第13話
「里巳くん、立てる?」
「はい」
先生に促されるまま立ち上がって先生についていくと一台の車があった。
「乗って」
と言って先生は後ろの座席に自分と俺の荷物を置いた。
「え?大丈夫ですよ、自分で帰れます」
「なに言ってんの。そんな危ないことさせれる訳ないでしょ」
先生は俺の背中に回って助手席へ促した。
なんだよ、さっきから病人扱いして。
でもどうせなに言ったって、俺の意見なんて聞いてくれないと悟った俺は、先生の好意に素直に甘えることにした。
小さい頃から体調を崩すことはよくあったけど、こうやって誰がそばにいてくれたことなんてなかったよな。
まあ、先生は先生の業務として一緒に居てくれただけなんだろうけど。
それでも嬉しいとか思ってしまう。
「ありがとうございます」
そう言って助手席の扉を開けると
「素直でよろしい」なんて言って先生は笑う。
助手席に乗り込んだものの、なんかソワソワする。
なんだろう、さっきからこのむず痒い感じは。
運転する先生を見てみれば、両手でしっかりハンドルを握っていて。
腕がピーンと伸びていて緊張している面もち。
「先生、もしかしてペーパーだったりします?」
「う、うるさいな。気が散るから黙てって」
真剣にハンドルを握っている先生がすごくかわいくて。
俺は緩む口元を自分の手で隠した。
*
俺の住むマンションの前までついて車が止まった。
運転が終わって「ふう」とため息をついている先生。
「家帰ってもご飯しっかり食べて、すぐ横になってね。絶対外出したらダメだからね?!」
先生も無理な運転で疲れてるくせに。
俺の心配ばっかりしちゃって。
なんなんだよ。
「一つ気になってたんですけど」
「ん、なに?」
先生は俺と目線を合わせる。
「先生は、愛してるゲーム、誰に負けたんですか?」
「え?なにそれ」
今聞くようなことではないと思う。
でも今聞かないと絶対もう聞く機会なんてないし。
ずっと気になってたから。
「柾木くんに負けちゃったの」
は?柾木に?
「生徒相手に照れるとか…」
先生としてどうなんですか?と聞きそうになって止めた。
相手が柾木と聞いて尚更そう思った。
「違う違う、柾木くんが里巳くんの名前出すから」
「俺?」
なんで俺が出てくるんだよ。
「柾木くんなんて言ったと思う?」
今度は逆に俺に質問してきて。
「さあ?」
検討も付かない俺。
そんな俺を見て、先生は嬉しそうな顔をしながら口を開いた。
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