僧侶たちの黙示録
らしぇる
第1話 勇者の宣託
私は僧侶です。私に名など必要ありません。勇者様により選ばれた僧侶であれば、その役割さえあれば充分ですから。 ごえっぷ。
魔王により国の姫がさらわれたという一報が国中を駆け巡りました。
いえ、国内だけではありません。国外にもその話は伝わり、ついに人間と魔族の戦争が始まるのだと人々は囁き合いました。
古代にあったとされる神々の戦いにて人間と魔族は敵対しておりました。その戦いにより数を大きく減らした両者を憂いた神々は世界をふたつに分かつことで戦いを治めたといいます。その魔族を束ねる魔王が、人間の世界から姫をさらったというのです。分かたれた世界を渡る方法があるということでしょう。魔王軍が人間世界に攻めてくるのであろうことは容易に想像できました。事実、姫がさらわれてひと月ほど後から魔王軍を名乗る魔族が各国に現れ、暴れだしました。 ごえっぷ。
そして、宣託の巫女様が神様より勇者のお告げを受けたのです。選ばれたのは森で狩り生業とする平民の年端も行かない少年でした。彼とも彼女ともいえる勇者様の顔立ちはまだ幼さが見てとれます。しかし、その眼にははっきりとした決意の色が宿っています。勇者様は必ず姫を救い出すことでしょう。
僧侶である私は勇者様のお供を志願し、神託によって新たな名が与えられました。いえ、自分の名前を捨て僧侶になったと言い換えるべきでしょうか。勇者様も「元の名前は捨てた、今はただ自分が勇者と呼ばれること、それが人々の希望につながれば良いのだ」と言っています。だから私もただの僧侶であれば良いと思いました。
そうして勇者様と私たちは魔族の住む世界『魔界』への渡り方と姫が幽閉されているという『魔王城』の情報を手に入れるため、各国に現れたという魔族と戦うことを第一の目標として旅立ったのです。 ごえっぷ。
魔族との戦いは想像を絶するものとなることでしょう。一緒に旅立った仲間の内、果たして何人が生き残れるか。もちろん最初から誰一人として欠けさせたりはしないと決意してはいます。僧侶である私が癒しの魔法を行使して全員の命を必ず守り続けましょう。ですが、ですが最近、なぜかその決意が少しずつ揺らいできている、そんな気がするのです。 ごえっぷ。
ええ、申し訳ありません。先ほどからお聞き苦しい擬音のようなものが聞こえているかと思います。それは私のゲップですね。フフフ、まさかこんなことになろうとは、神様にも教えてはいただけませんでした。今や私のお腹はポーションの飲みすぎでパンパンに膨れ上がっています。人間のお腹には入れようと思えば結構な量が入れられるんですね。こんな真実知りたくもありませんでしたが。私の体形に合わせて作られたローブが、お腹のあたりだけ突っ張っていて今にも破けてしまいそうです。ああ、話の途中でしたね。私の決意が揺らぎ始めたのは一番最初の魔王軍幹部を倒した少し後の頃からです。
それまで魔族との戦闘でできた傷や体力の回復は基本的に「体力ポーション」と呼ばれる小瓶に入った液体を飲むことで回復しておりました。しかしあの頃、飲みすぎたことが原因だったのか一本で回復できる量がごくごくわずかになっていたのです。そこで勇者様はいいました。 ごえっぷ。
「これからの傷や体力の回復は癒しの魔法でしよう。」
戦いを続けることで私は効率よく癒しの魔法が使えるようになり、行使できる回数が増えているのに回復量はこれまでと同量であったからです。だからといって魔法は無限に使える都合の良い力ではありません。使える回数にも限りがあります。こちらは「魔法ポーション」の小瓶で回復することができました。勇者様は体力ポーションより少し値段は高いが回復効率が良くなるからと、魔法ポーションを大量に買い込みました。そして私に皆の回復するよう指示したのです。そう、私の意志の揺らぎはこのはち切れそうなお腹こそが原因なのです。 ごえっぷ。
私がどんなに抗議しようと勇者様は魔法ポーションを次々と口に突っ込んで来ます。等級によって魔法の回復量が増えたりするポーションですが、私が飲まされているこのポーションは最低等級のほんのちょっぴりしか回復しないものです。上級ポーション一本で回復できる量がこの最低等級ポーションでは10本は必要になります。一つ等級を上げるだけで飲む量を半分にできるのですが勇者様は一番安価なものの方が魔法の回復効率が良いからと、この最低等級ポーションばかり飲ませたがるのです。最初の頃であれば最低等級ポーションでもほどほどの回復量だったのですが、こちらも飲み過ぎが原因なのか回復量がだんだん減ってきています。その分飲まなければならない量も増えるわけです。うっ……いい加減吐き気が我慢できません。意識も朦朧としてきました。次に戦闘があったなら私は意識が飛んでしまうかもしれません。早く次の街にたどり着かないでしょうか。今日は魔族の襲撃が多いせいでいつもよりもポーションを飲む量が増えているのです。どうか、どうか今日だけはもう魔族からの襲撃はありませんように、と心の底から神様に願いました。私たちは神様から与えられた試練を乗り越えることで強い力が得られるという信仰があります。そう、どうやら神様は私の願いよりも試練を与えることを選ばれたようです。試練が与えられたというのであれば私は立ち向かうしかないのでしょう。 ごえっぷ。
気力を振り絞って私は勇者様と共に魔族に相対します。現れた魔族達はなぜか私だけに攻撃を集中してきました。今回の神様からの試練は私では乗り越えられないようです。私は魔族からの腹パンを受けて意識を失いました。
オゲボロロラロラロロロロロラロロラロラロロ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます