僕と俺のねじれトライアングル~お互いの攻略可能ヒロインが、それぞれ逆グループに所属しているせいで、中々女の子からの好意に気づけないまま、どんどんと拗れていく青春ラブコメ~
増殖しないG
プロローグⅠ
♠
俗に言う、リア充と非リアの区別や定義って一体何なのだろうか?
カノジョまたはカレシがいること。もしくは、バーベキューやカラオケなどの多人数でのイベントに頻繁に参加したり、クラスやグループの中心で毎日をわいわいがやがや面白おかしく賑やかに過ごしている存在だとか。
きっと殆どの人はそう答えるんじゃないかな。
けど僕、
だって人生の充実具合を決めるのは、最終的にはその人個人の価値観によりけりなのではって、そう思うから。
スポーツや創作に夢中で打ち込んだ青春だって、それもまた一つのリア充の形だ。例えば、甲子園を目標に河川敷で汗と泥まみれになりながら自主トレに励む野球少年を見て、非リアの寂しい休日の過ごし方、なんて思う人はいないだろう? もちろん、eスポーツやカードゲームだとか、見る人からすれば余りいいイメージを抱かれないものであっても、夢中になっている時点で充実しているし、仲間達と研鑽しながらワイワイやってるその光景は、充分に立派なリア充の一つの形だと思う。特に僕は十六とこれまで生きてきた人生の中で、これといって特定の何かに夢中になったことが――寝ても覚めてもそれだけのことばかり考えているような、そんな境遇に陥ったことがないから羨ましい。一応、小中ずっと続けていた習い事はあったけど、流されてやってた部分も大きくて、自分には合わないってのも薄々わかっていたから中学卒業を気に辞めちゃってるしね。
きっと多くの人が夢中の矛先を恋愛に、男女間の交際へと向けるから、一般的にはリア充がそんな認識になってるんじゃないかなぁ。
でも夢中だけがリア充に繋がる全てってわけでもなく――
つまり僕が何を言いたいかっていうと――
例えカノジョや、打ち込める存在がなくたって、おまけにスクールカーストの底辺にいたとしても、本人がそこに充実感さえ覚えていれば、それはきっと立派にリア充していることになるんじゃないかって。
そう、オタクの陰キャでカノジョいない歴=年齢の僕だけれども。
日中は友達との楽しいオタトークに、放課後は二次元嫁と戯れる趣味満載の部活動。その中で起こる恋愛とまではいかないけれど、オタ趣味仲間な女の子との思わず異性であるのを意識させられるようなドキッとするちょっとしたイベントに、それから家が隣の幼なじみ(男)とダラダラと馬鹿やって過ごす夜や休日。これが僕の、
一般的な認識とはちょっと離れているかもしれないけれど、「今リア充ですか?」と問われたら、僕は「はい充実してます!」と笑顔で答えるに違いない。
この恵まれた人との縁に感謝しつつ。
……とまぁ、つい最近までの僕はわりと本気でそう思ってたんですけどね。はぁ――
ほんと心から……。
そんなのが単に僕の自惚れで、人生における絶対的な勝者の存在を特と痛感してしまった今の僕はこう思う。
世の中にはどう足掻いても勝てない、神に祝福された存在がいて、僕は生まれながら敗者でしかないのだと。
今リア充か非リアなんてのは、些細な事柄でしかなかったんだ。僕みたいな、持たないものは、最終的に持つ者をより一層そう引き立たせるための、悲しくて切ない運命が待ちうけているのだから。
そう、僕に友好的に接してくれていた女性が、実は恋愛面では僕のイケメン幼なじみにご熱心だと知ってしまったあの日。僕は特と思い知らされた。僕がこつこつと積み上げてきた好感度を、彼はたった一度の邂逅で一瞬にして追い抜き、それもあろうことかきっかけは僕からの紹介によるものだったのだからやるせない。
僕は彼の物語にヒロインを運ぶための端役でしかなかったんだって。
けれどもそんな絶望真っ只中の僕に、一つだけ変わらない感情があった。
それは幼なじみで、僕には不釣り合すぎるほどのイケメンハイスペッカーな親友の彼に、
不思議と彼に妬みや怒りを覚えなかったのは、きっとそういうことなのだろう。その女性よりも、親友の方が僕にとってかけがえなのない存在だったと。
だから僕は決心したんだ。
友人キャラらしく、龍君とヒロインとを結ぶ、恋のキューピットになってみせるって!
これは、最強スペックを誇る自慢の親友の青春を舞台裏から支えていく、いまいち華に欠けた僕という友人の視点で紡がれる、友人キャラによる創意工夫やちょっとした気苦労の物語。
欲を言えば、彼を主人公としたこのラブコメで、一度くらいは僕のメイン回がくることを祈って!
♣
こいつには絶対に敵わないと心の底から痛感した時、自分以外の人間は、一体どんな反応をするんだろうか?
憧憬、絶望、妬み、拒絶、平伏、感銘、崇拝、怨恨――ま、喜怒哀楽のどれが出てくるかなんてのは、その人の年齢や性別、関係性によっててんでばらばらになるに違いない。
ただ、その相手が十年以上の付き合いになる同い年の親友だった場合。この場合どんな感情が一番最優先で出力されるのか、ちょっと参考にしたいから尋ねてみたい。出来れば、早急に。
そう、仲のよかった学年でもトップクラスの美少女二人が、イケメンだともてはやされていたクラスリーダーな俺を差し置き、自称冴えないモブキャラと謳う我が親友相手に立て続きベタ惚れしていった、この場合――
その日は、学校生活自体は何ら変わることのない、いつもの一日だった。
俺こと、
テーブルを挟んだ先でそわそわと落ち着きなくしているのは、高一の頃から付き合いのある切れ長の瞳が高圧的な印象を与えがちな、金髪の少女。
高校に入学直後、同じクラスのよしみというか、彼女とは気がつけば複数の友人を含めた男女混合グループで一緒につるむようになっていた。夏はBBQや花火大会、冬はクリスマスパーティーに初詣と、振り返ると俺の高校一年の思い出には殆どこいつが絡んでいたと思う。彼女は女子側のリーダー的存在で、毎回どこどこへ行こう、何々をしようという発案はほぼ彼女が発端だった。一度やりたいとなったら多少強引にでも周りを連れ回すような、そんな少し勝手気ままでバイタリティーに溢れた少女。
けれど今の彼女は、普段の学校での女王様然としてどっしりと高圧的な態度とはどこふく風といったレベルで、いつになく弱気でよそよそしい。こんな彼女の姿を見たら、俺のクラスの連中はどう思うのだろうか? ま、普段だいぶ好き勝手傍若無人に振る舞っているだけに、参っているこの状態にしめしめと思うやつは少なからずいるだろうな。こいつの性格上、少なからず敵は作っちまうだろうし。
かくいう友人歴一年ちょっとの俺はというと――
絶賛、冷や汗ものだった。
実は俺はとっくに気付いているのだ。
彼女が何をもって、俺をこのような改まって二人きりで話せる場所に呼び出し、そこで俺に一体何を望もうとしているのかを。
あんなことがあった、あんな光景を見てしまった昨日の今日だから。
とはいえ、ここでいきなり「お前の言いたいことは全部わかってる」なんてこっちから宣告するのも不気味極まりない。だから俺は、あたかも何もわからないとばかりのきょとんとした顔で尋ねた。
「それで、わざわざこんなところに二人きりで呼び出してさ、話って一体何だよ?」
本当なら向こうから切りだしてくるのを待っていたかった。けど――店員から席に案内され、とりあえず注文したドリンクバーを選んできてからというもの、もう五分以上もずっと膠着状態だったからなぁ……流石に。
すると金髪の少女は、一瞬どきりと身体を仰け反らせたものの、覚悟を決めたかのよう小さく頷き、すうっと深く息を飲み込むと、怖ず怖ずと口を開いた。
「あ、あのさ。今日、あんたをここに誘ったのは、べ、べべ別にそんな深い理由があるってわけじゃないんだよね。た、ただちょこっ~と確認したいことがあったっていうか、ほんと、しょーもないことなんだけど」
あははと額に汗を浮かべて無理に笑う彼女。その視線は終始泳いでいて、肩まで伸びたご自慢のブロンドヘアーの先をそわそわと自信なげにいじっている。
「その……ほら、あんたの幼なじみの冴羽っていたじゃん。あいつってさ今、すすす好きな人とかいるのかなぁって……」
そう精一杯絞り出した彼女は、やはり俺と目を合わせようとせず顔を明後日の方向へと向けて頬杖を付き、グラスに入ったアイスコーヒーを必要以上にストローでかき回していた。顔の変わりに俺へ向けられた耳は、緊張を表すかのようにほんのりと赤身を帯びている。
「――冴羽っていたじゃん」っておい! 何かそこまで知らない人感出してるけど、健吾は俺とお前のクラスメイトで、そもそも昨日一緒にいただろ!
などと激しく突っ込める空気ではないので、俺は当たり障りなく返す。
「さぁな。確かに俺と健吾は幼なじみで親友だけど、あんまそういった恋バナっぽいやりとりはしないからなぁ。あの二次元好きの健吾に、リアルで好きな人がいるかなんて正直さっぱりだ」
「ふ~ん、そうなんだ……。ま、あんな二次元オタクでキョロ充の童貞チビがリアルで女に相手されるわけないから、カノジョがいないことは確かっしょ」
にひひっと愉快そうに笑う金髪ギャル。
おいおい、さっきはまるで知らない体だったのに、今度はめちゃくちゃ詳しいじゃん。気付いてるか、設定が矛盾してっぞ。
と、俺が内心で肩をすくめながら笑みを引きつらせていると、
「えっ……何よその意味ありげな苦笑い。もしかして、心辺りがあるとか、そんなおかしなこと言わないよね?」
眉間を歪め心底不安そうな表情で見つめてくる。ここに来て初めて面と向かって見た彼女の顔は、一年もの付き合いのある俺が完全に知らないもので。
「そんなわけないだろ。もしあいつにカノジョが出来てたら、健吾は真っ先に俺に報告してくるはずだし。もしそうじゃなかったとしても、健吾が俺に隠し事なんてしててもすぐばれるさ。健吾のやつ、そういうのほんと下手だからな」
「……そ。ま、どうでもいいけど」
カラカラと冗談っぽく笑う俺に、彼女は素っ気なく顔を背ける。その前に九死に一生を得たかのような安堵の息を漏らしていたことについては――見なかったことにしよう。
「で、話ってのは今ので終わりなのか?」
「なわけないっしょ。あんだけだったら教室でさらっと聞いてるし」
いやいやさっきの躊躇ぶりじゃ、どう考えても絶対に無理だろ。
「ほらこれ。昨日冴羽があたしに貸してくれたハンカチ」
そう言って彼女が取り出したのは、紅の髪に豊満なバストが印象的な、露出度の高めな服装で、ギャルっぽい快活そうな女の子のイラストがプリントされたハンカチだった。椿はそのハンカチをテーブルに広げて指を差す。
「このハンカチのイラストみたいに、派手な容姿のギャルっぽいのが、冴羽の理想のタイプってわけなんでしょ。リアルでもさー、ビッチとか何だかんだ批判いいつつも、実はツンデレ的なやつで、本心ではあたしみたいなのとそういった関係になるのに憧れてると」
まぁ胸だけは雲泥の差があるけど。
「ん、あんた何か、不愉快なこと考えてない?」
「い、いやそんなこと――まぁそうなんじゃないか。健吾曰く『僕の嫁』、だそうだし」
俺が肯定すると、彼女の口が嬉しそうに「うひひ」と緩む。あいつの以前の「僕の嫁」とやらが黒髪ロングのザ清楚系だったことについては、空気を読んで黙っておこう。
「ふ~ん。ま、そんなどうでもいい情報は置いといて――あたしさ、昨日のこのハンカチのお礼をどうすっかな~って、今日一日ずっと考えてたんだよねー。貸しを作ったままってのは、あたしの性分的に嫌だし」
「へぇー」
「そんで考えた結果思ったの。冴羽がこんな二次元の絵を嫁とか言って現実から逃避行した空想の世界に浸っているのって、自分に自信がないからっしょ。ほんとは本物のギャルと触れ合いたいくせしてさ。だからさ、あたしがいい思いさせて自信つけてあげて、あいつにリアルの、三次元のよさに気付かせてやろうと思うんだよねー。ほら、一度いい経験すればもう一度――って恋愛に前向きになるかもしんないんじゃん」
「へ、へぇ~」
「龍馬だって、いつまでも親友が二次元しか愛さない陰キャオタクのままじゃ嫌でしょ」
「いや俺は別に――」
そう尋ねておきながら、金髪ギャルは俺の意見に耳を傾けようとせず、尚も揚々と話を進めていく。
「それにさー、あの陰キャの冴羽が、まさかの正反対な立ち位置にいるあたしにゾッコン――ってなったらマジウケるじゃん。クラス中が驚愕すること間違いなしの、超エンターテイメントだと思わない」
傑作とばかりに手を口に当てて豪快に笑う彼女。けれどその目は全く笑ってはいなくて。
その笑顔に恐怖を覚えた俺は思わず渇いた笑みを零す。もうこれ以上深入りするのに躊躇したくなるというか、叶うことならもう帰りたかった。
それでも、親友に危害を加えるつもりなら、ここで踏みとどまるわけにもいかない。
「あのなぁ。一体何をしでかそうとしてんのかはわかんないけど、健吾を困らせたり、あいつの純情を弄ぼうってなら、親友の俺としてはむざむざ見過ごすわけには――」
「あはは、そんな恐い顔しなさんなって。龍馬が心配しなくとも、冴羽がマジであたしに惚れちゃったら、そん時はちゃんとあたしが責任もって付き合ってあげるから。ちょうど今あたしフリーだったし。……ま、あたしに他に付き合いたい人が出来ちゃったら、その時は残念だけど別れてもらうことになるけどさ」
最後の一言が、照れ隠しで付け足されたと把握するのは安易なことだった。
だって、目を伏せてそう言った彼女は、健吾の私物だったハンカチを、愛おしそうに頬にぎゅっとあて、とろんと頬を緩ませ何ともまぁ幸せそうな顔をしていたのだから。
とはいえ、俺は最初からわかっていたのだ。
ここに誘われた理由が、親友に対しての恋愛相談であることを。
そう、俺はつい昨日、一人の少女が、
よりにもよって、全く真逆の世界に属しているといっても過言ではない俺の親友に。
その大事件が起こる直前までは、やれオタクだの陰キャだのキモイだの、言いたい放題で散々馬鹿にしていたにも関わらず。
なのに、俺がそこまで慌てていてなかったのは、昨日の大事件から一日経ったからというよりも、こんな状況に遭遇するのが二度目だったのが大きいのだと思う。
また、なのかよ!?
そんな行き場のない叫びだけが俺の胸中で木霊する。ぶっちゃけ、俺の心を占めるのは、こっちの方が絶大だ。彼女よりも、その想い人である健吾に対しての感情が。
そう、以前にもあったのだ。
俺と同じグループに属する女子が、それも学年で一番の美少女と噂される子から二人きりで話がしたいと誘われたと思ったら、親友である健吾に対しての恋愛相談が待ち受けていた展開が……。
それも割とごく最近、たった二週間前の出来事で――
親友にお熱な金髪ギャルを前に、俺は改めて思い知らされる。
どうにも、
そりゃあ健吾は俺にとって唯一無二の親友だし、幸せになって欲しいと心から思ってる。あいつの魅力や格好よさなんてのは、俺自身が一番よく理解してるさ。
けどなぁ――
いくら何でも二連続でこの展開は、それも噂されるほどに仲のよかった女子が立て続けに親友を好きになっていくのは、ちょいとあんまりじゃないですかね!
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