第2話
僕が軍に入ることになったのは、家計を支えるためである。
僕の家は貧しかった。父親は僕が幼い頃に病気で亡くなり、母は僕と弟と妹を女手一人で育てていたが、その頃には既にAIとロボットがありとあらゆる仕事に進出して人から仕事を奪い始めていて、生活はいつも苦しかった。
いつも疲れた表情で懸命に働く母を見るにつけ、僕自身も早く働いて母を楽にしてあげたいと常々思っていたのであるが、母の方は僕にちゃんと勉強して学業で身を立ててほしいと考えていたらしく、僕がとりあえずは働ける年齢になっても学業を重視するよう度々語っていた。
しかし、僕が十七歳の時、母も病に倒れてしまう。完治が難しく、手や足にも重い障害が残るという難病であり、母の収入と国からの給付金で何とか成り立っていた僕たちの生活はたちまち追い詰められてしまった。
母からは勉学に励むように言われていたものの、ことここに至ってはそんなことも言っていられない。母の入院費用もそうだし、弟や妹が育っていくためには僕がどうにかして稼ぐ手段を見つけなければならなかった。
しかし、先程も触れたように社会にAIとロボットが進出し人が職を失っていく世の中において、高校もろくに出ていない若者がそれなりに稼げる職業を見つけるというのは、極めて困難な作業だった。
短期のアルバイトを繰り返し、その日その日をようやくしのぐという生活を繰り返していた、そんなある日のこと。たまたまその時に雇ってもらっていた飲食店の店主から、ネット上の軍の入隊案内を見せてもらえた。
店主は家族を支えるため、職を転々としている僕のことが気がかりだったようで、比較的安定した収入が確保できて学歴も問われない軍の志願兵制度を紹介するつもりになったらしい。
僕はその話に飛びついた。収入が不安定なアルバイトを繰り返していた僕にとっては、安定した収入と充実した福利厚生を兼ね備えている職場というのは大変に魅力的だった。軍がやっていることについて不安を感じないわけではなかったが、時代は既にWP全盛期であり人間が直接戦場に立つなどという話も全くと言っていいほど聞かれなくなっていた。今更それ以上にブラックなこともないだろうというのが僕の考えであった。それに家族のためにも、よりお金になる仕事をしなければならないという事情もあった。
かくして、入隊試験を受けることになった僕は、無事に試験をクリアして軍に入隊することになった。
入って最初の二年間は規律と体力を身につけるための基礎訓練に明け暮れた。訓練は厳しかったが、安定した収入のある生活を送れているというだけでも僕は満足であり、規律を遵守し厳しい訓練にも黙って耐えていた。
そんな態度が当時の上官の目にも留まったのであろうか? 入隊三年目を迎えた僕に上官はWP操縦の適性検査を受けるように勧めてきた。
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