一章 女王になりたい! その4

「たまにすごくカァーってなっちゃうんだよな〜。何であんなこと言ってしまったんだろう?」

 次の朝、括正は荷物をまとめて、靴を履き直して、ターバンを被り、家に向かっていた。

(あの子…僕より繊細だったよね。そんな子を傷つけてしまった。だけど彼女が最初に傷つけたんだ。僕の友の刀を盗み、僕の存在のいない世界を望み、僕の姿に悲鳴をあげたんだ!僕が彼女を傷つける道理は充分にある!…だけど、彼女も悪意があった訳じゃないんだ。彼女は僕のことを完全に嫌いになっただろうな…おかしいな。まるで何人かに囲まれている感覚………間違いなくこれは殺意だ…戦わなければ僕が死ぬ……そこか!)

「飛斬!」

 飛斬はこの世界で、剣の腕を鍛えている者が使える、剣技の一つ。いわば飛ばせる斬撃だ。

 括正はそう叫びながら軽く刀を振ると、赤黒い切断型の衝撃波を距離のある木の上を目掛けて解き放った。するとその衝撃に反射する鉄の音が聞こえたがそのすぐ後に、ぎゃああ、という叫び声が聞こえた。木の上から、括正の飛斬によって刀と右肩、心臓を真っ二つに削られた盗賊の死体が降ってきた。すると突然、道の双方から盗賊らしきなりの男が四人出てきた。

「こいつ、同胞をよくも!」

 血の気のある一人が突撃しようとした。しかしリーダーらしき一人が彼を止めた。

「待て待て、ノーロック、ビークールだ。おい坊主、仲間をやったのは許したる。その代わり、身ぐるみや金目のもの全部置いてきな。」

 無茶苦茶な言い分に括正は呆れてこう返した。

「冗談じゃない。待ち構えていたのはそっちだろ? 僕はあんたらに何もする義理はない。」

「ふーん、そうかい。俺ちゃんの慈悲を無下にするなんて許さん。野郎ども、あのお坊ちゃんに大人の社会の厳しさを教えてやりな!」

 リーダーらしき男と血の気のある男は連続で飛斬を繰り出し、残りの二人は銃で応戦した。括正は密かに思った。

(こいつら、子供一人に大人気ねえな。だが昨日僕が刺したあいつよりは…弱い!)

 そう思いながら、括正は飛斬をかわしたり壊したり、銃弾を斬ったり軌道を変えたりして、上手く対処していた。痺れを切らしてリーダーはみなに指示をした。

「お前ら、俺に合わせろ!」

 男は両手で刀を上にあげて力を溜めた。血の気の男も刀を上げて、銃使いの二人も銃をしまい、刀を取り出して同じようにした。四人は一斉に刀を振り落とした。

「「「「飛斬、四地鳴り!!!!」」」」

 地を這う四つの縦に細長い青い衝撃波が括正の方に解き放たれていた。括正は落ち着いて、刀を鞘に納め、居合の溜めをしてから、叫び放った。

「飛斬、伐採!」

 入れたと思いきや、居合斬りをした後の構えをした括正は、先ほど木の上にいた者を倒したものよりも強力でデカイ横長の赤黒い斬撃を解き放っていた。衝撃波は当たるや、四つの飛斬を道連れに消えた。四人の盗賊は驚きを隠せずに、一人はつい喋ってしまった。

「バカな!俺たち四人の合わせ飛斬を、ガキ一人が打ち消しただと⁉︎」

「バカはあんたらだ。あんたらは物を盗む脅しの道具に刀を使っているが、僕は違う。僕の剣技は人の首を削りとるように斬るために研ぎ澄まされているんだ。」

 括正は少し調子に乗ったのか、急に挑発した。ふと、盗賊の中の一人があることに気づいた。

「赤黒い斬撃…そんな色の斬撃を魅せる奴は俺はこの辺じゃ一人しか知らねー。頭、こいつ美の区出身の介錯・処刑の役職を持つイかれた侍、侍道化ですぜ!」

 これを言った本人を含め盗賊達は嫌悪と恐怖の目で括正を見つめた。括正は少し、寂しげな笑顔を見せながら、静かに呟いた。

「へへ、盗賊まで僕の異名を知ってちゃ世話ねえな。…僕にはどこにも居場所がないみたいだ。」

・・・

・・・

(ここからは括正が語り手となる。)


 僕の頭には生まれつき二本の角が生えている。僕の下半身は毛で覆われており、僕の足先はヒヅメだ。小さな尻尾も生えている。僕の町に住む他の子供達にこの特徴はなかった。自分が持っていない異質な特徴を持つ奴を人は化け物もしくは怪人と呼ぶらしい。怪人は悪なのだから、酷い目に合わないといけないらしい。僕はいじめは嫌いだ。

 僕はフォーンであり、侍だ。侍は武士とも言われる。武士は戦に出ない時はそれぞれに役職がある。僕は犯罪者を殺す仕事を担っている。マスクを被り、バッサリと首を斬る仕事だこのことを家族は知らない。心配させたくないから事務と言っている。

 僕は本当は誰も殺したくない。100パーセント悪い人間なんていないと思うし、どんな人間もやり直してより良い人間に生まれ変わるチャンスがあると信じたいからだ。僕の仕事はそんな彼らのセカンド・チャンスを断ち切ることだ。僕は凶悪な犯罪者しか斬らなかったわけじゃない。倒した敵軍の大名の罪のない子供を含む一族全員斬ったこともある。世直しのために立ち上がったが捕らえられた革命家や勇者、冒険家も斬ったことがある。時折死んだ方々の亡霊にうなされる夢を見て、泣くこともある。僕はこんな仕事やりたくない。だけど僕が辞めたら、別の誰かがこの重荷を負わなければならない。僕と同じ痛みを味わなければならない人間が生まれるぐらいなら、僕が全部背負いたい。

 僕は戦場では生き残るために、曲芸に近い動きで戦う。型にはまった動きは敵に予想されやすいと思ったからだ。僕は人を処刑する時も動きが奇妙と言われる。その時と同じマスクをいつも戦場でもつけている。僕は侍道化として少しだけ知れ渡られるようになった。

 マスクを初めてつけずに仲間と共に戦場に赴いたのがまるで昨日のようだ。友達と戦いたかったからだ。僕の唯一の友達だったんだ。小さい頃、フォーンだからっていじめられていた僕を彼は守ってくれた。僕にツノなどを隠す相談にものってくれた。僕が侍道化を続ける理由も理解してる、尊敬してくれた。そんな最高の奴が先の戦で死んでしまった。今の僕には家族以外に誰もいない。いや、正確に言えばもう一つの家族を奪われたんだ。

(括正の話はここで終わり、話は現在に戻る。)

・・・

・・・

(僕は強いから、何もいらない!)

 そう思いながら括正は直接盗賊たちと刀や金棒を交えていた。既に二人を斬り伏せていた。残り二人は激しく息を切らしていた。

「どうしたどうした、お兄さん方。調子がよろしくありませんな。このまま一気に…」

バコォ!

「うが!」

 括正はうつ伏せに倒れてしまった。斬ったはずの頭がなぜか生きていたのだ。彼は括正を後ろから金棒で叩いたため、括正は動けなかった。

「手こずらせやがって、…お前ら、全て取り上げるぞ。」

 頭はそう命令すると、共に倒れた括正から金や道具、武器、最後に服を取り上げた。

「か、頭あ、! こいつ角生えてらぁ」

 ターバンを取った一人が、叫んだ。

「うげ! なんだこいつ⁉︎ 足は馬みたいになってるぜ」

 もう一人が長靴を括正の脚から抜き取ると気づいてしまった。括正は服も鎧も全て奪われ丸裸にされてしまった。頭はさらに嫌悪の目で括正の体を睨みつけた。

「気持ち悪ぃ。化け物の分際で人間様に盾突きやがって!」

「グハッ!」

 頭は括正の横腹を蹴り、括正の体が仰向けになるように転がした。

「お前ら、今日は珍しく社会貢献しようぜ。この悪魔が二度と人間様に危害を加えないようにボコボコにするんだ!」

「や…め…」

「やっちまええ!!!」

 ズカ、ボコ、バコ、グゴ、メキ、プシュ、ゾコ、ベコ、ドス!

 金棒による衝撃からくる痛みが括正の体の全てに染み渡った。やがて括正の意識が飛び、それに気づいた盗賊達は彼に唾を吐いてから、括正の荷物と共に立ち去った。

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