第13話

 前半はスランクレト、後半は皇后の視点になっております。

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「して、持ち帰ったものは確かに神剣であったのか?」


「まだ、神剣に自分の魔力を込めておらず、抜いていない状態ですのでなんとも」


「なぜすぐにやらない?」


 重い空気の中、低い声がよく通る。あれは神剣であるという確信はあるが、まだ駄目だ。あれの主は俺ではないから、俺の魔力では反応しない。だが、本当の主に渡すわけにもいかない。


「時期が、ございます」


 ひねり出した言葉に視線が突き刺さる。だが、この意見を変えるわけにはいかない。


「まあ、いいではないですか。

 ダンジョンにあった石のような剣、きっと神剣に間違いないのでしょう。

 そして、それを探し出し、持ち帰れた。

その事実が、スランクレトが神剣の持ち主である何よりの証拠ではないですか」


「……ふむ、まあそうだな」


 あの王をすぐに黙らせるとは、この長兄は扱いに慣れているのだな、と思う。さて、ここからどうでるか。正直、もう戻りたいがそういうわけにもいかないだろう。特にそこで射殺さんばかりににらんでいるお人もいることですし。


「そうだ、スーベルハーニに会ってみたいんだ。

 カンペテルシアが世話になったようだし、お礼を直接言いたいんだ」


 かなり急な話題転換。このタイミングでそれを切り出すことに、どんな意味がある? それに、お礼を言いたい、そういっているがきっと本題は違うのだろう。本当に嫌な奴だ。


「その節は手紙、そして贈り物をしていただきありがとうございました。

 スーベルハーニもとても喜んでおりました。

 それだけでスーベルハーニに十分気持ちは伝わっております」


「喜んでもらえたなら、何よりだ。

 だけど直接会ってみたいというのは、スーベルハーニに興味があるからなんだ。

とても優秀だと、ダイシリトが驚いていた」


「ほう。

 スーベルハーニ、か。

 使えるやつならば、よい」


 嫌な予感。なぜ、今ここでスーベルハーニが優秀だとの発言をする? そこでにらんでいる女が我々に、母上の子供になぜか異様な敵意を抱いていると知っているだろうに。ほら、眼光が増した。


「そんなに優秀な子でしたか。

 将来、王を、国を支えるよき人材となるでしょう」


 にたり、と笑う。気持ち悪い。心のこもっていない言葉は、聞いていて耳障りだ。それにその『王』とは一体誰をさしているのやら。


「機会がありましたら、ご紹介いたしましょう。

 まだあまり教養が備わっておらず、皆様方とお会いするのは難しいでしょうから」


「ああ、楽しみにしていよう。

 早く会えることを願っているよ」


 そういって笑うキャバランシア皇子。この人が一番読めない。笑うし怒る、感情は確かに存在し、それによってちゃんと表情が変わる。だが本質が一切見えてこないのだ。だから、本能的に警戒してしまう。


「神剣の件、進展があれば都度知らせよ」


「かしこまりました」


 こちらの会話など興味がない、といったように陛下が会話を切る。そして急にまとめ上げると場は解散になった。この時ばかりはこの人に感謝してもいいかもしれないと思った。


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「もう、準備は整ったのかしら?」


「ええ、滞りなく」


「そう、ならいいわ」


 なら、もうこれは燃やしてしまわないと。証拠となるものは残しておくわけにはいかないわ。豪華絢爛な室内、クローゼットいっぱいの美しいドレス、指を耳を胸元を、全身を飾り立てる宝石が付いたアクセサリーの数々。わたくしの足元に跪くのもいとわず、わたくしの命に従って忠実に動くもの。そしてかわいい我が子。ほしいものはすべて手に入れた。

 それに、あやつの宮も壊してわたくし好みの庭園に造り変えた。


 なのに! それなのに、なぜ、まだあやつの影がうろつくのだ! わたくしは、わたくしはずっと。


 ぎりっと手に力が入る。いけないわ、こんなことでは。はーっと深く息を吐き出す。そのとき、扉からノックの音が聞こえた。出たものが息子が来たことを告げる。ああ、わたくしのかわいい皇子。きっとあなたを王座につけるわ。


「あの、母上。

 寝ますので挨拶に参りました」


「ああ、いい子ね。

 ゆっくりとおやすみなさい」


 頭をなでてあげると、嬉しそうに目を細める。15歳はもう超えているのに、と苦言を呈すものもいるけれど、わたくしの皇子はこれでいいのよ。


 あの子に触れて、決心がついたわ。さあ、始めましょう。あの赤い目の女のことはもう忘れないと。わたくしの、王の愛を、目の前でかっさらった……。


「こ、皇后陛下?」


「いえ、何でもないわ」


 わたくしの方が数年先に輿入れしたにも関わらず、わたくしの皇子のすぐ後に生まれたあやつの掃除を早くしなくては。神剣なんぞ手に入れおって! どうせ何者かから奪ったにすぎぬはずだろう! この皇国の皇族の、神に呪われた血、それをしのぐ力なぞ持たぬ小娘の子であるのに。それにふさわしきは我が子だ。このスランテ王国の正当なる血を引く、わたくしの。


「さあ、始めようぞ。

 害虫の駆除を」


「陛下、下のものはどうなさいますか?」


 下? ああ、あやつか。確か齢は8つ。大した脅威ではないが、恨まれ、力を蓄えられると厄介。それにキャバランシアも持ち上げておった。ならば答えは一つか。


「ともに」


「かしこまりました」


「疾く行け」


 はっ、という言葉とともにいなくなる。これで少しは周りが静かになるかしら。


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