五章 暗闇より希望の光 その1
災狼の討伐兼投獄より数週間の出来事。場所は林の中の岩本屋敷。括正は金や吸血鬼になるための道具などをまとめた荷物を持って、いよいよ出発しようとしていた。旅立ちの日に見送りに待っていたのは武天のみだった。
「チッ、どうせ見送りが一人ならかわいい女の子がよかったぜ。」
「君は人の誠意をなんだと思っているんだ? お礼くらい欲しいね。」
武天はどこか切なそうに括正の文句にツッコミを入れた。
「本当に美の区を出るのかね?」
「ああ。この国と美の区には義理は果たした。戦も減りつつある。それに…。」
括正は家を振り返った。
「ありのままの自分をこの国がどう見たか、よぉーくわかったし。」
バルナバが連行されるのを見届けた後、人が戻った町に括正は脱ぎ捨てた服を取り戻しに行った。フォーンを一度も見たことがない人々は彼の真の姿を見て、恐れ忌み嫌った者がほとんどだった。それでも括正は堂々としながら歩き、ことを済ました。このことは美の区の美山城まで届き、松平貞時は美の区のイメージダウンを避けるべき美の区にフォーンがいることを隠そうとした。形的に括正は首斬りの職を追われる身となった。
「すまない。俺がもう少し手を尽くせば…。」
武天は悔しそうに言うと、括正は気楽に彼の肩を叩いた。
「気にすんなって。ようやく浪人になれてせいせいしてるよ。家族ともさっき別れを告げたし、未練はないよ。」
括正はこれからの未来に希望を抱いていた。
「これからどうする? 例の女王陛下と合流するのか?」
武天は不思議そうに問いただした。括正はうれしそうに答えた。
「そうだねー。それから二人で外国へ跳ぶ。あっちじゃ身分関係なく土地が手に入れられるらしいんだ。そして彼女を女王にするんだ。」
「そうか。……まあ、頑張りたまえ。俺は寂しくなるが、気にせず前に進め。」
武天はそう言うと、地面に置いていた箱を拾って括正に渡した。
「俺たちが教育支援の際に行った村々の方々の君宛の感謝の手紙だ。持っていけ。」
武天はそう言うと括正はありがとうと言って立ち去ろうとした。
「あ、そうだ。待ってくれ。」
「なんだい?」
括正は振り向いた。
「この国の上流階級の者達の間で流れた妙な噂がある。侍大蛇が東武国に舞い戻ってきたと。」
「え? あの伝説が⁉︎ 数年前に死んだと思っていた。」
括正は武天の発言に驚いてしまった。括正の世代からしては過去の伝説である存在だからだ。
「その反応だと、君は侍大蛇を英雄とみてなさそうんだな。」
武天は複雑そうに言うと、括正はふてくされたように反応した。
「僕は偽善者が大っ嫌いなんだ。」
「そうか。まあ俺も侍大蛇を直接見たことはないが、それに関してはまだ判断しかねる段階だからな。実際直接見たことある者も少ないだろう。」
武天は首を傾げながら言うと、話を続けた。
「なぜ侍大蛇が帰ってきたかは至ってシンプル。怪しい木の実を配る悪党の討伐らしい。君も道中気をつけたまえ。」
武天のこの忠告に、括正はおう、わかったっと反応すると旅立っていった。
・・・
・・・
そこからだいぶ離れた東武国の崖の上で、赤の戦士―赤間 一誠は座って考え事をしていた。
(しばらくこの国に滞在していたが、悲劇が多すぎる。師匠が生まれた国だけど、本当にこの国で英雄はまた誕生するのだろうか? だいぶ前にお話した魔女っ子ちゃんはこの国からしたら外国人だし、その子が話していた女の子も英雄の素質があるとはとても思えない。この国にもう希望はないのか?)
一誠は空を仰ぐと、いきなり立ち上がった。
(思い悩んでいても仕方ない。時が来ればわかることもある。今は第二の目的に集中だ。)
一誠は拳を大きく天にあげた。
「侍大蛇、君は俺が倒す!」
・・・
・・・
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