第131話

 現れた敵はWP-02FA型が三機。手持ちの火器はいずれもマシンガンで全員が汎用装備のシールドを装備している。操縦者は随行しておらず遠隔操縦で戦うつもりらしい。

 マシンガンとシールドという組み合わせからして積極的に撃ち合いをする気はなく、相手を地雷原に『置いて』優位に戦いを進めるつもりなのだろう。

もっともそこまでは事前にある程度分かっていた話で、問題はこちらがどうするかである。

 俺はそこで周囲を見回す。敵との距離はそこそこあっておよそ500mは離れているだろうか。普段なら気になる距離ではなく一気に差を詰められるが、そこに地雷が埋まっていない保証はない。敵が出てきたのもそこならば有利に戦いを進められるとの思惑があったからだろう。

 しかし、そうであってもこちらから仕掛けないことには始まらない。

 ジャックとケヴィン曹長はそれぞれの火器を使って前方にある地面を掃射する。敵もこちらの意図に気付いてマシンガンをこちらに向けて放ってくる。

 俺はエクリプスを操縦して、バスターソードを盾にするような格好で止まっていた位置よりやや前進させる。狙いは敵の攻撃に対して囮になること、もう一つは少しずつ位置を押し上げることで、敵に対して心理的なプレッシャーを与えることである。

 自分から地雷原に進み出てくるわけだから、敵からしたら儲けものといったところだろうが、危険であってもこちらから押し込まないことには始まらない。

 それに、敵の攻撃がこちらに集中すればその分後ろの二人は自由に動けるようになりその火力を活かしやすい。更に言えば、仮に地雷が進路に設置されていた場合に対処がしやすく、万が一地雷を踏んでしまったとしても被害を抑えやすい。

 勿論その分俺とエクリプスが危険にさらされるのは間違いない。だが、防御に難があり機動性を持ち味としているスペクターや火力を活かしての後方援護で真価を発揮出来る02FAでは出来ない仕事なのもまた事実と言えた。


(ありがとう……ジャック、ケヴィン曹長……危うい所だったよ)


 俺は心の中で冷静なアドバイスをくれた二人に謝意を示しながら、慎重に左腕のコンソールを操作してエクリプスをなおもゆっくりと前進させる。

 TRCSを使っていないのはあれが長時間の運用に耐えないこともあるのだが、部隊長として自分が戦うこと以外にも気を割かなければならない以上、TRCSが自分の無意識を感知して誤動作することを防ぐためでもある。

 勿論、TRCSを使った操縦と部隊指揮を両立できれば良いのだろうけれど、今はまだ余裕がない。

 敵の攻撃を防ぎながら後方をちらりと確認すると、ジャックとケヴィン曹長はそれぞれエクリプスを上手に盾にしながら上手く相手をけん制している。

 それを確認して再び前方に視線を戻す。敵との距離は少し縮まり、そして地雷の反応はない。

 このままゆっくりと間合いを詰めていければ相手も焦れて露骨にこちらを地雷原に誘いこもうとするかもしれないが、基地内に温存している遊撃部隊に援護を要請する可能性も在り得るだろう。それに先程の通信で聞いた革命評議会の輸送機の動向も気にかかる。

 戦いに長い時間をかけたくないのは、こちらの方だった。

 俺はエクリプスをコンソールで操作しつつ、思考を巡らせる。

 敵の攻撃は無視できるほど軽くはないが、こちらを積極的に排除しようとする意思に欠けている感じがする。装備が軽装なのもあるだろうが、こちらを正面から打倒したければ、一機ずつ集中攻撃すればいいだけの話である。地雷がなくとも地の利が向こうにあるのだから出来ない話ではない。

 そもそもこちらが三機で出てくるのは直ぐに察知できたはずで、最初から数で押す戦術も出来ただろう。それをしないからには、やはりこちらが地雷を踏むことを期待しているのに違いない。

 しかし、相手の狙いをいくら読もうとそれはあくまで自分の中でのみ完結する理屈でしかない。百歩譲ってそれが正しかったとしても、それを活かせる手段や方法が無いのならそこまでである。それが戦場の中でのことならなおさらである。

 そこまで考えて、改めて出撃前の隊長の指示が無茶苦茶だったことに気付き、つい苦笑いが口元に浮かぶ。普通に考えれば、地雷が設置されているかもしれない場所にわざわざ操縦手が出張ってくるなど無謀もいい所だ。反乱部隊側もそれを見越して地雷の敷設を匂わせたのだろうし、WPを遠隔操縦しているのは最悪WPを特攻させて相打ちを狙うところまで想定しているのかもしれない。

 と、そこまで考えてからふと思いつく。


 相手の裏をかく手段は、ある。


 俺はもう一度後ろを振り向き二人の位置を確認すると、普段は使わない赤外線通信機を起動させる。

 これは通常用いる通信機の故障などの時のためにWPに標準装備されている機能だが、屋外での仕様は制約が大きくまた相互の距離がある程度離れていたり遮蔽物があると使えないためほとんど飾り物となっていて、俺自身も基礎訓練で使い方を学んだとき以来使ったことがない。

 だが、敵との戦闘が膠着し比較的密集した陣形を組んでいる今の状態なら充分に使い道がある。

 コンソールを文字入力モードに変更して、ジャックとケヴィン曹長に向けての指示を入力、二人に送信する。

 二人からの返事を待つ間に俺は思いついた作戦の仕込みを行う。焦る必要はない。二人との連携を確実にすることが肝心だろう。

 やがて、二人から返信が届き、作戦に対する了解を確認して、準備は整った。

 それまでの間こちらの進撃は更に遅くなっていたが、相手にとっては誤差にもならない程度でしかなかったらしく、相変わらず積極的な攻撃を仕掛けてくる気配はない。

 俺は操縦をTRCSに切り替えるとコンソールのラインをそっと引き抜き、相手に気取られないように静かにエクリプスから後退していく。

 そして、ジャックの02FAのいる位置まで俺が後退できたのと同時にエクリプスが動きだし、敵の攻撃を無視して一気に突進していく。

 流石にそう来ると思わなかったのか敵の動きは傍から見ても分かるくらい大きく乱れ、それまではこちら側にほぼ一律の割合で仕掛けていた攻撃が一気にエクリプスへと集中する。

 

「今だ! エクリプスが進出したラインに沿って前進を!」

「分かったぜ!」

「了解です、指揮官!」


 俺の声に応じ、ジャックとケヴィン曹長はそれぞれの機体を前進させる。

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