6.43.増援の阻止
ヴァロッドやベンツ、ラインがライドル領の中に入ったダークエルフを掃討している時、俺は更なる援軍らしきダークエルフたちを殺しまわっていた。
こいつらは俺たちの未来を邪魔する者たちだ。
何もしないのであれば放っておくつもりであったが、これで二度目。
もう容赦は出来ない。
三狐がそれぞれの得意な魔法を用いで近くにいる敵を始末していく。
狭間狐の界は空間魔法を用いて引き裂き、日天狐である天は気候魔法に使用する炎魔法を使用して燃やしつくし、闇悪狐である冥は様々な闇魔法、暗黒魔法、深淵魔法を使用して敵を蹂躙していた。
範囲攻撃に特化しているのは圧倒的に冥であった。
重力を操る魔法、深淵魔法が強力過ぎるのだ。
周囲一定範囲内の敵を重力だけで押し潰してしまう。
発動されたらもう逃げる術はなく、ただ成されるがままに地面へと押し込まれていった。
界は単体攻撃が得意な様で、一体を確実に始末してくれる。
狙いも正確であり外したことは一度もない。
天はその中間に位置する制圧力。
炎を操ることができるらしく、狐火の様に動き回って追尾機能を持っていた様だ。
燃えればその高火力の狐火が爆発し、周囲にもダメージを与える。
随分と高温であり、飛び散った火の粉すらも他の草木を燃やしていた。
『やるなぁ。俺の出番ないわ』
『『『オール様の魔力のお陰です!』』』
『ああ、そうなの』
言われて気が付いたが、確かに俺の魔力を使用している。
微々たる減少だったのでそんなに気にならなかったな。
そもそも三狐たちは俺に憑りついて魔力を貰っているんだったか。
それを戦闘にも使用するんだな。
これだけ強い魔法を連発しているというのにこの魔力の減少量……。
最強のコスパである。
だがこれはこいつらの魔術の腕によるところも大きいだろう。
最小限で最強の攻撃を放つ。
こいつらを背に乗っけているだけでメチャクチャ楽である。
今度から戦闘は任せてもいいかもしれないな。
何かない限り。
すると、後方から黄色い光が数個現れた。
どうやら一角狼のヴェイルガたちが到着したようだ。
『オール様ぁ! ヴェイルガ隊到着しました!』
『おう。じゃああの黒い奴ら始末してくれ』
『道中にも結構いて全て始末しましたが、問題なかったですか?』
『ああ、そうなのか。それは助かる』
これ以外にも結構いるのか。
数は多いらしいな……。
人間の里にも結構な数のダークエルフがいたはずだ。
次から次へとこいつらは……。
どんだけ湧いて出てくるんだよ。
「な、どうして!? どうしてフェンリル様が!?」
「分からない!」
「一度撤退しましょう!?」
なんか木の上で喚ていている。
俺はお前らに何かをしたつもりはないので、様付けなどしないで欲しい。
『ヴェイルガ、天』
『了解です!』
『はいっ! 気候魔法、雷雲!』
天が大きく上に飛び跳ねると、周囲が暗くなっていく。
大きな分厚い雲が台風の様にグルグル回転しながら集まり、最後にはどす黒い雲に覆われた。
今にも雨が降りそうであったが、それよりも先に稲妻が雲の隙間を縫っていく。
バチリとヴェイルガの体が発行し、頭に生えている長い角に稲妻が集中する。
『雷魔法、落雷ッ! スーッ……』
それを解放するかのようにして遠吠えをした瞬間、数十という数の雷が地面に落ちた。
高所にいたダークエルフは木と一緒に焦げ落ち、その全ての雷が細い稲妻で繋がる。
それに触れた者も感電し、先程の界の深淵魔法よりも範囲の広い攻撃が繰り出された。
ヴェイルガの限定魔法。
角の長いリーダー格一角狼にしか使えない大技である。
仲間に当てないように雷の位置を角で調整し、敵だけを感電させる。
条件は少々厳しいのだが、発動条件が揃えば一瞬で敵を薙ぎ払うことができるのだ。
俺の知っている落雷とは全く違うが、味方となれば心強い。
雷雲がないと使えないが……これだけ強力であれば発動条件が限られるのも納得である。
『フルルルッ。どうですかオール様ぁ!』
『相変わらず半端ない威力だな。最後に見た時よりも高火力になってないか?』
『僕も特訓しているのです! 天殿のお陰でもありますけどね!』
『えっへん!』
この魔法を見たのはいつだったか……。
丁度こんな天候の時だったな。
見せたい魔法があるというから狩りについていったのだが……結局獲物は丸焦げで食べれなかった。
その時は笑い話で終わったが、こうして見てみると笑えないなぁ。
スンッ……。
いつぞや嗅いだ時の匂いがした。
仲間たちもそれに気が付いたようで、すぐに戦闘態勢を取って魔法を放とうとするが、俺がそれを止める。
『オール様?』
『あいつは俺が直々に殺す』
燃える木の上から姿を現したのは、ダークエルフ。
ここにいる狼は一度として見たことがないだろうが、俺はそいつに見覚えがあった。
「何故です……何故なのですかフェンリル様!」
名前は忘れた。
覚えてやる義理も意味もなかったしな。
それに当時の俺はここまでの余裕は無かった。
だが今は、その姿をしっかりと見ることができる。
随分……濁った眼をしていたんだな。
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