魔導王のまま異世界から戻ったので、魔術革命を起こし世界を牛耳ろうと思う

霧嶋 透

0章 物語の終わりと始まり

第1話 十年ぶりの空

まえがき注意

※学園の話が始まるのは1章4話からになります。

※基本的に男性向け俺tueee系の作品です。








「ご覧下さいっ!

 現在私は秋田県、奥羽山脈北部に広がる八幡平の上空からヘリでお伝えしています。

 見えますでしょうかスタジオの皆さん。

 その八幡平に堂々と突き刺さる“アレ”が!?


 あの巨大な“剣”が!


 私達の目に映る剣の刃渡りはなんと推定八千メートルから一万メートル!

 刃幅に至っては陸上トラックニ周分と同じ八百メートル!

 そんな人智を超えた大剣が山に深々と突き刺さり、その柄が上空の雲にまで届いているのです!


 まさに神の悪戯としか思えない、この突如として天から落とされた巨大剣!

 一体、誰がこの光景を現実と思えるのでしょうか!?

 映像を見ている皆さんも合成にしか見えないと思いますっ。しかしカメラを寄せてみますと…………分かりますか!? その刃により両断されている一本の線が!?

 そうです!


 あの線こそが、秋田県の鹿角市から由利本荘市へと続く国道341号線なのです!


 通行していたドライバー達も、神話の様な光景が、よもや二十一世紀の日本の秋田県山中で目の前に――」






「……あの剣、命中したら縮むもんだと思っていたんだがな」


 俺、加賀美レンは日本のテレビに映し出される世紀の衝撃映像を見ながら苦笑する。


 福島県のとある田舎町。


 古いご当地コンビニに備え付けられた従業員用のテレビが店の表に引っ張り出され、農家や配達員達がそこに映し出される巨大剣の映像を食い入る様に見ていた。

 その人々から少し離れた所で、俺ともう一人の男が微妙な表情で立っている。


「あの、クロイツェン大公閣下?」


 そんな俺に隣に立つ西洋人風の顔立ちをした男が、加賀美レンではなく『異世界』での名前で呼び掛ける。


 ――男は人間ではなかった。


 上半身だけ見れば格闘技でもやっていそうな偉丈夫。刈り上げた金髪が眩しい。されど下半身はこの世界の常識を逸している。

 蜘蛛だ。

 人間の要素は皆無であり、毒蜘蛛の胴体部から伸びる鉄の様に硬い八本足が黒光りしている。アラクネ族、いわゆる魔族である。

 しかし俺以外に周囲の人々は誰も彼の事を気にしてはいない。むしろ認識すらしていない。


「どうした? あれはテレビって言うんだぞ。遠くに離れた場所の映像を世界各地に飛ばせる優れものだ。地球の科学文明は情報伝達速度に関してはセラを圧倒的に凌駕しているから――」


「いえ、そこではなくそのテレビ? とやらに映るあの馬鹿でかい剣って閣下が投げた世界剣ですよね?」


「そうだ。よく分ったな。さすがは魔術師殺し殿だ」


 俺の軽口にここでは協力者となった蜘蛛の魔族が頬を引き攣らせる。


「……私はこの世界の言葉は分かりません。それでもとんでもない事になってる感がひしひしと伝わってくるのですが……この世界って魔術も魔導具も、それこそ神具も存在してないんですよね?」


「ああ。だが致し方ないだろ。普通、巨大化する魔導具は使用したら縮むものだ。なのにまさか通常のサイズが本来の大きさではなく逆、超巨大な姿の方が本来の姿だったとは俺でも読めんよ」


「そりゃ、確かにあの巨大な方が実は“元のサイズでした”なんて常識的に考えて普通は思わないですけどっ。でも、どうするんですかこれ」


 蜘蛛の魔族が思わずとばかりに頭を抱え始めた。そんな深刻そうな姿に少し苦笑して、何気なく空を見上げる。秋田県から数百km離れた福島の空には鳶が呑気に飛んでいた。


 その光景が急に懐かしさを呼び起こす。


 ――なんにせよ本当に異世界から帰ってきたんだな。


 俺はいわゆる転移者だった。

 七歳の時に突然、何のチートも与えられず言葉も通じないままに魔術文明を基軸とする異世界セラに強制転移させられた。

 当初は地獄だった。何の力も後ろ盾もない七歳の異国人が中世から近世レベルの社会通念しか持ち合わせてない世界に放り出されたのだ。

 王都の奴隷小屋で何をさせられていたか、どれ程の目にあったか。思い出したくも無い。むしろよく死ななかったと思う。


 だが十年の月日で暗殺者、魔導師、貴族、公爵を経て転移者『加賀美レン』は異世界で『レン・グロス・クロイツェン』として大公国の初代国父にまで成り上がった。


 言葉も通じない異世界で奴隷から始まり今や大陸を代表する君主の一人である事を考えれば、吟遊詩人も一曲くらいは作れよう。

 あとは自らが築き上げた大公国を守り、百年の大国となる礎を築くまで戦い続けるのが俺の運命……と思っていたのだが。


「まさか突然、実家に帰ってくる事になろうとはなぁ」


 隣では頭を抱える魔族。テレビでは俺が投げた世界剣。頭上には十年ぶりの福島の空。


 ――これからどうするか。


 テレビではそんな俺の内心など知らず。


「――のでしょうかッ、テレビの前の皆さん!? ですが例え世紀末であっても、神はあの様な事を我々人類には致しません! もしあの剣を放った存在がいれば、それはまごうことなき――大悪魔と呼ばれる存在でしょうッ!!」


 よく分らない宗教家のコメンテーターが、俺を全国放送で大悪魔と決め付けて叫んでいる声だけが響き渡っていた。


 一体なぜこんな事になってしまったのか。それはほんの数時間前に遡る……。


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