはあるんだろうな? どれほどのものか、見せてもらおう」

 ホークは目を閉じたまま、煙草をくゆらせる。

「そして――取り分については、それを踏まえた上で再交渉させてもらう。はした金で見た目だけが取り柄のポンコツ男のお守りをする気はないからな」

「……なるほど。言い分はわかった。で? じゃあオレはどうすりゃいい?」

 ホークが静かに目を開け聞き返す。

「アタシに考えがある。――ちょっといいか、アレン」

 ディーンは近くを通りかかったアレンを捕まえる。

「はい。おかわりですか? ディーンさん」

「一番のを頼む。ボトルで、ありったけな」

「えっと……さっき言った通り、ディーンさんのお好みの銘柄はいま品が無いんですよ。だから――」

「そうじゃない。今、アタシが言ってるのは一番値の張る酒だ。栓は開けなくていい」

「えっ……? ええ、わかりました……。ちょっと親方に確認してくるんで待っててください」

 アレンは戸惑いながらも、カウンターの奥から続く倉庫と消えて行った。

「やれやれ――何をさせられるのやら」

 ホークは短くなった煙草を灰皿にねじ込むと、再び葉巻を取り出した。

 …………

 ごとん、と床が音を立てる。

 アレンが抱えて持ってきたのは五本の酒瓶が収まった木箱。

「こいつがウチで一番上等な酒。三〇年物のブレンデッドだ。一本当たり二〇万ガルってところか」

 瓶を手に取り、ホセが誇らしげに鼻を鳴らす。

「ちょいとこいつを貸して欲しい。もちろん開けた分は買い取る。――いいか?」

 ディーンの言葉にホセは頷く。

「ああ、好きにしな。だが――何をするつもりだ?」

「一つゲームをしようと思ってな。ま……すぐにわかるさ。――待たせたな、ホーク。じゃあ始めるか」

 ディーンがホークに向き直る。

「大体想像はついているが――ルールを聞こうか」

「察しの通り――射撃の腕試しさ。今からこいつを的として並べる。栓を撃ち抜いて、瓶を開ければ成功。外したり瓶に当たった場合は失敗だ。そうだな……一回の持ち時間は一〇秒にするか。時間切れか、もしくは失敗した時点で交代だ」

「より多く成功したほうの勝ち。支払いは負けた方、そんなところか。――で、的はどこに置く?」

「おあつらえ向きの場所がある。ほらよ――」

 ディーンが目で指し示す。広がるのは朱に焼けた大地――その遥か先には先日の機構獣によって破壊され、柵が途切れた箇所。

「……? …………。!? おいおい、まさか――」

 目を凝らして何かを見つけ、ホークは声を漏らす。

 それは応急処置として柵の代わりに打ち込まれ、夕日に影を伸ばす数本の木杭。

「ああ。あの杭の上に並べるのさ。丁度いいだろ?」

 ディーンは楽しげに言い、ホークを見る。

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