第23話
店を出て、しばらく歩いていると道端に少女が一人立っているのが見えた。随分若い少女だった。
「よう、どうしたい嬢ちゃん?」
ベゼルグが声を掛けると少女はびくっと体を震わせた。
「えっ、いや、あの……お客様ですか?」
少女はたどたどしい言葉遣いで言った。まだまだ子供の話し方だった。
「いや、お前みたいな女を買うつもりはねえな」
「えっ?! ……じゃあなんで声を掛けたんですか?」
少女は困惑したようにベゼルグに言った。
「お前、一人でここに立ってるのか? いつからだ?」
「……私に用がない人に話す必要はありません……」
少女は気丈にも突っぱねて見せたが、ベゼルグには少女の態度は非常にもろく危ういもののように見えた。
「ああ、そうかい……だがな、俺が本気を出せばこの場でお前をやることくらい簡単なんだぜ?」
「ひっ……!」
ベゼルグが格好だけすごんでみせると、少女はあっさりと身をすくめた。
「分かっただろう? だったらさっさと言うんだな。どうしてこんなことをしている?」
「……両親に売られたんです。私の家は大家族で生活が苦しくて、このままじゃ食べていけないって言われて、一週間くらい前にここに売られてきて……」
少女はおずおずと事情を話し始めた。
「こんなところに売られてくるって、取引側がどれだけヤバい相手なのか、お前の両親は知っていたのか?」
「知らないと思います。私も最初はヤーバリーズにあるお店に行くと説明されていましたから……」
「まんまと引っかけられたわけだ。その分じゃお前さんの親は単に食い物にされてるだけだな」
「でも、私にはどうすることもできないですし……」
少女が目に涙を一杯に溢れさせながらそう言うと、ベゼルグは思案しながら周囲を油断なく見まわした。
すると、反対側の道の端に男が一人こちらを監視するように見ているのが分かった。
「おい、お前。ちょっと一緒に来い!」
「は、はい……」
ベゼルグに促され、少女は怯えながら一緒に歩き出した。
ベゼルグは少女を連れて真っ直ぐに男のところへ行った。
道の反対側に立っていた男はベゼルグが近付くと警戒する素振りを見せた。
「お前、こいつの雇い主の部下だな?」
「知らねえな」
男はとぼけて見せたが、ベゼルグは即座に
「こいつでどうだ?」
「……うちのボスに何か用事があるのか?」
男は事務的な口調になって言った。ちゃんとこの手の経験を積んでいるらしい。
「……伝言を頼みたい」
「あん? 手短にしろよ」
「何、簡単さ。『血塗られた英雄』が不機嫌である、と言えばいい」
その言葉を聞いた男はまともに顔色を変えた。
「まさか、あんた……」
その先を言おうとした男を、ベゼルグは片手で制した。
「長生きしたけりゃ、その先は口にするな。勿論、ただでとは言わんつもりだが、そちらの態度次第であることは覚えておけ」
「少しお待ちください」
男は改まった口調になると電話を持って裏路地に駆け込んでいった。
少女は訳が分からず目を丸くして事態を見守っている。
しばらくして男が裏路地から戻ってきた。
「大変失礼いたしました。ボスがそのうちご挨拶に
「この娘は好きにさせてもらうぞ。家族にも手を出すなと伝えておけ」
「は、了解いたしました!」
そう言うと、男は
「ふん、雑魚が……!」
「あ、あの……」
鼻を鳴らして
「ん? ああ、待たせてすまないな。これでお前さんは自由だ」
「え、ええ? ……あなたはどなたなんですか? こんなことが……」
少女はあまりの急展開にまだ理解が追い付いていないのか、
「ま、訳が分からんだろうが、世の中には訳の分からないことが
「で、でも、こんなところで自由にしていいって言われても……」
少女の言葉にベゼルグは納得したようにうなずいた。
「ん、ああ、それもそうだな。だったらこの地区で活動している牧師の家まで案内してやる。あそこは中立地帯だから誰も手を出さないだろう。ただし、家まで案内するだけだ。そこから先は自分で何とかしろ」
ベゼルグの言葉に少女は
「よし、さっさと行くぞ」
「あ、あの……一つだけ聞かせてください。どうして私を助けてくれたんですか?」
少女の言葉にベゼルグは簡潔に答えた。
「今夜はうまい酒が飲めたんでな」
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