外伝 Ⅳ とあるゴーレム使いの恋噺②

☆★☆★ 新刊よろしくお願いします ☆★☆★


8月8日単行本6巻をよろしくお願いします。

グリザリア様、ファンは表紙買いもありだと思います。

よろしくお願いします



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



 そう。俺は知っている。

 ローガン・ボールという男を。

 そいつは兵士でもなければ、勇者でもない。ゴーレム使いの傍ら石像彫刻師として名を馳せ、世界的なアーティストの一員になった男で、俺が唯一名前の知る人類である。


 何故、魔族の俺が兵士でもない人間の名前を知っているのか。それは魔王城に連行してきた人間が携帯していた本から始まった。


『ローガン・ボールが大事にしている5つのこと』と題された本には、題名の通りローガンが人生で大事にしてきた5つのことが書かれている。


『彫りたい時に彫れ。彫りたくなくても彫れ』


『芸術に練習はない。すべては芸術である』


『3日寝てない。……そこからが始まりと知れ』


『死ねと命令されて、死ぬな。命令される前に死ね』


 etc……、etc……。


 独特で、毒舌な名言は有名で、その本はベストセラーになり、特に兵士を中心に共感の輪が広がったらしい。兵士が書物を携帯していたことには違和感しかなかったが、そういう経緯があったようだ。


 こういう人類の知識は、魔王様の研究対象となることが多い。

 とはいえ、魔王様はまだまだちびっ子……げふんげふん、若い魔族である。


 魔王様が成長する上で有害な図書になりかねない。そこでたまたま暇だった俺が検閲を担当することになったわけだが、中身を精査するうちにハマってしまったというわけだ。


 しかし、まさか本人と会うことができるとは……。


 人類圏に来て、もしかしたら1番の幸運かもしれない。

 俺に憑いている貧乏神も満更ではないようだ。


 いやー、それにしても持つべき者は自称弟子である。

 まさか俺とローガンを会わせるためのサプライズを用意していたとはな。

 妙にカーラたちが演技っぽいのも俺を驚かせるためのものなのだったのだろう。


「まさか聖者様が、ローガン様を知っているなんて」


「ビックリしたよ、もう」


「あ? なんだ、お前たち。俺がローガン・ボールを敬愛していることを知って、会わせたんじゃないか?」


「着いたぞ、カプア殿」


 ギルドマスターマケンジーが案内したのは、ノイヴィルにあるローガンの別宅だった。


 まさかノイヴィルにローガンの別宅があるとはな。何でもこの近くに、ローガンが好きな石が産出されるとかで、ノイヴィルに屋敷を建てたらしい。


 話によると独り身のようだが、随分と大きな屋敷だった。


 使用人に通されると、ついに俺はローガン・ボールと対面する。


「わしがローガン・ボールじゃ」


 ソファに寄りかかり、白髪の老人の三白眼が俺を射貫く。肘掛けに置いた手にはたくさんの傷。マケンジーと同じく小柄だが、どこか歴戦の老騎士を思わせるような覇気を感じさせた。


 これが世界的有名な芸術家か。

 やはり普通の人類とは違って、面構えが違う。


 やばい。魔族的にNGだとわかってても、ちょっと感動してる自分がいる。

 俺って結構ミーハーなところがあるんだな。


「あんたがわしの悩みを解消してくれるのかね」


 再び刃物の切っ先のような視線が飛ぶ。素直に怖いぞ、この爺さん。石像彫刻家ってのは本当か。2、30人ぐらい人を斬ってるみたいな目をしてるぞ。


 俺は怯まない。

 これでも元四天王だ。殺した数ではこっちが上である(仲間含む)。


 向こうは72歳とのことだが、俺はこう見えて200歳を越えている。

 人生経験も、くぐった修羅場の数と、徹夜の日数もこっちが上だ。


 悩み相談?


 ぬるいぬるい。


 どんな悩みでもお答えしようじゃないか、この屍蠍のカプソディア様がな!


「てっきり、そっちのお嬢ちゃんたちがわしの悩みを聞いてくれると思っておったが、お主がか」


「ええ。なんでも言ってくださいよ」


 揉み手をしながら、景気よく俺は答えた。

 さすがは世界的な芸術家。

 金払いも良くて、なかなかの報酬だ。


 まあ、俺としては握手して、サインしてくれれば何も言うことはないのだが、向こうがくれるっていうんだから、致し方なくもらってやろう。


「わし、今年で85歳になる。それまで心技体を極めようと、無我夢中で石を彫ってきた」


 おお! なんか歴戦のベテラン職人って感じだ。


 ローガンの本にも書かれていたが、こういうひたすら何かに打ち込んできた人間の言葉って重いよなあ。


「が、もうわしは年だ。いい加減、疲れてきた」


「ということは、悩みというのは財産分与とか、技術の継承とかそういうのでしょうか?」


「違う。そんなもの些末なことでしかない」


 別に些末なことじゃないけどな。

 結構重要なことだと思うのだが……。

 人類のジジイって、みんなこんなもんなのだろうか。


「じゃあ……」


「ふと気づいたのだ」


「何に?」


 勿体付けるローガンに思わずタメ口になってしまった。


 俺の態度に怒ったのかそうでないのか定かではないが、ローガンは俺の方を見て大まじめな顔でこう言った。


「女体の神秘じゃ」


「は?」


「わし、結婚したい。誰かいい人おらんかの??」


「はい?????」


「あとさ。今、ふと思ったんじゃが……」



 わし、童貞じゃったわ。



 世界的有名芸術家の童貞カミングアウトに、俺はまさに石像のように固まるのであった。

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