第9話


 さて部屋に残されたのは僕とリヒトの二人。頭痛そうに眉間にしわを寄せてらっしゃる。なんだか兄がすみません。


「はぁ。

 まだわからないことだらけですが、ひとまず頼まれたことをしてしまいましょうか」


「よ、よろしくお願いします?」


 あ、リヒトって結構切り替え早いんだね。そんなことを思いながらも、始まったリヒトの説明に耳を傾けた。


「そうですね、まずは隊長がなぜ特殊属性の有無を確かめなかったか、から説明しましょうか。

 初めに言っておきますと、私としても確かめないことが賢明だと思います。

 ただ、その理由の説明は必要かと思いますが」


「どうして、ですか?」


「知らなければ、持っていないと言っても嘘にならないから、ですかね。

 隊長の、皇子に対する態度は一貫しています。

 皇宮のいろんなことに巻き込みたくない。

 それが、もしも特殊属性を持っているとわかったら……」


 わかったら? 気になるところでやめないで……。リヒトの様子があまりに真剣だから、少し緊張してきちゃったし。しかも、兄上がもう戻ってきてしまった。


「なんだ、まだ説明していなかったのか」


「すみません、これからです」


 じゃあ、もう少し待っている、というと持ってきた細長いものとともに席に着く。一体何を持ってきたんだろう。


「すみません、変なところで途切れてしまいましたね。

 名前からして察するかとも思いますが、この属性の持ち主は少ないです。

 特に皇国には光属性がかなり少ないですね。

 つまり、特殊属性を持っているということは国にとって価値ある人間なのです。

 今は良い言い方をしましたが、つまり国に目を付けられるということです。

 そうなると、まあ厄介ですね。

 そして貴族は、例えば領民、例えば教え子、とにかく特殊属性の持ち主が見つかった場合、皇帝に報告する義務があります」


「ああ、なるほど。

 わかりました」


 さすがにここまで丁寧に説明されたらわかる。その貴族にはもちろん兄上も、そしてリヒトも入っている。義務違反も選択の一つとしてはあるのかもしれないが、まあ、それよりも知りません、のほうがいいよね。何も違反していなんだもの。


「そういうことだ。

 で、先ほどあいつらが言っていた神剣がこれだ」


 そういうと、兄上は先ほど持ってきた細長いものを取り出す。これが、神剣。


「神の剣と呼ばれるこれは、全部で7つあると言われている。

 そのうちの1つであるこれは、未だなんの剣であるかはわかっていない」


 袋から取り出すと、剣の形の石が見える。これが、剣? それになんの剣ってどういうことだろう。


「本来はとても美しい見た目をしているというが……。

 まあ、今はこんな状態だ。

 神の剣は相当特殊で、主を選ぶと言われている。

 主以外は使えないんだ」


「あの、持ってみてもいいですか?」


 見た目はまんま石。ものすごく重そう。僕が持てるわけがない。でも、自然とそう口にしていた。


「いまはだめだ。

 いずれな」


「あ、わかりました」


 どうして、残念なんて思うんだろう。まあ、いいや。


「これの詳細を含め、詳しいことを話せないという場合は多い。

 申し訳ないが。

 でも話せるところは話すと、努力するよ」


 努力って。ここは口でだけでも話すって言い切っておけばいいのに、本当にまっすぐな人だな。


「はい、わかりました」


「私も、余計なことを言ってしまい申し訳ありませんでした」


「いいや、ありがとう。

 自分ではあまりわからないこともあるし……。

 頼りにしているよ、リヒト」


 前々から知っていたことだけれど、兄上とリヒトって本当に仲がいいんだね。あ! そういえば、気になっていたことがあるんだった。いい機会だし聞いてみていいよね。


「あの、一ついいですか?」


「なんだい?」


「兄上とリヒトはどこで出会ったのですか?」


「うーん、と。 

 リヒトと出会ったのは学園でだよ」


 学園ですと!? ここにも学園があるの? さすが、剣と魔法があるファンタジー。王道は外しませんね。


「学園ってみんな行くんですか?」


「いや、そんな瞳をきらめかさないでくれ……。

 そんないいものではないぞ、学園なんて。

 まあ、あそこに行ったおかげでリヒトに出会えたのだが。

 学園には一応皇族と貴族は通うことになる」


「そうですよ。

 あそこは皇宮のジュニア版といったところですからね。

 皆、なんというかぎらぎらとしていてあまり好きではありませんでた。

 純粋に勉学をしに来ている人のなんと少ないことか」


 ああ、嘆いてらっしゃる。たしかにリヒトって真面目っぽいものね。きっと周りのだらけている人に苦労したんだろう。


「学園は何歳から行くのですか?」


「10歳からですよ。

 そして卒業は大体の人が15歳です」


 10歳……。ということは二年後だ。もう少し、だよね?


「そこを卒業し、16歳から働き始めるのが一般的ですね。

 ですからスラン皇子も隊長として働いていますし」

 

 なるほど……。じゃあ学園は一つだけで、その上に上級学校とかがあるわけではないのかな。確か、皇族で15歳より上なのは、兄上以外だと第一皇子のキャバランシア皇子、第二王子のルックアラン皇子くらいかな。えっと、ティエラメルク皇女はどっちだ?


「まあ、学園の話はまたおいおい。

 入学が近くなってからにしましょう」


 皇族と、貴族が入学する学園での生活! 陰謀渦巻いてはいるだろうけれど、なんか楽しそう。やっぱり学園生活もいいよね。


「あの、皇子?

 おそらくあなたが想像しているような楽しいものではないですよ」


 顔がにやけてしまっていたのか、ひきつり顔で言われてしまった。でもほら、やっぱり行ってみないとわからないじゃん?

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