二章 怪盗獅子騙しと二人の魔女 その5

(ここからは清子の回想である。)


 私は基本的に魔法から何まで器用にこなせる天才と多くの魔法使いや魔女から言われたわ。それは私に優しく世界や魔法について教えてくれたお父様のおかげ。そう、私はお父様が大好き。優しくて、強くて、聡明で、ワイルドでとにかくかっこいい。それが私のお父様。お父様がいるから、友達はいらない。将来の伴侶になるボーイフレンドもいらない。魔法学校も、お父様に誉めてもらいたかったから、ほとんど首席だったわ。

 お父様の仕事は革命屋。小さな村の発展から権力者や悪の組織との大げんかまで。自分にできることを探して永遠に等しい旅をしていたの。私は魔力感知も得意だから学校のない日は必ずお父様を探して一緒に行動したわ。そんなお父様と東の島国、東武国に行ったの。その国には“呪い”が掛かっているって言ってたわ。下手したら死ぬかもしれない。だったら何で行くの? そう訊いたの。

 そしたらお父様はこう言ったの。

「僕は幸せ者なんだ。妻がいて、魔法が使えて、素敵な娘がいる。幸せは与えられることも奪われることもある。だけど自分が他人から奪うことも与えるもできる。僕もいつどれくらい奪ったか覚えてない。だったら死ぬまで与え続けるしかないのさ。それはどの国のどんな奴も関係ないんだ。」

 お父様はこうも言ってたわ。

「東武国は僕にとっても母さんにとっても思い出深い国なんだ。実は昔一緒に旅した相棒の故郷でもあるんだ。相棒は手紙でこの国に掛かった“呪い”、その“生贄”にされてる自分の息子たちの世代を嘆いていた。だったら行く以外僕には選択肢はない。例え死んでもね。」

 私が愛したお父様はもうこの世にいない。お父様を私から奪ったこの国を許さない。呪ってやる。そう思ってた。あの子に会うまでは。急に出てきた猫の仮面を被った黒髪ロングの女の子、幸灯。最初はふざけていると思ったわ。だけど私を励ますために出てきた素敵で不思議な子。あの子の夢もとっても素敵。怪人や人間が自由に平和に暮らせる理想の国。そんな国を造って女王様になりたいんだって。お父様が喜びそうな子だわ。私は彼女の力になりたいって本当に思ったわ。だからダンスのレッスン、政治の進め方、礼儀作法、それ以外にもなるべく教えようとしたの。あの子は純粋に学ぼうとしたわ。目をキラキラさせながら、同じ歳なのにかわいかった。だけどあの子も離れちゃった。私はまた一人になってしまった……。


・・・

・・・


 森の切り株に座りながら、清子は頭を下げて座っていた。

「こうなるってわかっていたら、友達の作り方をお父様から教わればよかったわ。」

 突然独り言を言っている清子の近くに、「トウッ!」って言いながら何者かが飛んできた。

「キャッ、何 ︎」

 ビビる清子に赤い服に身を包んだ爽やかな男が答えた。

「どんな悲しみも見逃さない、赤の戦士ただいま参上!」

 赤の戦士はかつてこの世界が魔王軍によって進撃された時に、立ち向かい追い払った五人の戦士の内最も強いと言われていたリーダー格である。清子はこの有名人に動揺しながら質問した。

「赤の戦士がなぜこの国に?」

 赤の戦士はポーズを決めながら答えた。

「ひとーつ、この国を癒すため!」

 赤の戦士はポーズを変えた。

「ふたーつ、君に励まし与えるため!」

 赤の戦士は再びポーズを変えた。

「みーつ、俺のバトン渡すため!」

 しばらくに沈黙が流れた後、赤の戦士は口笛を吹くとじゅうたんが飛んできた。

「何で最初からそれでこなかったの?」

 清子は少し呆れて質問した。赤の戦士は高笑いしながら答えた。

「ハッハッハッ、いいかいお嬢さん。真の漢という生き物は常にレディの前でカッコつけたいものだ!」

 赤の戦士は少し静かな物言いに変わって言った。

「ここでもなんだ。魔女君のお話、一緒にこれに乗りながら俺に聞かせてくれるかい?」

清子は気晴らしに赤の戦士の誘いにのったのだ。


・・・

・・・


「へぇ〜あなた女王になりたいの?」

 そう訊くルシアに幸灯は恥ずかしそうに答えた。

「ええ、ですけど道のりは険しいのはわかりますが、頑張りたいです。」

「素晴らしい夢ね。あなたならなれるわ。」

 ルシアは作り笑いをしながら励ますと、幸灯は元気そうに言った。

「ありがとうございます。ルシアさんはとっても優しいんですね。」

 幸灯はそう言うと、ルシアはこう思った。

(ふふーん、ばぁぁぁぁぁか。あんたが言って欲しそうなこと言ってるだけよ。想像以上に操りやすそうな小娘ね〜。そんな幻想叶うわけないじゃん。さあもうひと押し行くわよ。)

「私ならあなたをちょちょんのちょんで女王様にできるわよ。ちょっぴり使える私の魔法の才能を使ってね。」

 ルシアはこう言いながらもこう思った。

(本当はそこまでの力ないけど、まあ悪い子じゃないから海で見つけた宝箱くらいあげようかしら?)

 一方幸灯は目をキラキラさせながら、わかりやすい反応をした。

「ええええ、そんな方法が⁉︎ ︎ いいんですか?」

(ふふふ、こいつちょろっ! さて、らしいこと言っちゃいますか?)

 ルシアはそう思いながら、考え抜いて言葉を放った。

「だけど魔法には対価がつきものよ。私のお願いに聞いてくれるかしら?」

 幸灯はコクンと頷くと、なんと妙なものがルシアのスカートの下から出てきたので幸灯は思わず反応してしまった。

「た、た、タコ足…。」

「あら、驚いた? 私は人魚よ。タコの人魚。私が海の魔女って言われている理由の一つかもね。」

 そう言いながら、ルシアは触手で岩を削ったような棚から魔法の水晶を取り出して、幸灯と自分の間に置いた。ルシアは呪文を唱えた。

「我が欲しき宝、来たれ〜、来たれ〜。」

 すると水色の光を放つ小さな球が現れた。幸灯は純粋に質問した。

「何ですか? この眩しいお宝は?」

「海の力を封印できる魔法アイテムよ。名前は海剛石。これは海のものだったんだけど、それが魚の区の大名に奪われたの。案六という城下町はご存知かしら?」

 幸灯はルシアにこう訊かれると、人差し指をアゴにあててから答えた。

「んん〜はっ。あっ、はい知ってますよ。私そこからここに逃げてきました。」

 それを聞いたルシアはまるで感心しているかのように言った。

「あら、ここから随分遠いわよ。さすがは獅子騙しね。」

「えへへ、ありがと、はっ! なぜ私が獅子騙しだと?」

 動揺するルシアに幸灯は落ち着いて答えた。

「アハハ。この魔法の水晶は何でもお見通しなのよ。さて……案六のこの城で…」

 魔法の水晶が城らしきものを写そうとした時、突然魔法の水晶にヒビが割れたと思いきやゴナゴナに砕けた。

「「きゃあああああああああ!!」」

 突然の出来事に二人とも絶叫した。一人は恐怖で、もう一人は驚きと自分の所有物の紛失に寄るショックで。この後最初に話したのは幸灯だった。

「い、一体何が? なぜ急に?」

 ルシアは粉々になった水晶を分析した。

「おそらく、案六城にいた強い侍が私が水晶で城を感知したことを逆に感知して、静かな気迫によって感知源のこれを断ち切ったのね。」

「そうなんですか。でも大丈夫ですよ。その城なら侵入したことありますよ。」

 幸灯は自信満々に答えると、ルシアは不敵な笑みを浮かべた。

「そう。なら決まりね。海剛石を盗んできなさい。そしたら女王になれる無限のパワーをあげるわ。」

 幸灯は少し戸惑いながらも答えた。

「……わかりました。」

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