第二章 縄張り争い

2.1.報告


 ワープゲートを通って、拠点へと帰ってきた。

 すぐさま雷を体に纏い、遠吠えを上げながら中央へと帰っていく。


 これは何かあった時に使う遠吠えだ。

 これを聞いた狼たちは、自分の担当の場所から帰ってきて、話を聞きに帰ってきてくれる。

 それは群れのリーダーであるオートも例外ではなく、聞こえていたら駆けつけてくれるのだ。


 俺が今ワープしてきたところは、ベンツが見張りをしている区画。

 咄嗟のことで場所がずれてしまった。

 だが上空に放り出されなかっただけましだろう。


 それで前に失敗して湖の真ん中に放りだされた時は死ぬかと思った。

 いや違うんです。

 その時に水魔法の練習してたから湖を連想しちゃったんです……。


『何事だ』

『うわぁ!? お父さんはっや!』

『そりゃな』


 いつの間にかオートが隣で、俺に合わせて走っていた。

 全く気が付かなかったのは、おそらく風下からオートが来たからだろう。


 とりあえず、始めに合流したのがオートで助かった。

 俺はすぐに、先ほどあったことを伝えていく。


『俺たちに似てる狼が攻撃してきた。初めて嗅ぐ匂いだったから、他の群れだと思う』

『東か』

『そうだよ』

『よく報告してくれた』


 オートはそれだけ言うと、速度を上げて走っていく。

 行先は子供を孕んでいる狼の場所だ。


「ウォォォオオオオオ」


 オートが遠吠えを上げる。

 体の大きいオートは声もそれなりに野太いのだが、遠吠えだけは狼らしい綺麗な遠吠えだ。

 その声に呼応するように、他の狼も吠える。

 声からして、随分近くに集まっていたようだ。


 俺はオートの後ろを追いかけ、群れの皆と合流した。



 ◆



 群れの全員が集まったところで、オートが他の群れについての説明をし始める。

 内容は俺が先ほど伝えた物と全く同じだ。


 そういえば……縄張り争いってどうやるんだろう。

 俺知らないよ?

 普通に殺し合いになると勝手に思ってるけど……まぁやることは狩りとそんなに変わらないから、俺的には問題ないけど。

 でもとりあえず聞いとかないとな……。


『な、なぁベンツ……相手って殺しちゃうの?』

『なんでぇ?』

『へ?』


 どうやら生々しい殺し合いはしない様だ。

 ではどういう風に縄張り争いをするのだろうか。


『技を撃ち合うだけだよ』

『え、そんな簡単なことでいいの?』

『そうだよ。どちらの技が優れているか分かれば、弱い方は下につくからね。他の種族は食料だけど』


 同種族はそうやって優劣を決めるのね。

 ベンツの言った他の種族は食料ってのがちょっと怖かったけど、あながち間違ってないからとりあえずスルーだ。


 てことは……先ほど俺に攻撃を仕掛けてきたあの狼。

 あれって普通に力試ししようと撃ってきたんだよね?

 それで逃げちゃった俺って…………。


 俺臆病者扱いされてない!?

 いや仕方ないですやん!

 だって争いのルールとか知らなかったんですから!

 それに後ろから援軍来てたし……多対一とかマジ勘弁。


『あれ? だったら俺たちが出る必要なくない? お父さんだけでいいじゃん』

『群れのリーダーはね。でも、他の奴らも力比べして、出来るだけ自分より下の奴を作りたいんだよ。要するに序列を決めておきたいのさ。今後群れのリーダーになれるかもしれないんだらね。まぁ無理だろうけど』


 なるほどな~……。

 俺たちの群れの数は少ないから、そんなに序列とか気にしてなかったけど……相手からするとちゃんと決めておきたいんだろうな。

 ってことは結局、群れ全員が戦いに行くってことになるのね。


『てかなんでベンツはそんな事知ってんの?』

『え? いやいや、わかるでしょ』

『わからんて……』


 これはあれですね。

 狼の本能で理解できたっていうパターンの奴です。

 元人間の俺がわかるはずもないのですよはっはっは。


 って言うことで、今は作戦を考えている最中だ。

 個人の実力も相手に示さなければならいのだが、こういう団体戦で相手を倒すという事もルールの内にあるらしい。


 それじゃ序列決めれないんじゃないんですかとは思うが……狼たちは相手の出した技を見るだけで序列を決めてしまうものらしい。

 勿論同族に限るが、余り血を流さない良い物だと俺は思う。


 とりあえず、決定したことと、俺たちの動きについてまとめていく。

 まずは相手の群れの数の把握。

 もし単独で発見した場合、可能であればその場で戦闘開始。

 不可能であれば援軍の到着を待つか、退避して身の安全を確保する事。


 そして動きだが、俺たちの群れは非常に少ない。

 相手がどれだけいるかわからない状況で、群れを離れるのは不味いのだが、今回はもっと制限される。


 その理由は子供を身ごもっている狼の護衛。

 その役には番のオス狼が選ばれたのだが、一匹だけでは不安だという事も多かったため、お爺ちゃんとお婆ちゃん狼も残ることになった。

 この二匹が居れば全く問題ないだろう。


 だって極めている魔法属性に関しては俺より強いし、なんならオートよりも強い。

 これ以上の適任はいないだろう。


 しかし、その結果前に出て戦う狼の数は非常に少なくなる。

 その数は俺たちを合わせて七匹だ。

 母親であるリンドは体を動かすのが難しいため、護衛に当たってもらう。

 どちらかと言えば守ってもらう側になるが。


 向かうのは、俺が担当していた区画である東だ。

 七匹が扇状になって進んでいくことになった。


 中央をオート。

 足の速いベンツと、馬鹿力のガンマは双方の一番端っこ。

 俺はオートの隣につくことになり、他の狼たちはその間に入ってもらう。


 ガンマが端っこにいるのは、力が強すぎて味方に被害を与えるかららしい。

 いい判断だと思います。


 何の準備もしていないが、俺たちはこれから争いをしに行くことになる。

 縄張り争いとは大きくかけ離れているような気がするが、まぁこれがこの狼たちの戦い方。

 俺はそれに従うことにしよう。


『行くぞ。殺してしまっても構わん』


 いやそれはあかんでしょお父さん!

 やったね皆、仲間が増えるよってならないじゃなの!


「ウォオオオオ!」


 途端に狼たちが遠吠えをした。

 その後、オートが一気に駆け出して先陣を切る。

 俺たちはそれに続き、扇状に展開して進んでいくことになったのだった。


 俺は今非常に怖いです!

 狩りとは違うこの感覚……!

 とはいえ負けるつもりは毛頭ございませんので、俺の実力を今一度発揮させていただきましょう。


 この勝負、勝つぞ!

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