第35話
「また、またいらしてくださいねぇ⁉」
「あ、ああ、きっと」
別れの日、最後の挨拶をユベリナたちにしていると、ユベリナが大号泣してしまった。え、そんなに惜しんでくれるのか? 戸惑いながらも慰めていると、くすくすと笑いながらティアナ様たちがやってきた。
出発は秘密裏に行われることとなった。だがその見送りはかなり豪華。俺が今までこの島でお世話になってきた人たちが勢ぞろいしていた。その中にはリンカ様もいる。まだ自力では難しいからとジヘドさんに抱えられていた。
「お元気で。
またお会いしましょう」
「はい!
本当にいろいろとお世話になりました」
「こちらもとてもお世話になりした。
あなたがこの島に来てくださって、よかった」
お互い握手を交わす。きっとまた会える。そう確信しているから、そこまで寂しくはない。そういえば、教皇猊下が言っていた、一緒に皇国に連れて行ってほしい人物って誰だったのだろうか。そう疑問に思っていると、集団の奥からミーヤがやってきた。その手には大量の荷物がある。
「ミーヤ?
その荷物は?」
「あの、私も一緒に皇国に行くことになったの!」
「え⁉」
かけてきたミーヤの後ろをゆっくりと教皇猊下が追いかけてくる。信じられなくてその顔を見ると、しっかりとうなずかれてしまった。
「皇国に教会を建てることになりました。
そのシスターとして、ミーヤを派遣することになったのです。
皇国で活躍したミーヤなら、きっと受け入れられやすいでしょうから」
「え、え?
でもミーヤはそれでいいのか⁉」
「うん。
むしろ、私が自分で望んだの。
皇国に行きたいって」
え、と混乱する俺をよそに、ミーヤは強い意志を持った目でこちらを見ていた。特別な力を使って皇帝とやり取りしていたようで、近々皇国、それも皇都に教会が建てられるのは決定事項だそうだ。い、いつの間に……。そして、そのシスターとして、ミーヤが、選ばれた?
「さあ、もう出発しなくては。
良い旅を」
混乱したまま、ティアナ様にせかされて船に乗る。そして俺とミーヤを乗せた船は出発した。
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「本当にいいのか、ミーヤ」
「だから、いいのよ。
私の意思なのだから」
「でも、ミーヤは聖女になりたかったんだろう?」
そのために努力もしていた、と。それなのに。
「それはもういいの!
私が一番望んでいたことが、叶ったんだから」
「一番望んでいたこと……?」
「それは言わないけれど」
何度もミーヤに確認したが、そのたびに帰ってくる言葉は一緒だった。結局、俺はミーヤと共に皇国へと帰国することとなってしまったのだ。
帰りは特に寄り道をすることもなく、最速で皇国を目指した。まあ、行きのようなパフォーマンスは必要ないからな。
そして、俺は懐かしさすら感じる皇国へとたどり着いた。
「ただいま帰りました、キャバランシア皇帝」
「よくぞ、無事に帰ってきてくれた、スーベルハーニ。
そしてよく来てくれたミーヤ殿」
「ありがたいお言葉です、皇帝陛下」
堅苦しい挨拶を終え、俺たちは皇帝のプライベート空間へと呼ばれた。そこでようやく少しリラックスした様子の陛下から、おそらくリンカ様が助けられた後に訪れた変化について、話を聞いていた。
「精霊が、皇国でも……」
「ああ。
スーベルハーニも見ただろう?」
「ええ。
やはり見間違えではなかったのですね」
「まさか自分が生きている間にこんな光景が見えるとは思っていなかった」
そういう陛下は泣きそうでもあった。
「皆、喜んでいる。
それとミーヤ殿。
来ていただいて本当に感謝する。
あなたがシスターとなってくださるのなら、初めての教会は皆に受け入れられるものとなるだろう」
「尽力いたします」
そう答えたミーヤに満足げにうなずくと、そうだ、と俺に視線を向けた。
「リッキドレート殿と婚約者どのの話は聞いたか?」
「あ、はい。
ここについてすぐに手紙を受け取りました」
「それはよかった。
時間をとってあげるといい」
「はい、ありがとうございます」
ここについてすぐに受け取った手紙。そこにはリキートとフェリラが婚約式を挙げることが書かれていた。フェリラは名目上はもう婚約者ではあるが、これをもって正式に公に婚約者となるわけだ。ごくごく身内のみを招いてのものらしいから、気楽でいい。なにより久しぶりに2人に会えることが楽しみだった。
「スーベルハーニはまた明日の夜にでも時間をとってもらってもいいか?
今日は疲れているだろうから、ゆっくりするといい。
ミーヤ殿も正式に教会が建つまでは皇宮に滞在できるように手配している」
「ご配慮、ありがとうございます」
そうして、無事に話が終わると、俺は自分の部屋へと戻っていった。
「あ、そういえば陛下にクリエッタのことを紹介し損ねたな。
明日紹介するな」
『でも、あの人は精霊を光でしか見れないでしょう?
声も聞こえない』
「でも、紹介だけはな」
『うん……、ありがとう』
「さて、母上たちに会いに行こうかな。
皆にも会いに行きたいし」
気疲れはしているけれど、ずっと馬車に乗っていただけだから体力はある。一休みして食事をとると、俺は早速騎士団のもとへ向かうことにした。
久しぶりに騎士団の寮に顔を出すと、そこには知らない顔があった。気軽に中に入ってしまったから、お互いにびしりと固まってしまう。
「あ、な、だ、誰ですか⁉」
「あ、あの、スーベルハーニ・アナベルク、です……」
驚いて、フルネームで答えると、相手の男性はスーベルハーニ、アナベルク、と繰り返す。それを3度ほどやると、最後にスーベルハーニ皇子⁉ と叫び声をあげた。その大声に何事かと人が集まってくる。その中にはレッツがいた。
「スー皇子⁉
帰っていたのか⁉」
「あ、レッツ……。
久しぶり、元気にしていた?」
「いや、もちろん元気です!
スー皇子も元気そうで何よりです」
一度、レッツと挨拶を交わすと、知っている顔にひとまず応接室へ、と案内された。そこで出されたお茶を飲みながら待っていると、ほどなくレッツがやってきた。
「スー皇子、先ほどはすみませんでした。
顔を知らない奴だったもので……」
「いや、俺こそ急に来てすまない。
時間ができたから、久しぶりに顔を出したくて」
「いいや。
皇子はいつでもここに来る権利があるからね」
「ありがとう。
さっきの人は新人?」
「うん。
……ここもやっと新しい風が吹くようになったんだ。
全部、スー皇子のおかげだよ」
「いいや。
俺は何も。
でも、ここがそのまま廃れることがなくてよかった」
「そんなことさせないよ。
……ところでいつ帰ってきていたの?」
「今日。
陛下にあいさつも終わって時間ができたから来たんだ」
「今日⁉
それは本当にすぐに来たんだね」
かなり焦ってきたようでなんだか恥ずかしい。でも、神島のこともあってすぐにここに来たくなったんだ。
「じゃあ、ごゆっくり」
そういってレッツと別れると、俺は二人のもとへと向かった。
手を合わせて、心の中で話しかける。神島であったいろいろなことをゆっくりと報告していく。特にリョーシャ様に会ったという報告は少しだけ緊張した。あの儀式を行ったことで、2人の魂はもうここにはないのかもしれない。それでも。自分の心のよりどころとして、ここにもいてほしい。
話すことがたくさんあったからか、終わるころにはすでに日が暮れてしまっていた。座り込んでいたことで服についてしまった草を払い、俺は自分の部屋へと戻っていった。
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