4.25.帰還


 皆で肉を焼いていると、ベンツが帰って来た。

 特に目立った外傷はないし、疲れているといった様子でもない。

 俺はベンツのその状態に安堵した。


『おかえり。どうだった?』

『あったよ……!』


 その言葉に、全員の表情が明るくなる。

 ようやく旅の終わりが見えてきたのだ。


 とは言え、今いるこの場所もそれなりに良い所だ。

 ダークエルフの住む森から少し近いのだが……。

 それを除けば、獲物もいるし、水は魔法で出すことが出来るので食べるには困らない。


 森の密度はあまり濃くはないのだが、それが逆に獲物を見つけやすい。

 ここには大きい獲物が多いからな。

 背の低い子供たちには有利な地形だ。


 それに、木も何もない大きな平原もある。

 ここでは魔法の練習をすることが出来るので、子供たちの魔法の熟練度は向上傾向にあった。

 魔法の練習、狩りの練習としてこの場所を見れば、とてもいい場所だといえるだろう。


 だが、暫く過ごしてみて、問題も明らかになった。

 ここは風が強く吹く。

 匂いに頼ることの多い俺たち狼には、それが最悪の事態を招く可能性もある。


 相手の位置をいち早く知るというのは、守り手に取って一番重要な事だ。

 俺でも強い風の中では、匂いを辿って遠くの様子を把握することはできない。

 嗅覚が俺より鋭くない子たちは、もっと苦労する事だろう。


 それに、やはり水場がないというのは問題だ。

 今まで狩って来た獲物たちは、移動をしている最中のモノたちだ。

 今は冬ごもりの為に移動しているに過ぎない。

 冬になればこの辺りに獲物は現れなくなるだろう。


 まぁ、過ごしてみないと分からないってのは変わらないんだけどな。

 でも、こんな風の強い場所で冬を越すのは勘弁だ。

 炎魔法があるとはいえ、あまり魔法の無駄使いはしない方が良い。


 ていう事なので、候補としては置いておくけど、まずはベンツが探してきてくれたところを優先してみておこう。

 山の方が俺もいいしな。

 平原は動きやすいけど、もう少し森の密度が濃い方が良い。

 我儘かもしれないが、願望があったほうが決まりやすいと思うのです。


 まぁ、ベンツが良いと思う所を見つけたんだから、まずはそっちに行ってみて考えてみよう。


『よし、じゃあ準備だな』

『何か準備するものあるの?』

『……ないな』


 よく考えてみたらそんな物無いですね。

 人間の時のくせが未だに残っているようです。


 まぁ、皆が狩ってくれた獲物は無限箱に入ってるし、これだけでも暫くは生活できる。

 結構狩ってくれたからな。

 怪我がなくて何よりだ。


 とは言え、まだニアの状態は完全じゃない。

 今日一日は此処で過ごして、明日から移動する方が良いだろう。

 ベンツもそのつもりだったようで、これには賛成してくれた。

 縄張りは逃げないからな。


 だが俺は少しだけ不安に思っていることがある。

 それは、オートが昔にいたという縄張りの事についてだ。

 オートは南に行けと、俺らに言った。

 恐らくオートたちは昔、南に住んでいたのだろう。

 だからダークエルフも俺たちの事を知っているのだ。

 実際に会ったと言っていたからな。


 だがそうだとすると、人間が住んでいる場所が近いという可能性も捨てきれない。

 オートたちは一度、人間に負けてここを通って逃げてきたのだ。

 そこにまた俺たちが向かうというのは、あまり良くない気がする。


 とは言え馬鹿正直に南に来ているわけではない。

 少しは進む方角もずれているし、全く同じ場所に辿り着くというとはないはずだ。

 縄張りが決まったら、広範囲を捜索して安全を確かめた方が良いのは確かだな。


 もし小さい村とかだったら……。

 狩ってもいいしな。


 ま、大丈夫だろう。

 皆魔法も持ってるし、なんなら俺よりすごい魔法が使える子もいるしな。

 自衛はできるはずだ。

 その辺の人間では手も出せないだろう。

 多分。


 確証がないってのがちょっとあれだけどね……。

 だが子供たちはよくやってくれている。

 俺も見習わなければならないな。


 じゃ、とりあえず今日は休むとしますか。

 出発は明日の朝だ。

 万全の状態で、出立しよう。

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