三章 侍道化の珍冒険 その8


「あんた、結構うまいじゃない。歌うの。」

「えへへ、ありがとうございます。」

 たった今、歌のお披露目を終えた幸灯を人魚は素直に褒めたので、幸灯はお礼をした。人魚はため息をついて愚痴をこぼした。

「にしても、あの侍の男の子おっそいわね。まだ帰ってこないわけ?」

 三人は幸灯の隠れ家についてから、括正は二人を残してすぐに戻ると走ってしまったのだ。数分しか経っていないにも関わらず文句を言う人魚に幸灯は優しく笑顔で話しかけた。

「まあまあ、道具を揃えるのは時間掛かりますよ〜。餌とか檻とか鞭とか割と集めるの大変ですよ〜。」

「女の子を恐喝するあいつもあいつだけど、私を飼育して見せ物にしたい願望残っているお前もお前だな!」

 人魚のツッコミに幸灯は思わずため息をついた。

「はあ〜。元々仕掛けたのはあなたですよ? 誰かを傷つようと思った罰と考えてはどうでしょう?」

「うぐぐ、こいつ正論腹立つ。」

 ちょうどその時、括正が籠に生きた鶏を三羽と木製のケースを持って帰ってきた。

「ただいま〜。」

 括正は隠れ家に入って言った。

「あ、おかえりなさい。まあ素敵な鶏。」

 返事をした幸灯はもちろん目を輝かせたが、今まで陸の動物を直接見るのが初めての人魚はさらに感動していたが、必死で声を出すまいと口を抑えた。

(落ち着け私! この見るからに頭悪そうな女と同じ反応をしたら、こいつに馬鹿にされる。我慢、我慢。)

 人魚が心の中で誓いを立てていると、括正は籠の中から一羽の首を掴み、取り出して隠れ家にあった台に抑えつけた。

「いやあ、祖国への帰還まで色々あったけど、銭入れだけは失くさないでよかったよ〜。えいっ!」

 いきなり括正は抑えていた鶏の首を刀で切った。血が大量にこぼれ出した。

「「きゃああああああああ!!」」

 常に素直な幸灯も感情を抑えていた人魚も、いきなり視界に入った衝撃映像に大声を上げてしまった。括正は人魚の方に問いかけた。

「ちょっと待ちなさい人魚ちゃん。僕達を食べようとした君が何これにビビっているの?」

 括正は二人に語り出した。

「家畜などの食べられる動物は天からの贈り物だ。食べることは命をいただくことなんだ。どれだけ人として腐っても罪を重ねても命をいただく感謝だけは忘れちゃいけない。だからいただきますって言うんだ。」

 括正の言葉に幸灯も人魚も顔を背けた。二人とも毎回感謝の気持ちを持って食べているかどうか自信がなかったためだ。それに勘づいた括正は微笑んで言った。

「と言っても僕も毎回ちゃんと感謝しているか怪しいけどね。感謝してないもしくは忘れた時を思い出したんなら、その時の命に謝ればいい。さて、幸灯は火を起こして、僕はうまく切るから。そして三人でおいしくいただこう。」

「え? 三人で?」

 人魚は戸惑ってしまった。括正はキョトンとしてから、はっきり言った。

「そうだよ。君のために買ってきたんだよ。食べたいかなぁって思って。陸の生物おいしいよ。」

「え? なんで私なんかのために? 私あなたたちを沈めて食べようとしたのよ?」

 人魚は括正の行為が不思議でたまらなかった。括正がちゃんと答えようとした時、幸灯が割り込んで発言した。

「大丈夫ですよ〜。括正もあなたのことを脅して雌奴隷として扱ったのでおあいこです。」

「うん、あのね幸灯。君だって見せ物にしようと思ったんだから同じ罪人だからね。そうやって自分を棚に上げた生き方するのやめなさい。」

 括正が注意すると、ようやく自分の欲深い部分に気づいて頭を抱えてしまった。括正と人魚は同時に思った。

((あ、この子言われるまで自覚がないタイプだ。))

 括正は気を取り直して、自分の考えを人魚に説明した。

「強制的とはいえ、君には命を救われたんだ。それはすごく感謝している。この国では忘れつつあるかもしれないけど、武士道で成り立つ主従関係にはお互いの利益を思って与え合う御恩と奉公の関係が存在する。僕は君の奉公を無下にはできないから今回は自らお金を払って勝手ながら鶏のおもてなしをさせてもらった。残ったやつは海に持って帰ってくれ。さあ切れたぞ。幸灯、しっかり焼いて均等に分けてね。」

「了解でーす。」

 幸灯は肉を焼き始めると、括正は続けて木製のケースから道具を取り出した。全て魔法でできた耐水紙と油墨の入った箱と油筆である。

「僕はある程度怪人に詳しいんだ。本で得た知識だが、人魚の下半身を人間の脚に変化させるプロセスやコツを口で説明させながら、書かせてもらう。執筆した紙は海の中に持ってけて読めるから是非持って帰ってくれ。」

 括正は淡々と説明したが、人魚は状況が理解できなかった。

「どうしてそこまで私のために?」

 括正はため息をついてから、靴とターバンと服を脱いで本当の姿を露わにした。

「きゃあああ、化け物ぉぉぉ!」

 悲鳴をあげる人魚に括正は指を指した。

「人のこと食べようとしたのにそういうこと言わないの! めっ!」

 正論を言われた人魚は我に返った。

「確かに。ごめんなさい。」

 あれ結構素直だなこの子、と思いながら括正は自分がなんなのかを説明した。

「僕はフォーン。わかりやすく言えばヤギ男。君と同じ弱い怪人だ。」

 括正は人魚がちゃんと見えるようにゆっくりと回ってから、話を続けた。

「大変だよね。強くないのにいじめられてさ。」

「え、ええ。」

 人魚は人間には化け物として、歳上の強い人魚からは陸を歩けない軟弱者としていじめられた過去を持つため共感ができたのだ。括正は話を続けた。

「僕はもしかすると弱いまま死んじゃうかもしれない。だけど君の方が強くなれる可能性が高い。だからこそ助けたい。それじゃダメかな?」

 人魚は顔を赤く染めた。幸灯はそれを見て少しにやけながら思った。

(もお、括正ったら。やっぱりあなたは素敵ですね。)

 括正を直視できなかった人魚は顔を赤く染めたまま横に向けて質問した。

「なんで最初から全部言わなかったのよ?」

すると、括正は頭を掻いて照れながら答えた。

「いや、その、あれだ。サプライズ的に溜めてから明かしたら人魚ちゃんが倍喜ぶかなぁって思って。」

(なんだこいつ⁉︎ めっちゃかわいい! 食べようと思っちゃって心からごめんなさいだよ!)

 人魚は自分が思った聞く側の人の礼儀正しい姿勢をとった。いいタイミングで幸灯が食事を台に持ってきた。

「おいしく焼けましたよ〜。おいしくいただきましょう。」

 三人は手を合わせた。

「「「いただきます。」」」

 三人は感謝すると、食べながら括正は人魚に言った。

「ごめんね。僕もお腹空いちゃった。食事が終わってから重要なこと話すね〜。……そういえば人魚ちゃん、名前は? あ、知っていると思うけど僕はフォーンの括正、性は岩本だ。」

「私は人間の幸灯と申します。見せ物にしようと思って本当にごめんなさいね。欲に目が眩みました。」

 括正と幸灯が自己紹介すると人魚は自分の髪の毛をいじりながらこう言った。

「ミカルよ。……ミカル・クラウン。弱い人魚よ。」

 その後三人は食事をいただいてから、括正はミカルに人魚の特性に関して知っていること全てを教えた。


・・・

・・・


 一方で舞台は海賊と侍の戦場に戻る。狂矢とビリーは技と気迫でぶつかりながら睨み合っていたが、ここで一旦力を溜めるためにお互い距離を置いた。ビリーはいつものように相手を挑発した

「ムムム、そこの強敵侍。まだ倒れないのムカつく! 俺のビーリビリ弾くしよう、ムカつくムッシュだ。だけどそれに引き換え俺はフレンドリーなビリー! 船長なのにビリー! びりじゃないけどビリー!」

「いや海賊側でここで生き残っている奴貴様しかいねえんだよ。貴様この海賊チームであの世行く順番だと、実質最下位やないかい!」

 狂矢の発言にビリーは少し慌てた。

「ほ、ほう! 本当に俺だ…」

「そうだよ。周り見ろよ。貴様以外全員俺が殺したのよ。自分のことしか見えてな故に、貴様の観察能力実質最下位やないかい!」

 ビリーは周りを見た。生きている海賊は一人もいなかった。次に目を閉じて手を伸ばした。視界の届かないところにも味方はいなかった。ビリーは両手をほっぺにつけて叫ぶのだった。

「んのおおおおいん! ハッ!」

 ふとビリーはクールを取り戻し、指を振った。

「チッチッチッ、かわいいビリーちゃん、一人ぼっちビリー! だけど船長だからびりじゃない!」

「だから船長でも、貴様しか生き残ってないワンマン海賊団なんだから、質としても実質最下位やないかい! 火雷震!」

「わんさか、わんさか! ワルツでかわせ!」

 狂矢の必殺技をビリーは華麗に踊るようにかわした。

「そういえば傭兵雇ったよ。三人もいるよー、東武国に怪人が三匹。」

「な⁉︎」

 狂矢は一瞬慌てたが、

「答えろ。この艦隊は陽動だったのか? 貴様らはなぜ東武国に進軍する?」

 ビリーは陽気に答えた。

「最初の質問、ピンポーン! そして俺様の目的はすごくシンプル。欲しいのはそう、海剛石。」

「そ、そんな伝説のお宝が東武国に?」

 狂矢の質問にビリーは不敵な笑みを浮かべる。

「ピンポーン! お前を倒したら俺も行くよぉ、東武国。」

 狂矢はこの宣言に怒りを感じた。

「ふざけるな! 第一俺を倒して、東武国に着いたとしても、チームとして見るんだったら、着いた順番的にお前実質最下位やないかい!」

「最下位最下位うるさいシャラップ! 俺はビリーだけどびりじゃないって言ってんだろうが!」

 そう言うと、ビリーは剣を納めて、両手を狂矢の方に向けて特大の攻撃を放った。

「フルパワービリビリー!」

「ぐおおおおおおお!」

 たちまちだいだい色の電撃が狂矢の体を襲った。叫びながらも狂矢は思った。

(くそお、速すぎて反応出来なかった。……痛ええ! だが奴は知らない。)

 狂矢の目は死んでいなかった。

(鍛え抜いた侍が出せる気迫と戦闘技術を!)

「キャキャぎゃああああ!」

 狂矢は大きく叫ぶと、ビリーの電撃を跳ね除けて、逆流した電気はビリーに直撃した。

「あばばばば、俺様うるさいシャラップ!」

 ビリーはなんとか、電撃を地面に受け流して、前を向くとそこに狂矢の姿はなかった。ビリーは思わず勝利を確信した。

「あひょひょひょ! へっぽこぎっくり侍逃げたな! やはり俺様ビリーはアンビリーバブルに強い。何故なら〜アイ ビリーブ イン マイ、グハッ!」

 急にビリーは心臓に痛みを感じた。下をを見ると心臓があるはずの場所から刀が突き出ていた。恐る恐る後ろに首を向けるビリーは狂矢が後ろから刺したことに気づいた。狂矢は思わず絶句した。

「オーノー! ユー ノー スポーツマンシップ?」

「ノー、ジャスト フィーリング アンド ザ ビート。滅却!」

 狂矢は叫ぶと、ビリーの体は灰にはならなかったが燃えて丸焦げになって、倒れた。

「へへ、海のクズ敗れたり。……あれ、体が……。」

 狂矢はそのまま仰向けに倒れてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る