9.33.仲間たち
毒がライドル領から掻き消えた。
だが、毒の発生源となっている魔物をどうにかしなければ、この領域は解除することができない。
持久戦。
俺の魔力総量がなくなる前に、皆に魔物を討伐してもらわなければならなかった。
この領域であれば味方はどんなに怪我をしても一瞬で治る。
多少の無茶は効くだろう。
『頼むぞお前たち!!』
この領域の維持は、とんでもない集中力が必要だった。
他の魔法を使って仲間を手助けしようものなら、すぐにでも解除されて毒が再びライドル領に充満してしまうだろう。
それだけは絶対にしてはならない。
『お、オール兄ちゃんは僕が守る! 皆は、他の仲間を!!』
『任せたぞデルタ!!』
人形遊びという土魔法で、デルタは多くの味方を作り出して俺の周囲を固めてくれた。
それによって小さな魔物はそう簡単に近づくことはできなくなる。
『これなら接近戦ができます! 行くぞ皆!!』
空間の浄化に気付いたヴェイルガ含む一角狼が、纏雷を纏う。
二匹一組を作って一本の雷で繋ぎ、とにかく速く、そして歩幅を合わせて走り抜ける。
雷に触れた魔物は感電し、黒い煙を口から吐き出した。
それだけでアンデットは死なないかもしれないが、どうやら体の中を完全に焼くことには成功したらしい。
呼吸器官は破損し、使い物にならなくなったようだ。
ニアも攻撃することができるようになったので、光魔法を使って次々に魔物を浄化していく。
昔教えた太陽の杭。
それを何個も作り出してアンデットに突き刺す。
これだけのことができるようになっていたのかとその姿を見た誰もが感心した。
メイラムは毒治療に専念しなければならず、戦闘はほぼできていない。
しかし、調べてみてこの毒が比較的弱いものだということが分かった。
どうやら体を動かさなくする毒が多く含まれているようで、生命に危険の及ぶ毒は少ない。
だが吸い続ければその限りではないようだ。
この毒は体を麻痺させ、アンデットに止めを刺してもらうことを目的に作られている。
さすがに強力な毒を何個も作り出すことはできなかったのだろう。
それが分かったのであれば後は抗体となる毒を作って、それを全員の口に放り込めばいいだけだ。
やることが決まった後のメイラムの動きは速い。
瞬時に解毒薬と抗体を作り出し、それを小さな玉にして浮遊させる。
『……俺の、仕事だ』
解毒薬を倒れている人間に投与していく。
とんでもなくマズいようで口にした瞬間跳び起きているようだが……。
良薬口に苦しとか言うし仕方ない。
「うぇぇええ!? なんっだおええええ!」
「げぇっほごほごほごほ!」
いや、結構なダメージ入ってんな。
まぁ生きてるからいいか。
倒れていた人間も、俺の回復魔法によって完全に回復している。
さすがに死人までは復活させることはできないが、多くの命は守られたらしい。
状況をまだ飲み込めていない人間たちだったが、とにかく魔物を倒さなければならないと立ち上がって武器を手に取った。
『デルタ……! 他の仲間は!?』
『だ、大丈夫……! ドロが守ってくれたみたい! そっちまでオール兄ちゃんの回復が飛んでるから、怪我も治って今は戦ってくれてるよ!』
『……よし……!』
『だ、大丈夫!?』
『……集中してるだけだ……』
本当にこの魔法めちゃくちゃ難しい。
会話するだけで精一杯なんだもん。
ズガガガガガッ!!
突然、周囲から地面が削れる音が聞こえた。
デルタの人形が壊されたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
『ベンツか……』
匂いで分かった。
先行したから、あいつは多分さっきまで毒にやられて倒れていたんだろう。
傷が回復し、メイラムの毒治療によって復活した後、恨みを籠めて走り回っているようだ。
走る度に地面が抉れ、一瞬で魔物を細切れにして雷で焼き切るベンツは誰も止められそうにない。
あいつがあの調子なら、ライドル領の中にいる魔物は全滅させることができそうだな。
これ以上湧かないように俺が地面を固くしたし。
……いや待て。
硬くした地面抉るってどういうことだ。
『オール兄ちゃん! こ、こっちはもう大丈夫! あとはレイやバッシュがいる場所だよ! 子供たちはみんな無事! 人間の子供たちもね!』
『……よし』
『でもまだ敵が湧いて出てる! ワープゲートから……! 数も増えて、出てくる数も増えてきてる……』
前線は人間たちと仲間たちで何とか抑えているが、それも時間の問題だった。
こういう時、光魔法が得意なヴァロッドがいてくれればと思うが……。
いない者に助けを求めても仕方がない。
とにかく今は自分たちだけで何とかするしかないのだ。
接近戦ができるようになった冒険者は、仲間たちと協力して敵を殲滅していた。
レイドの総指揮と、ハバルの伝達によってアンデットの呼吸器官を全員が集中して破壊しにいく。
戦いやすくなったことで避難もしやすくなり、ようやく女子供は戦線から離脱することができたようだ。
とにかくこれで一安心。
周囲には毒気もなく、魔物もいない。
しかし……。
『くっそぉおお! いつまで出てくるんだよこれ!!』
『ぬぅううう!! あっちいけなのー!!』
『『も、もう駄目……つ、疲れた……』』
最前線で戦っていたシグマとラムダがその場に伏せてしまった。
魔力は回復するとはいえ、体力は消耗し続ける。
まだ子供のこいつらにしては良く持った方だが……。
湧き続ける敵に、限界が近づいていた。
『ぜぇ……ぜぇ……ヴェイルガ……そっちはどうだ……』
『こちらは、終わりました……。ベンツ殿……仲間たちの元へ……』
『そのつもりだ……!』
このタイミングで、ライドル領内のすべての敵をベンツと一角狼は殲滅させた。
しかし、体力は消耗しきっていた。
ただでさえ毒を吸い込み、本調子ではないのだ。
行かなければならないと分かっていても、体が言うことを聞いてくれない。
『ぐぅ……! 動け体ぁ……!』
『ベンツ殿……! デンザ! ベリー、ベナ! お前たち……行けるか!?』
『すまない、ヴェイルガ……。体力の限界だ……魔力の回復にも時間が欲しい……』
『『ごめんなさぃ……』』
彼らは無茶をしまくった。
常に最大出力の雷を使い続けなければ、敵は焼ききれない。
加えて速く殲滅しなければ、援軍に向かうのに時間が掛かる。
雷魔法を自分たちの持てる最大限の出力で使用し、暴れまくった。
それにより体にかかる負担は大きく、息を一瞬付いた瞬間疲れがドッと体に押し寄せたのだ。
今立つことができる仲間は、いない。
『行かなければ……! まだ敵は湧いているんだ……!!』
『気持ちは同じですが……! その体では行っても!』
『ぐっ!』
『ベンツ殿!』
体を足で支え切れず、ベンツはどさりと倒れてしまう。
それからは立つことができないらしく、地面を何度も叩いて不満を露わにする。
『だが行かなければ!! 兄ちゃんが!!』
『じゃあ私が行くわねー』
『!!!?』
巨大な影が、ライドル領を覆った。
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