4.15.ダークエルフ


 頭上には武器を持ったダークエルフ。

 どんな攻撃をしてくるか分からない以上、下手に攻撃するのはやめておきたい。

 幸い、今相手は何かをしてくるような気配は無かったので、考える時間はある。


 こいつは魔法を使うのか?

 いや、まず間違いなく使うだろうな。

 人間でも普通に魔法を使っていたのだ。

 亜人に属するこいつらが使えないわけがない。


 とは言え、相手も様子を見る為なのか攻撃をしようとしてくるそぶりは見えない。

 こちらとしても、無駄な争いは避けたい所なのだが……。

 こいつも人だ。

 今の俺は、人型というだけで嫌悪してしまっている。


 明らかな偏見ではあるが、もう自分たちと違う種族というだけで恐ろしく感じるのだ。

 今すぐにでも殺して安全な場所にしたい。


 ていうか……ベンツはこいつを見つけれなかったのか。

 探索範囲が少なかったのかもしれないな。

 それとも……ベンツが走り回っているのに気が付いたから、こいつが来たのか?

 ふむ、どちらにせよ、少し探索の方法を改善する必要がありそうだな。


 ダークエルフの様子を見ていると、じっと俺を見て何かを考えている様だった。

 ぶつぶつ言っている様だが、自分だけに分かる音量で喋っているので、何を言っているのかは分からない。

 暫くすると、思い出した様にハッとして、慌てて木から降りてきた。


 なんだなんだ?

 やるんだったら普通に殺すぞ……?


 そう身構えていたのだが、次にダークエルフが取った行動は驚く物だった。


「すいませんでしたぁああああ!!」

『!?』


 ……え!?

 何言ってんのこいつ!?

 てか声でっか!

 うるせぇ!


 すると、後ろにあった家からガンマが飛び出してきた。

 ご丁寧に壁を粉砕しての登場である。


『兄さん大丈夫か!!?』


 ベンツが一瞬で俺の隣に来て、稲妻を強く発生させる。

 明らかに戦闘態勢に入ってはいるが、俺がまだ手を出していないという事に気が付いて、とりあえずは止まってくれた。

 それに、今いるのはダークエルフであり、他の人間とは違う存在だ。

 その事にも気が付いた様だ。


『兄ちゃん、こいつは……?』

『分からん……。だが敵意はなさそうだ』

『でも見られちゃったよ? 殺しとかないでいいの?』

『それを今俺も考えている所だ』


 明らかに敵意は持っていなさそうではある。

 だが、どうしていきなり謝って来たのか分からん。

 さっきまでの上から目線の立ち振る舞いは何だったの。


 っつても、話聞けないもんな。

 俺たち動物だし、こいつダークエルフだし。

 言語が通じない相手とどうやって話せばいいんだろう。

 あ、俺は分かるんだけどね。


 ダークエルフは、先程のガンマとベンツの登場でひっくり返ってしまっている。

 腰を抜かしてしまったのだろうか……。

 俺の知ってるダークエルフってこんなか弱くないぞ……?


『あー……えーっと? お前何なんだ。って、話が聞ける訳ねぇよなぁ』

「あ、え、えっと……! だ、ダークエルフのフスロワって言います!」

『…………通じてんの?』

「通じてます!」


 マジかよ。

 え、マジかよ。

 こんな展開あるんですねぇ~。


 まぁ……敵意は本当にないみたいだな……。

 こいつが信用できるかどうかまだわからないけど、とりあえず話を聞いてみるか……。


『ダークエルフって俺たちの言葉がわかるのか?』

「分かるのはダークエルフの中でも僕だけです。それに、群れの長でなければ会話をすることはできません」

『お前はダークエルフの長なのか?』

「僕は違います。このルワイドの森を覆っている大木の当たりを警備している下っ端です」


 ルワイドの森……。

 これがこの森の名前なのか。


 ていうかやっとこの世界が異世界だって言う事に実感を持った気がするぞ。

 いや、魔法がある時点でそうだとは思ってたけど、実感はできなかったんだよな。

 ダークエルフとかファンタジーの中でも王道のキャラじゃないか。

 ……まぁ人型ってだけで俺は嫌悪してるんですけどね。

 ごめんなフスロワ。


『何で謝ってたんだよ。驚いただろうが』

「あ、えっと! すいません!! フェンリル様を上から見下ろすなど! 万死に値する愚行にござましたぁあ!」

『一々煩いなもっと静かに喋れ』

「すいませぇん!!」


 う、うるせぇ……。

 夜の音量考えて喋って欲しい……。


 ってちょっと待て。

 なんだって?

 フェンリル?


『……フェンリルってのはどういう事だ』

「あ、そうですよね……。僕らが勝手につけた名前ですもん。知っているはずがありませんよね」


 なんかムカつくけどここは聞いておいてやろう。


「白くて大きな狼……。そしてエンリルを統べる存在、それこそフェンリル様。土地神とも言われていますし、守り神であるとも言われています。僕たちダークエルフはその存在を信じ、この土地を守ってきたのです」


 ……エンリルってのは昔の俺だよな?

 初めて見た人間がそう言っていた。

 であれば、他の狼たちもエンリル。

 で?

 今の俺は……フェンリル?


 リーダーになってフェンリルに進化したの……?

 あ、えっと……そうですかぁ……まじなの?


『フェンリルって……俺の事か?』

「そうですよ?」


 なるほど?

 いや納得はできないけど、とりあえず飲み込んでおこう。

 俺がフェンリルとかどうでもいい話なんだよな?

 今は。


 今大切なのは、新しい生活拠点を見つける事だ。

 俺の事なんてどうでもよすぎる……。


『兄ちゃん、こいつ何なの?』

『分からん。ダークエルフという奴らしいが……何でも俺たちの為のこの土地を守って来たんだってよ』

『いや、信じらんねぇよ。種族は違うかもしれねぇけど、俺はこんな奴らの事なんて信じねぇぞ』

『僕も』


 まぁ普通そうだよね。

 俺だって信じないもん。

 出会ってそうそうそんな事を言われても、誰も信じないだろう。

 これが罠の可能性だってあるんだ。


 こいつらが守ってきた土地とは言え、そこに入るのは憚られる。

 ていうか怖いし。


『……悪いが、俺たちはお前たちの守って来た土地に興味はない』

「そ、そうですか……。フェンリル様がそう言われるのであれば、無理にお引止めは致しません」


 ん?

 意外と諦めが良かったな……。

 ま、ダークエルフが住んでいる場所に俺たちが入ると、普通に邪魔になるだろうしな。

 こういうのは邪魔しないに限る。

 今まで通り過ごしてもらいたい。


 だが、こいつには最後に聞いておかなければならないことがある。


『おい、お前は俺たちの味方か? 敵か?』

「て、敵など滅相もございません! 何かあればすぐに駆けつけ、フェンリル様をお守りする一族にございます! そのようなこと決してございません!!」

『では、お前は帰った後、俺たちの事を話すか? 話さないか?』


 この問いで、俺はこいつを殺すか殺さないかを決める。

 話すのであれば殺すし、話さないのであれば生かしておく。

 情報の漏洩だけは避けたい。

 であれば何と言おうとさっさと殺してしまった方が良いのかもしれないが、少しだけ先程の言葉を信じてみようと思った。


 味方はいるだけ心強い。

 こいつさえ生きていれば、何かあった時役に立つかもしれない。

 今はそんな事しか考えられなかった。


 フスロワは少し悩んだ後、顔をあげて俺にこう言った。


「誰にも、言いません」


 これだけフェンリルに対しての忠誠を持っているのだ。

 この言葉は信じてもいい物だろう。


『分かった。では、誰にも見つからないルートで俺たちを先へ案内しろ。明日でいい』

「承知いたしました!」


 フスロワはそれだけ言いうと、ばっと立ち上がって森の奥へと走っていった。

 何をする気かは知らないが、とりあえずあいつだけは信じてみよう。


『兄さん、良かったのか?』

『ああ。あいつはこの森に詳しそうだ。案内だけしてもらう事にした。周囲に気配を感じたり、匂いを感じた時は俺に言ってくれ。問いただす』

『了解』


 とりあえず、ガンマが壊した家を修復する。

 来てくれたのは嬉しいが、もう少し静かに来て欲しい……。

 子供たちもびっくりしただろうな。


 今日はベンツと俺とで見張りをすることにした。

 ガンマは何があっても出てこないように命じ、子供たちと寝てもらう。

 とりあえず……明日まで何もないことを祈ろう。

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