第50話

 一方、その頃首都リヴェルナの某所にベゼルグ・ディザーグは潜んでいた。


「なに、形式が不明の機体だと?」

「はい、先程グループ3から報告がありました」


 その報告を聞いたベゼルグは眉を大きく吊り上げた。


「間違いはねえだろうな?」

「はい、グループ3の二機が交戦して、一機が撃破、もう一機は右手を失いつつも他のメンバーと合流したということです」

「そうか……もうビンゴが出るとはな……」


 ベゼルグは獰猛どうもうな笑みを浮かべていた。


「おい、その付近にこちらは何機いる?」

「現状では五機ですが、範囲を広げればあと二、三機ほどは合流させられます」

「なら、そいつらにはその敵を最優先に狙うよう指示を出せ。いくら新型だろうが数で押せばそうそう簡単に負けることもねえ。その間に俺が直接出向いてやるよ」

「わかりました。そう指示を出しておきます」


 軍用車両に偽装したトラックの中にいる通信士に指示を出す。


「おい、例のあれは動けるようになっているんだろうな?」

「はい、各部チェック完了。いつでも動かせます」


 ベゼルグの問いかけにトラック後部のコンテナの中にいた整備士から彼の望む完璧な回答が返ってきた。


「よし、今から出るぞ! コンソールとヘッドセットを用意しろ!」



 僕とアレク隊長は先程の場所から移動を始めていた。そして、先程の戦いで感知した敵の五機もまたゆっくりとこちらに移動を始めていた。

 先程戦った場所は交差点でやや開けた場所にあったため、二機でそのまま戦うには少々具合が悪いのもあり、場所を変えることにしたのだ。


「隊長、敵はどれくらいの数で来ますでしょうか?」

「正確には分からんが、首都リヴェルナの管制に問い合わせたところによると、今郊外付近には我々が倒した機体を含めて十四機の機体がいるらしい」

「すると、残りの十三機のうちほぼ半数に近い機体がこちらに向かっているというわけですね」


 僕は言いつつ顔をしかめた。分かっていたこととはいえ、これから先の戦いのことを想うと憂鬱ゆううつな気持ちになった。


「もっと増えるかもしれんな。……案ずるなナオキ軍曹、こちらもリヴェルナの管制に援軍を要請してある。全てを相手にすることもないだろう」


 アレク隊長は僕に諭すようにそう言った。


「とはいえ、すぐには来ないですよね。となると、今来ている敵だけは僕らだけで対応せざるを得ないわけですか……」

「そのためにこうやって場所を選んでいるんだ……うむ、ここならどうだ?」


 隊長が止まった場所は比較的狭い一本道だった。両脇は小さなビルに挟まれていて簡単には乗り越えたり中を破って突破したり出来そうにはない。また、一度に二機が横並びになるには狭すぎる場所である。

 勿論僕らにも同じことがいえるが、背中合わせになって射撃戦を挑めば応援が来るまでの時間くらいなら稼げそうだった。


「いいですね。勿論僕らも囲まれますけど、広い場所で囲まれて数で押されるよりましだと思います」

「よし、この場で敵と友軍を待つぞ」


 僕は機体を旋回させて隊長と背中合わせになると、エクリプスのシールドを地面に斜めに立たせるように構えさせた。同時にマシンガンを逆の手で構えて射撃戦の姿勢を取る。

 後ろでアレク隊長が03ACにライフルを構えさせる。お互いの武器の射程距離の関係で、僕の方が若干交差点側に近い。敵が最初にどちら側から来るかでも状況は変わりそうだった。


「隊長、念のためこちらに来ませんか? 03ACの横にいるよりは安全だと思います」


 僕はそう提案した。エクリプスは機体が大きい分、シールドを構えた状態でなら二人位は内側に入って身を守れそうだった。


「いや、ここでいい。有線操縦はやはり目視で動かさねばな」

「しかし、そこでは流れ弾に当たる危険性も高いのでは?」


 僕の問いかけに隊長は僕の方を振り返っていった。


「いや、これでいいんだ軍曹。WPという殺人兵器の罪を背負うにはやはり自分が前線に立たねば意味がないのだからな」

「はっ?」


 突然のアレク隊長の言葉に僕はその意味するところを理解することが出来ず、思わず素で聞き返してしまう。

 すると、隊長は静かに僕に語り始めた。


「君も見てきただろう軍曹。ヴェレンゲルで、ヤーバリーズで、ルドリアで、WPの銃口が生身の人間に向けられていたのを」

「はい」


 むろん、忘れられるわけもない。ヴェレンゲル基地での惨劇、ヤーバリーズでの悲惨なテロ、ルドリアの迎撃戦、いずれの場所でも必ず人が犠牲になった。


「WPが戦うのはWP同士。人を狙ってはならない。国際条約上ではそう定められているが、結局のところそれは単なるお題目にしか過ぎない、というわけだ。人を殺すための機械はどこまでいってもそのためにしか動けないのだろう」

「……」


 僕は静かに隊長の語りに耳を傾ける。


「だからというわけではないが、我々は戦場から離れた場所でただWPを動かすだけではいけないと思うのだ。相手は殺し、自分は安全な場所でぬくぬくと名誉のみを享受するのでは、無辜の市民を無作為に襲う殺人犯と大差ない。いや、それよりも罪深いかもしれない」

「……可能な限り、有線操縦で戦場に立つべき、ということですか?」

「相手のことを知りもせず、相手の痛みも理解できないまま戦い続けるよりもマシだろう。戦いは、ゲームではないのだからな」

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