9.21.拠点放棄
『なんだって……? ダークエルフ?』
聞き直してみるが、バッシュは小さく頷いてそれを肯定した。
ちょっと待てどういうことだ。
俺は臭いを感じ取りながらあの時いたダークエルフは全員始末したはず。
本拠地にはルースを置いていたので、樹木たちによる索敵で近づいたらすぐに分かるようになっていた。
あいつらにはこの本拠地について知らないはずだ。
だというのにここまでピンポイントで来るか?
このタイミングで?
いやそれより一番大事なのは……!
『ダークエルフがその毒の花を置いたのか!?』
バッシュはそれにも小さく頷く。
自然に咲いた花ではない。
持ち込まれた特殊な花だったのだ。
考えてみればあんな岩だらけで暗い洞窟の中に花なんて咲くはずがない。
誰かが持ち込んだと考える方が自然だ。
『どうなってやがる……』
『兄ちゃん、これはどういうことなの?』
『分からん。あの時討ち漏らしたか、それともその仲間がやってきたか……。だが討ち漏らした敵はいなかったはず。だからその仲間が俺たちに敵意を向けることは考えにくい。なんか知らんがダークエルフの間では俺たちは崇める対象らしいからな』
ぶっちゃけ生き残りがいたかどうかはどうだっていい。
それが敵になるだけなのだから。
問題は……。
『でもオール様。ダークエルフはどうやって僕たちの本拠地を見つけ出したのでしょうか?』
『そこだよ分かんねぇのは。ただの偶然にしては出来過ぎてる……。ルースも察知して俺に連絡を寄越してくれたくらいだ。急な出来事だったとは思うんだが……』
ここで話し合っていても分かんないな。
ていうか全部憶測だし……。
とりあえずルースが起きるのを待った方がよさそうだ。
それと……。
『……この本拠地は放棄する』
『どういう意味?』
『捨てるって意味だ』
『……残念だけど、妥当だね……』
『名残惜しいです……。でも僕も仕方ないことだと思います』
拠点がバレた。
それだけで向こうは攻める方法をいくらでも考えることができるようになる。
壁も堀も罠もないただの洞窟。
ここを長い間本拠地にできたのは幸運だったのかもしれないな。
水辺はあるし、滝もあって遊べるし、広い平原が近くにあって食べ物も豊富だった。
言うことなしの拠点だが……。
こうなってしまったからには、同じ場所に滞在し続けるのは危険すぎるだろう。
『ベンツ、ヴェイルガ、メイラム。こいつらを連れてライドル領に戻るぞ。拠点は俺が何とかする』
俺の言葉に、全員が頷いた。
闇の糸で全員を持ち上げ、ワープゲートを出現させる。
ライドル領に繋いだことを確認し、誰がこれを通るのかを確認した後、今回は俺が最初に通った。
ワープゲートを通った先はライドル領にある第三拠点だ。
すぐに中に入って五匹を寝かせる。
その後に続いて入ってきたメイラムが、様子を見て容態を観察する流れになった。
ひとまずはこれで安心だろう。
あとはこいつらに美味いものを食べさせてあげなければな。
シャロに頼んで料理してもらうか。
幸い、食料はいっぱいあるからな。
子供たちのこともあるので、俺は皆の場所へと戻ることにした。
第三拠点にはメイラムとヴェイルガ、そしてベンツを置いている。
何かあってもあの三匹がいれば何とでもなるだろう。
『オール様!』
『兄さん! 大丈夫だったのか!?』
『ガルザとガンマか』
二匹が俺の匂いを嗅ぎ取って走ってきたらしい。
心配そうにしていたが、ここに来て五匹の新しい匂いを嗅ぎ取ったのだろう。
更に心配そうな顔をして、俺に答えを求めてくる。
『……最悪だ。ダークエルフに襲撃されたらしい』
『ダークエルフだぁ!? あれは兄さんが全部ぶっ殺したんじゃねぇのか!?』
『分からん。討ち損じたのかもしれない』
『……ですがそうだとしても、本拠地がバレていたのは意外ですね……。留守を任せた仲間は無事なのですか?』
『仲間は無事……とは言い切れないな。ルースが詳しい状況を知っているから、目を覚ましたのちに話を聞いてみることにする』
襲撃してきたダークエルフは多分一人だろうな。
大人数だったら戦っていただろうし……。
もしかしたらバルガンかリッツはそのダークエルフの姿を見ているかもしれない。
今はあいつらの回復を待つしかないな。
『その間、お前たちはより一層周囲の警戒を頼む。ガルザ。ヴェイルガは今連れてきた仲間を任せているから手が離せない。お前が一角狼たちを指揮してくれ』
『分かりました』
その後俺は、ガンマの方を見る。
『ガンマ。お前には情報収集を頼みたい。俺がダークエルフを殺した場所を見に行ってほしいんだ』
『へっ、なんかあっても俺なら大丈夫だって。心配すんな!』
『頼む。他に何か気になるようだったら、もっと詳しく探してもらっても構わん』
『了解! じゃあ行ってくるぜ!』
『場所は分かるか?』
『分かんね……』
心配だな……おい……。
まぁガンマらしいっちゃらしいけど……。
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