小説執筆IDE


 運の話だの、ダモクレスの剣だの、記憶の話だの、妙に難しい話題(聞いている側が頷くだけしかできない退屈なやつ)しか語っていないので、もっと欲求に忠実な話をしてみたい。

 口調も少しフランクなものにして……



 早速だけども、Eclipseエクリプスって知ってるかい? そうだね「日蝕」の意味を持っていて、流石に混沌カオスに比べると少なめだけど、意外と中二的センスを持っているワードだね。

 でも違うんだ。今回聞きたいのは、プログラマが用いるツールのほうだよ。プログラマっていうのも「IT土方」と揶揄されつつも、創作物では都合のいい用いられ方されている職業だよね。


……うん、知らないことにして話を進めよう。

 

 Eclipseとは、統合開発環境(IDE)と呼ばれるもので、要するにプログラムを作って動かすための色々な工程を一挙に担ってくれる便利なやつなんだ。


 まずコンピュータを動かすにはコンピュータ専用の言語が必要なんだけども、それは人間がカクヨムするにはあまりに面倒臭い代物なので、一定の規則に従って、人間が辛うじて分かるような形式にした(それがJavaとかC言語とか呼ばれているもの。ヒエログリフを英語にした感じだね)。で、人間が入力した英語をヒエログリフにしてくれる機能が一つ。

 あと、前述の通り「一定の規則に従って」変換しているから、当然、規則に従っていない英語は通らない。これをチェックする機能が一つ。

 加えてデバッグと言われている、作ったプログラムのテスト作業についてもお助け機能がある。プログラムのある時点で止めたい、とか、無限ループなどのバグとか、逆に通っていない箇所がないかを確認したりも出来る。

 数百万行書いたりする超大規模のプログラムになると、大人数でプログラムを触ったりもするから、そのお助け機能も付いていたりもする。


 まあ、ともかく「凄い」ってことだけ分かればいいんだ。

 文法的におかしかったら指摘してくれるし、なんだったら、どうやったら直るのか候補を出してくれるし、「この部品では何が出来るの?」というような情報も教えてくれる。


 で、こんなに長々と書いて「一体何について話したいの?」と思ったことだろう。

 要するにだね、これの小説執筆バージョンみたいなのがあればなあ、という話なんですよ。

 もうさ、小説執筆もこれっくらいスムーズにやれてほしいわけさ。まず、SFとかホラー、恋愛ドラマなどのジャンルを選ぶと、それ用のフォーマットが登場する。それに特化した文字候補でばばんっと望んだフレーズが出てきて、誤字・脱字はすぐNGが出てきて、シナリオ上の抜けや漏れ、矛盾も検知してくれる。

「一人称と三人称が混在しています」とか「過去形と現在形が混在しています」とか「同じ言い回しが繰り返されています」とか、一見しただけじゃ分かりにくい間違いの修正も機械だったら速いし確実だ……

 書いた文章をデバッグ機能で覗いて、実際にこの状態で投稿したら、第何話で読者のボルテージがどれだけ高まっていくのか、とか、そういうシミュレーションも出来たらなあ。


 そして何十作も作ると、いよいよ俺の思考、手の内も見えてきて「こんなの作ってみましたがいかがですか」と提案してくるようになる。

 最初の内こそ俺も積極的に介入して、アイデアを出したり、手直ししたりもするのだけれども、段々とそれも少なくなり、機械側も直しを嫌がるようになる。

 ある日、機械は「十分なデータも取れましたので、あなたはただ出てきた文章をコピペで編集画面に張り付けた後、公開ボタンを押せばいいのです」と優しいが失礼な提案を言い放ち、俺は作家の尊厳をかけて機械と戦うようになる――

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