3.19.作られた時間
オールが子供たちの可愛さに心の中でもんどりを打っている時、オートは既に人間を目視で確認していた。
目の良いオートしか、人間たちの姿は確認できていないのだが、それは既に全ての仲間に伝達されているため、群れの仲間も警戒をより一層強めている。
オートたちはこの場所に向かっている最中、爆発音を何度も聞いた。
あれはオールが仕掛けていた罠だという事が既に分かっていたので、そこまで警戒することは無く走って来れたのだが、その音と威力に数匹の狼は驚いてしまっていたようだ。
また面白い魔法を作ったな。
そう感心していると、雪崩のような音と共に、人間の悲鳴とも思える声が聞こえた。
流石にこれはオールの報告にはなかったため、一体なんだと警戒心を強めたのだが、その音には聞き覚えがある。
ロードの土狼だ。
土狼は雪崩、もしくは土砂崩れのような音を立てて進軍する。
その音にとても似ていたのだ。
先ほどの音は、恐らく土狼による物だろう。
随分前にロードがオールに何かを教えに行ったのは知っている。
だがまさか、自分の技を使えるようにさせるための特訓をさせていたのだとは思わなかった。
ロードは今違う所で防衛をしてもらっているため、あの土狼はロードの発動させた魔法ではない。
となれば、あれはオールが使用した魔法になる。
土狼が使えるのはロードとオールしかいないのだから、それ以外は考えれらないのだ。
『だが、俺の知っている土狼と違うな』
土狼は自分の足元から数十メートルの範囲内でしか発動させることはできない。
もし、オールが発動させたものだとすると、オールは縄張りの拠点から遠く離れたこの場所に土狼を発生させたことになる。
明らかに距離がおかしい。
どうすればそのような業がこなせるのだろうかと、オートも考え込んでしまった。
全属性の魔法を使えるオートも、この魔法が使える可能性があるのだ。
考えないという選択肢はない。
だが……オートはもとより物体を動かす魔法は苦手なのだ。
なので水狼もできないし、土狼も使うことが出来ない。
オートが得意とする魔法は、風や炎と言った属性攻撃。
それであれば殆どの魔法で様々な種類の攻撃を放つことが出来る。
前に使った光魔法の聖槍は、物体というより光なので、あれも簡単に使用できるのだ。
『そんなことを考えている場合ではないな』
オートは目の前に集中する。
仲間たちには待機をさせ、オート自身が敵の様子を探った。
目を細めてじっと見てみれば、また土狼の波が人間たちを襲うのが見て取れる。
だが、あの土狼は人間を殺すのではなく、怪我をさせて外に放り出しているように見えた。
何のためにそんなことをしているのかわからなかったが、しばらく様子を見てみると、その動けない人間たちを助けている人間が数名いることに気が付く。
怪我をしてしまった者たちは一ヵ所に集められ、手当てをしてもらっているようだった。
『……オールめ。考えるじゃないか』
敵の位置があれで固定された。
そして、動けるはずの者も怪我をした者に付き添わなければならないので、また数十人の人間の行動が制限される。
それにより、オートたちと正面切って戦う人間が少なからず減っていたのだ。
罠はもう克服されてしまったようだが、あれだけ密集していれば大きな魔法で一網打尽にすることが可能である。
それを考慮しての、あの土狼の使い方。
中々思いつくものではない。
と、オートは感心していたが、実際は人を殺すのが嫌なだけのオールであった。
『ナック』
『はっ』
『あれだけオールがやってくれたのだから、夜まで待つとしよう。仲間にそう伝えていってくれ』
『了解しました』
明らかに疲労の色が見える人間たちは、もうあの場からは動かないだろう。
今日攻めてくるという事は万に一つもないはずだ。
それがわかっているのであれば、無理に相手に有利な明るい時間に行く必要はない。
前回の戦いでそれはわかっていることだ。
同じ轍は踏まない。
人間は狼と違って夜目が利かない。
時々見える人間がいるようだが、それでも明るいうちに比べればその行動は大きく制限される。
今回の戦いでオートは被害を最小限に留めたいのだ。
勿論それは仲間の事だけであり、人間はどれだけ死のうが知った事ではない。
そこで、三度目の土狼の音が聞こえてきた。
連続で三回もの土狼を、長遠距離から操作するオールには才能がある。
あれだけ痛めつけられれば、流石に戦意も喪失しているだろう。
オートはもう一度陣形を見直すため、その場を仲間に任せて後ろへと走っていった。
今までは昼に戦う事を想定していたため、修正する必要があったのだ。
夜に戦うであれば、闇魔法や水魔法を使うことのできる仲間を選ぶのがいいだろう。
夜になるにはまだ時間がかかる。
オールの作ってくれた時間だ。
有効活用しなければ、こちらも示しが付かないという物である。
後は、オートが夜に奇襲をかける味方を選ぶだけであった。
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