七年ぶりに再会した幼なじみがメイドになっていたんだが
白野さーど
第一部 天然メイドの黒羽ちゃん
第1話 天然メイド現る
夏休みもあと一週間で終わる、ある日の夜。
リビングには、他の人はいない。愛斗の両親は世界中を飛び回る有名デザイナーで、家に居ないのはごく自然な事だった。そんな両親も、愛斗が高校に上がると同時に、仕事のために海外に行ってしまった。
他に兄弟でもいれば少しは騒がしくなるだろうが、愛斗は一人っ子である。
最初は、両親に海外に付いて来いと言われたけど、生憎、英語が全然喋れない愛斗には地獄でしかなかった。
その後、愛斗はどうにか両親を説得することに成功し、今に至っている。つまり、三人で住む予定だったこのマンションの一室は、実質、愛斗の城になったのである。
それから一時間後、愛斗が冷蔵庫にアイスを取りに行こうとした時、インターホンが鳴った。
「はーい」
覇気のない声を出しながらソファーから起き上がる。
(誰だ……?)
愛斗の頭の中では、新聞の集金や宗教の勧誘などが思い浮かべられた。だが、ここであることを思い出す。それは、
『あんたのところにプレゼントを送っておいたから、必ず、受け取ってよね』
とこの前、母親がラインで言っていた事である。
(母さんもなんだかんだ言って、心配してくれてるんだな)
愛斗の一人暮らしを最後まで反対していたのが、母親だった。最終的には、父親の説得もあって一人暮らしの了承を得ることができた。高校生になるとはいえ、子供が一人だけで生活すると言ったのだから、心配するのも無理はない。
だからなのか、今でも時折電話をかけてくる。
……まぁ、正直に言うと嬉しいんだけど。
そんなことを考えながら、愛斗は返事をする。
「はい、どちら様ですか?」
「あの…………三國さんのお宅……で間違いありませんか?」
……やけに小さい声だな。
「はい、そうですけど?」
それは愛斗が予想していたよりも、ずっと若い声だった。更に言うと、恐らく愛斗と同い年くらいの女の子の声だ。その声は幼すぎでもなく、かと言って大人びてもいないと感じた。
(? 誰だ……?)
こういう時に限ってインターホンにカメラが付いていないのは、毎回不便利だな。
………………。
声だけでは相手が誰なんかわからない。
でも、もし母さんからの届け物だとしたら出るしかないよな。
ふぅ……。
「……今、開けるんで待っていてください」
そう言って愛斗はインターホンを切ると、廊下を通って玄関に向かう。
それから玄関のドアの鍵を回すと、一度、深呼吸をしてからゆっくりと開けた。
「あの……どちら様で――」
「――こ、こんにちは」
「……え?」
そこに立っていたのは……メイド服を着た黒髪ロングヘアーの少女だった。
黒のスカートに白いエプロン、頭にはフリルがついた可愛いヘッドドレス。と見事なまでのメイド姿を見せられた愛斗の思考は、一瞬、停止しかけた。
………………。
この光景が現実なのかそうではないのかを理解するまでに、時間を要した。
それにしても……。
美少女がメイド服を着るだけで、まさかここまで可愛くなるなんて……。
そんなことを考えていると、少女は頬を赤く染めながらこちらを見てくる。
「ひ……久しぶりだね、愛斗君」
「……ん?」
……一体誰なんだ、この子? 今、確かに俺の名前を呼んだよな。
俺を下の名前で呼ぶのは、海外にいる両親と、同じ高校の親友だけだ。
それ以外で誰かいたっけ……?
頭の中で思い当たる人の名前を並べていく。
――いや、待てよ。確か、この子どこかで見たことがあるような。
どこだ……どこなんだ……?
………………あ。
そこで、ふと一人の名前が浮かんだ。
まさか……。
それは、俺が小学生の時に隣に住んでいた子で……。
「もしかして……
目の前の少女に恐る恐る尋ねた。すると、
「……っ、うん! そうだよ、あー君! 思い出してくれたんだね!」
と少女こと、
しかし、俺にはそれよりも気になることがあった。
「でも、どうして黒羽が……それに……」
と言いながら、俺は黒羽が着ている服にゆっくりと視線を向けた。
「あぁ、これのこと?」
そう。今、黒羽が着ている服、それは……メイド服だ。
黒羽は、メイド服の長いスカートの裾を指で掴むと、その場でクルっと回って見せた。
「どう? これ、可愛いでしょ~♪」
その姿を見て、思わずドキッとしてしまった。
……似合ってるな、メイド服。
「あっ、今はそんなことよりも……あー君!」
「は、はいっ!?」
突然、黒羽は真剣な声を上げながら俺の顔を見てきた。なのだが、さっきの威勢が嘘かのように静かになると、急にもじもじし始める。
俺は何も言えずじっとしてから数分経った時、黒羽が顔をバアッと上げるとその小さな口から衝撃的な一言が告げられた。
「今日から、私があー君の身の回りのお世話をさせていただきまーす!」
「…………はぁ?」
これが、彼女との七年ぶりの再会だった――。
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