8.13.蛇肉パーティー
解体も夕方にはすべて終了し、鱗は武具屋に持ち運ばれて明日にでも整形される予定だそうだ。
防具になるのはもう少し時間が掛かる。
兵士の採寸や調整なんかもあるので、それは仕方がないことだ。
さて、大きな仕事を一つ終わらせた彼らは、ケバラスネイクの肉を使って宴会を開いていた。
これだけの肉が大量に手に入ったのだ。
一気に使ってしまわなければ腐ってしまうだけだし、なにより高級品。
誰もが口にしたいと思うことだろう。
冒険者や領民は家から肉を焼くための鉄板を持ってきたり、調理をする為の場所を確保したりと、相変わらず忙しそうにしている。
俺たちは今のところ何も手伝えることがないので、その様子を遠巻きに見て肉が調理されるのを待っているところだ。
焼いた肉は美味いからな。
それに人間は少なからず調味料なんかも持っているだろうし、今まで食べてきた肉よりおいしく食べることができるはずだ。
その事を聞いてレイやセレナは尻尾を振って待機している。
狼たちも全員呼んできているので、この場にいる誰もがケバラスネイクの肉を口にする事ができるだろう。
なんかすごい賑やかになってきたな。
『なぁ兄さん。これは何をするんだ?』
『ケバラスネイクの肉を焼いて皆で食べるんだってさ。食べないと腐るからな』
『? 兄さんの無限箱に入れればいいじゃねぇか』
『そんな便利なものがあるって知れたら、俺が忙しくなってしまうよ』
『あ、そ、それもそうか……』
長期の保存方法が干し肉にするくらいしかない世界だ。
あの箱の能力を彼らが知れば、いろんなお願いを聞かなければならなくなる。
それは面倒くさいのでね。
極力隠していきますよ、はい。
あれは俺たちの仲間にだけ使うものだからな。
数も増えてきたし、ヒラ以外にもこういう魔法を使える子供がいればいいね。
『良い匂いー!』
『だなだな!』
『美味そうー!』
子供たち三匹がはしゃいでいるな。
ガンマの子供のシグマとラムダも人間たちには慣れてきたみたいだし、なにより匂いで悪い奴かどうかを判断してくれる。
行商人が去ってからは悪い人間はいないらしいが、こいつらの存在はありがたいな。
ヴェイルガたちは戦力として十分すぎる能力を持っているし、メイラムに至っては人間たちの恩人に当たる狼なので、一番扱いが丁寧な気がする。
ラインは最近色んな所に行って狩りをしているらしいけど……ベンツみたいに足が速いから、結構遠くに行ってるんだろうな。
匂いもしないしね。
で、そのベンツだけはまだ不満を持っている。
まぁセレナが原因だろうけど……ここまで上手くやってるんだ。
そろそろ子離れしてくれないかなぁ。
……難しいか。
「よーし! 皆食べられるぞー!」
「お! 待ってました!」
「お酒持ってこよーっと」
待っていると、どうやら肉が焼けたらしい。
子供たちはすぐにベリルの所に行って、肉を貰おうと周辺を走り回っている。
元気な子供たちだな。
『三狐は蛇の肉を食べるのか?』
『『『私たちはオール様の魔力があれば問題ありません』』』
『あ、そういえばそうだったな』
なんかそれって便利なのか残念なのかよく分からないよなー。
んじゃ俺も貰いに行こ~っと。
……っつても、俺の体に見合う肉なんて用意されているはずないか……。
自分で焼いた方がよさそうだな。
もう魔力制御も上手くなってるし、火力調節もできるからね。
昔みたいに全部焦がしてしまうなんてことはありません。
何処かにまだ料理されてない肉ないかなぁー。
お、あるじゃん。
ちょっともらうぜ~。
「はいはい、ちょっと待って……」
『はーやくぅー!』
『『早く! 早く!』』
『大人しく待てんのかお前らは』
『『『待てん!』』』
ガンマが退屈そうに子供たちの面倒を見ている。
大きな体だし、貴族を襲ったということもあって少しだけ恐れられている様だが、ベリルは変わらない対応をしてくれていた。
話はすべてセレナを通して聴いているのだ。
ああなるのが普通である。
「貴方も食べます?」
『……セレナ、なんて言ってんだ?』
『お肉食べるー? って聞いてるよ』
『俺はいい。子供たちに食わせてやってくれ』
『だってー!』
「分かりました」
ベリルは焼いた肉を三匹に分け与えていく。
焼くことによって旨味が増しているようで、子供たちは大変うれしそうに食べていた。
「おわああ! 火が消えるぅ!! 肉が凍ったぁ!? ってかさっむ!!」
『え? あれれ? なんでなのー?』
『レイ! お前が近づくからだよ!』
『ええー!!』
少し離れたところでは、新しく来たレイの能力を知らない冒険者たちが、周囲に漂っている冷気に悪戦苦闘していた。
遠巻きに見ている者たちは笑い話で片付けているようだ。
それどころではない彼らは、何とかして火を消さないように炎魔法を維持しようとしている。
レイは冷気を周囲に纏っていないと、まともに活動をすることができない。
しかしその冷気は年々冷たくなっているようで、今は近づいただけで火が消えて肉が凍ってしまう程のもののようだ。
一方一角狼たちだけは普通に肉を貰うことができている。
いつもと少し違う高価な肉に、狼たちも満足している様だ。
そんな光景を見て、ヴァロッドが呟く。
「狼たちがいるだけで、空気が変わるもんなんだな」
「そりゃそうさ。こんな光景、どこ行っても見られないだろうしね。ハプニングしか起きないさ」
ヴァロッドの呟きに、ディーナが反応する。
彼女も肉を頬張りながら酒を飲んでいた。
普通に楽しんでいるらしい。
どちらかというと、業務に疲れてやけ食いしている様にも見えなくはないが。
二人は少し遠目から、賑やかになったライドル領を眺めていた。
とはいえ今は戦時中。
こういった安らぎも必要だろうが、彼らの心の中はまだ不安でいっぱいだ。
「ヴァロッド様や」
「今は普通でいいぞ?」
「……んじゃ聞くけどさヴァロッド。テマリア様は……」
「幸いテクシオ王国にも、サニア王国にも、アストロア王国にも行っていない。戦争が終わったら無事に帰ってくるだろう」
「相手がそれを知らなければいいね」
「その懸念をすべきなのはアストロア王国だけだな。そろそろ動き出すかもしれん」
「あいつは大丈夫かねぇ……」
「あいつ?」
「ハバルだよ。一角狼と契約して調査しに行った」
「ああ……」
今、アストロア王国にはハバルと一角狼のガルザが敵情視察を行っている。
彼が無事に戻ってくることができたのであれば、こちらとしても新しい情報を手にできるので動きやすくなるというものだ。
あとどれくらいで帰ってくるか分からないが、今はこの夜を楽しむのが良いだろう。
何もかも忘れて遊ぶのは、なんとなく心地よい。
背徳感がそうさせるのかもしれないが。
「わー! すげぇ!」
「あちち!」
「あんたたちもう少し離れておきなさいよー!」
声がする方向を見てみれば、フェンリルが一匹のケバラスネイクの肉を焼いていた。
そんなこともできるのかと感心する。
焼き終わった後は美味そうに食べていた。
「あれだけの強さを持つエンリルだ。戦争も問題なく勝てるさ」
「ああ」
ヴァロッドは手に持っていた肉に喰らいつく。
「……美味いな」
「いつもはもっと良いもん食ってるだろ」
「意外と普通だぞ? 懐かしい食べ方だ」
冒険者時代の懐かしい食べ方をして、満足そうにするヴァロッド。
早く戦争に勝って領民を安心させなければなと、心に再び誓ったのだった。
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