7.24.魔力総量が増えた理由


『そのこと、ですか』


 話をメイラムに聞いてみると、特に驚いた様子はなく冷静に答えてくれた。

 どうやら魔力組織が完全に破壊されていないものは、時間とともに治っていくのだという。

 だが今のベリルの魔力総量が、今の限界。

 これ以上は本当に戻ることはないのだという。


 あの毒は非常に強力ではあるが、毒が完全に回り切るまでは時間を必要とする。

 なので破壊されていない組織が残るのは普通だ。

 だが解毒治療ができなければ、完全に死に至る危険な毒。

 それをメイラムは治してしまうんだから、本当に凄い奴だと思う。


『メイラムってそういうのに詳しいよな。どこで勉強したんだ』

『……俺の、父親から……いろいろと』

『なるほどな』


 そういえば、俺はこいつらの過去についてあまり触れてなかったな。

 だが俺から聞くのもあれだし……。


『気になり、ますか?』

『多少はな。別に聞くことでもなかったから聞かなかったけど』

『オール様、らしいですね』


 メイラムは珍しく楽しげに話していた。

 だからかどうかは分からないが、聞いてもいないのに昔話をしてくれた。


『俺の……父親は、毒魔法で仲間を……多く助けました。新しい、毒を見つければ、食べて解毒し、力にし……それを敵に浴びせました。お陰で、話し方も、俺と同じでした』

『毒魔法を研究すると、そんな風にしか話せなくなるのか?』

『はい。毒です、からね。でもそれ以外は、普通なので……特に生活には問題、ない、ですね……。父親も、そんな事を、言っていました』


 そんな父親の姿を見ながら育ったメイラムは、知らない間に毒とは身近なところにいた。

 強力な毒、即効性の毒に遅効性の毒など様々なものを口にしてきた。

 今回の毒は初めてではあったが……。


『初めて見る毒、というのは……面白い、ものです』

『そんなもんかぁ……? 自分が死ぬかもしれないんだぞ?』

『狩りでは、そのような経験は……しません。だから、ですかね』

『俺にはちょっと理解できないな』

『フフフフ、オール様でも、分からないことが……あるのですね』

『そりゃそうさ』


 周囲の仲間たちは俺のことを過大評価してくれているからな。

 そんな大層なもんじゃないんだっての。


『でも、毒はいいもの……です。効果の違う毒、を作れた時……新しい、魔法を作り出した時と……同じ感覚、になります。その感覚は、オール様にも……あるのでは?』

『そう言われると、分からないことはないな。共感はできないけど……』

『まぁ、毒は、危ないものです……。ですが、魔法も……同じ様に危ないもの……。一つの毒で、十の技を……作るのは、非常に……楽しい』

『……研究者みたいだな』


 ふと、そう思った。

 こいつがやっていることは、研究に近いことなのではないだろうか?

 色んな毒を調べて、確認して、効果を見て、それを解毒して……技にして……。

 長い時間をかけて一つの結果を出す。


 うん、俺はメイラムは研究者に近いことをしていると思う。

 他の狼たちも、自分の魔法にそこまで積極的に向き合えたのであれば、更なる力を得られると思うけどな。

 性格的に無理だろうけど。


『それが何か、よく分かりませんが……』

『褒めてるんだよ』

『そう、ですか。フフフフ、魔力総量が、増える毒も、あるんですよ』

『……なんだって?』


 物凄い得意げに、メイラムはそう言った。

 だが、それがあるなら……。

 そう言いかけたところで、メイラムは首を横に振った。


『この毒は、回復魔法で削れた……魔力総量は……増やせません。魔力組織を無理やり……こじ開ける毒で、消えている……魔力組織を回復させ、ることはできない、のです』

『……そうか』

『それに、危険です。許容量を、超える魔力を蓄えると……破裂するので』

『怖すぎんだろ……。でも毒だからなぁ』


 危ないし、意味が無いから、スルースナーにはしなかった。

 いや、できなかったと言ったほうが正しいか。

 俺たちより長くあいつと一緒に旅をしてきたんだから、助けたくないっていうのは絶対に思わないだろうしな。


『ああ、それと……。何故だか使うと……気分が良くなる、毒もあります』

『それは絶対に使うな、いいな?』

『? はい』


 麻薬じゃねぇかやめろ。

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