◆第一章◆ 流浪の女(8)

「ウソだろ……あのサイズの機構獣を一人で――」

「いや――それよりあの馬だ。ありゃあ一体……」

 機構獣を鮮やかに仕留めた謎の女。目を疑うような光景に、あちこちから驚きと戸惑いの声が漏れる。

 そんな中、ニールを引きつれ、ディーンはゆっくりと進んでいく。

 自然と人垣が割れ、道が開ける。

 周囲からの畏怖と好奇の入り混じった視線を浴びながらも、ディーンは顔色一つ変えずに通りへと向かう。

 ――と。

「お……お姉ちゃん、あ……ありがとう! ……ほら、ジョージも!」

「……あ、ありがと。あと――ご、ごめんなさい」

 ぞろぞろと。先ほどの子供たちがディーンの前に出てきて頭を下げた。

 ディーンはしばし黙ってその様子を見ていたが――

「――やんちゃも、ほどほどにな。今度からは気をつけるんだぜ。あと――礼はコイツに言いな」

 一人の少年の頭をぽん、と軽く撫で、ディーンはニールを見やる。

「……うん! お馬さん――お名前は?」

「ニールだ」

 少女の問いにディーンが答えた。

「ありがとう、ニール! すごいんだね!」

「すっごくカッコ良かった! ……ありがとう!」

 感謝の言葉にニールが首を下げ、頬ずるようにして子供と触れ合う。

 人々は戸惑いながらも、その様子を見守る。

「俺からも礼を言わせてくれ。店と――街を救ってくれて、本当に助かった。感謝する」

 人垣を押しのけ、ホセがディーンの前に立つ。

「なに、アタシは酒代を稼いだだけさ。――なら、礼のついでと言っちゃなんだが、ギルドまで案内して貰えると助かる」

 苦笑交じりにディーンが返す。

「ああ。もちろんだ――ア……」

「――ええ、僕が案内しますよ」

 ホセの言葉を待たずにアレンが応じ、案内役を買って出る。

 アレンがにっ、と笑う。ホセは苦笑いを浮かべ肩をすくめた。

 …………

 アレンに先導され、ディーンとニールが広場へ向かって通りを進んでいく。

 その背につられるように次第に人々も捌けていき、街は日常の景色を取り戻していった。

 そんな中。最後までディーンを見つめる男がいた。

「ほぅ……こいつは色々と――興味深い」

 男は咥えたままの葉巻を吹かせ、にやりと笑った。

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