5.30.竜巻の被害


 初めは小さいものだった。

 風が強く吸い込まれる程度で、草木が揺れる。


 だが、それは次第に大きくなり始めて強い風が引き起こされ始めた。

 大きな音を立てながら発達していく竜巻は、空にいた魔物を吸い込んでいく。

 それは地面にいた魔物も同じである。


 吸われまいと踏ん張っていたようだが、抵抗むなしく体が宙に浮かんでいく。

 それは小さな魔物も、大きな魔物も例外はない。


「キュィイイーー!!」

「ケィイエエエン!」


 様々な叫び声を上げながら、発達していく竜巻に魔物たちは吸い込まれてもみくちゃにされていく。 竜巻は魔物だけではなく、森に生えていた木、そして転がっていた石なども吸い込む。

 それが中ですり潰す様に暴れまわっているのだ。

 竜巻の勢いも強い。

 石や木が魔物の体に当たり、嫌な音が鳴って動かなくなる。

 あんなものにぶつかれば、無事では済まないだろう。


 先鋒にいた魔物の軍勢を全て吸い込んだ竜巻は、後方にいた軍へを襲い掛かる。

 魔物の軍勢は竜巻を見て散りじりになって逃げようとしていたようだが、それは俺が食い止めた。


 風魔法の風圧だ。

 敵が逃げ始めているという事に気が付いた俺は、すぐに風圧を発動させてその動きを止めた。

 昔は一体の対象を転ばせるのが精一杯だった風圧だが、今では何百という数の敵を足止めできる程に強くなっている。


 その範囲も広大だ。

 任意の場所に発生させることが出来る為、魔物を風圧で吹き飛ばして竜巻の方へを持っていく。

 近くにこさせれば、後は竜巻が何とかしてくれる。

 俺は箒で埃を払うように、魔物を竜巻という塵取りに転がしていく。

 簡単なお仕事である。


『うわ。竜巻が赤黒くなってる……』


 恐らく魔物の血液が竜巻の中で暴れているのだろう。

 それか、土埃や木々に血が付着しているのかもしれない。

 どちらにせよ、とんでもないことが中で起こっている。

 中には入りたくないな。


 俺がそんなことをぼやいている間にも、竜巻は規模を大きくしていく。

 だが、俺は動かしていないので、被害は最小限になっているはずだ。

 風圧で魔物を転がしているだけだからな。


 だが、上空の敵は風圧で吹き飛ばすという事が出来ない。

 出来ないことは無いが、対象を一匹一匹に絞って発動させるのは骨が折れるのだ。

 だが、竜巻の影響でうまく飛ぶことが出来なかったらしい。

 そのまま吸い込まれて見えなくなった。


 後はこれの繰り返し。

 竜巻は新しい土や木を巻き込んでいくので、赤黒い色はちょっとの間だけしか見れなかった。

 それからはよく見る色の竜巻になる。


『いやぁ……これは父さんが使うなって言った理由も分かるわぁ……』


 昔はここまでの威力は無かっただろうが、それでもこれはヤバイ。

 竜巻ってここまでやばい奴だったんですね。

 映像だけだと分からないこともある物だ。


 数分もすると、地面にいた敵は全て竜巻に飲み込まれたらしく、風圧で吹き飛ばす対象がいなくなった。

 残骸はというと、擦り切れて細切れになっている様で、周囲が赤黒く染まっていた。


 竜巻は役目を終えると、すぐに小さくなって霧散する。

 消えるのはとても早い。

 そこからは石や木、土などがボトボトと落ちて来た。

 その全ては、所々が損傷したり、血であろう物が付着していたりしている。


『うへぇ……。やり過ぎたな。だけどこれで何とかなった。後は水魔法で掃除してから、森を再生するかぁ~』

『『『それがいいでしょう!』』』

『だよな。…………!? 誰だ!?』


 その声は、俺の背中から聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る