外伝Ⅱ
外伝 Ⅱ 入れ替わってるぅう!①
コミックス5巻が、3月9日発売です。
担当編集が予約をしてもらえると、とてもいいことが起こると言っているので、
是非ご予約お願いします。
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その悲劇はルヴィアナの一言から始まった。
「あんたたち、ちょうど来週が誕生日だったわよね」
午前の訓練が終わった昼休み。
訓練兵にとっては、1日のオアシスの1つである。
後に四天王になるブレイゼル、ルヴィアナ、ヴォガニス、そしてカプソディアは昼食を終えて、食休みしていた。
ただ人間と比べても、魔族というのは血気盛んである。若人となれば、尚更のことだ。
相変わらずアーリマンの目玉焼きにかける調味料について(物理を以て)激論を交わしていたブレイゼルと、カプソディアはルヴィアナの言葉を聞いてはたと止まる。
やや
「はは……。そういや、お前ら一緒の誕生日なんだったな」
ケラケラと声を上げる。
カプソディアとブレイゼルは互いの腫れ上がった顔を見合わせると、ふんと顔を逸らした。
そう。実は、毎回毎回いがみ合ってていて、性格も家柄も正反対であるブレイゼルとカプソディアにとって、誕生日が一緒というのは意外な接点であった。
「ふん! 正確には違うぞ、ルヴィアナ。我の方が2秒ほど早く生まれている。というわけで、我の方が年上だ。存分に敬うがいい、カプソディア」
「はあああああ! 何が2秒だ! そんなもん誤差だろ。てか、俺より2秒早い証拠があんのかよ。もう30年ぐらい待ってるけど、出てきてねぇじゃねぇか! ソースだせよ、ソース」
「なんだと貴様!!」
「それともうっかり自分でも燃やしちまったとか、ケケケ!!」
「「ぐぬぬぬぬぬ!!」」
再び犬と猿の戦いが始まる。
そこに割って入ったのは、一陣の暴風だった。
ルヴィアナである。
「はいはい。言ってる側から喧嘩しないの! 来週からちょうど期末休暇が始まるし。地元に戻って誕生日パーティーをしましょうよ」
「お! 飯がたらふく食べられるなら参加するぜ」
ヴォガニスは早速唇を舐めた。
「ならば、場所は我の屋敷が良かろう。我が屋敷ならば広いし、豪勢な料理と激しい血みどろの拳闘試合を用意できる」
「ケッ! 何が悲しくて、誕生日に血みどろの喧嘩を見なきゃいけないんだよ。ブレイゼルの屋敷でやるなら、俺はパスだ。どうもあそこのノリは合わねぇし」
「心配するな。お前を呼ぶ気はないぞ、カプソディア。お前はケーキのスポンジよりも薄い一戸建ての家で、ちゃぶ台に蝋燭でも点けて、己を祝ってるがいい」
「誰の家が、ケーキの下地のスポンジよりも薄いだ!! うちの壁は煎餅より硬いわ!」
「だから喧嘩しない! ブレイゼルも失礼なことを言わない」
ルヴィアナはブレイゼルを睨み付けるのだが、暖簾に腕押しだ。
熱烈なルヴィアナの視線を受けて、「ふっ! ルヴィアナ、とうとう我に惚れたか」と髪を掻き上げている。
これでは埒が明かない。
1人頭を抱えたルヴィアナは代替え案を出す。
「じゃあ、私の実家でやりましょう」
「ルヴィアナの……」
「実家……?」
ルヴィアナもブレイゼルの赤竜族ほどではないにしろ、魔族の中で音に聞く名家のお嬢様である。
魔精霊族のルヴィアナの実家は、魔族領の西に広がる大森林の長の家だ。「風の大精霊」と呼ばれ、魔王も一目置く存在である。
「ルヴィアナの実家……。つまり、これはあれか、ルヴィアナ? 我と結婚するということか」
ついにルヴィアナはブレイゼルを吹き飛ばす。巨大な竜巻に飲み込まれたブレイゼルは、何故か嬉しそうに空へと舞い上がっていった。
「誰が結婚よ! 誰が!!」
「しっかし、珍しいなあ。お前が実家に招待するなんて。今まで
「別にあなたたちを呼びたくなかったわけじゃないのよ。……まあ、その……………えっと、し、心情的なものよ」
何故かルヴィアナは顔を赤くする。
カプソディアは首を傾げた。
可能であれば、最初に好いた男の子を実家に呼びたかったという乙女心は到底理解できないもののようだ。
「と、とにかく! 訓練場から実家まで近いし。両親も帰ってこいってうるさいのよ」
「なんだ? 夏期休暇帰らなかったのか?」
「ええ……。どっかの誰かさんが筆記で赤点とって、その勉強に付き合ったおかげでね」
ルヴィアナは唐突に殺意を隣のヴォガニスに向ける。
さすがのヤンチャボーイのヴォガニスも顔をさらに青くして、タジタジだった。
「で? どうする? ブレイゼルは聞くまでもないけど、カプソディアも来るの? 私の家」
「うーん。そうだな。まあ、1度お前の父ちゃんにも挨拶しておかないとな」
「あ、挨拶! ちょちょちょ! いきなり何言ってんのよ。さすがに気が早いでしょ! あんたもブレイゼルみたいなこと言わないでよ」
またルヴィアナは顔を真っ赤にして、カプソディアの肩をポカポカと叩く。
完全に乙女として気が動転しているのだが、カプソディアはまったく気づいていない様子だった。
(風の大精霊とは1度会っておきたいし。上に上がるためにも、人脈を作っておいた方がいいよなあ)
1週間後……。
魔精霊族が住まう西の森の入口に、男たちは集っていた。
ルヴィアナがやってくるのを待ち合わせていた3人は、待ち時間が1秒経過した瞬間にいがみあっていた。
「ぎゃはははははは!! ブレイゼル、なんだよ、その恰好」
「ぎゃははは! さすがにその恰好は擁護できねぇぞ。ぶひゃひゃひゃ!」
カプソディアとヴォガニスは「うひゃひゃひゃ!」と下品に笑う。当然ブレイゼルは青筋を浮かべた。
ブレイゼルの姿は訓練生の恰好でも、火衣のマントを纏った姿でもない。
人間で言うところのタキシードを身に纏っており、さらには手には大輪の薔薇が何本も刺さった花束が握られていた。
人間ならば「決まった」というところなのだろうが、カプソディアたち魔族の美的感覚からすれば、お笑いものだったのだ。
しかし、笑われたところでブレイゼルは動じない。
サッと赤い髪を掻き上げると、余裕の笑みを浮かべる。
「愚か者め。我が愛しハニーの家に行くんだぞ。正装してしかるべしだろう」
「何が正装だよ、ぎゃはははは!」
「えーい! うるさい! 貧乏人め! お前の方こそ、折角ルヴィアナが招待してくれたというのに、何でいつも通りの恰好なのだ」
ブレイゼルの言う通り、カプソディアの恰好はいつも通りだった。あの薄暗く、如何にも幸薄そうなローブを頭からすっぱりと着ている。
「ばーか。これが俺の正装なんだよ。そもそも俺のことを言う前に、ヴォガニスを見ろ。あいつなんて上半身裸だぞ!」
「あったりまえ! 服なんていらねぇ。男はカッコいい肉体があればいいんだよ」
注文もしていないのに、ヴォガニスは得意のポージングを取る。
さすがのブレイゼルも呆れて、やれやれと首を振った。
「ごめん。待った?」
唐突に声が森の奥から聞こえた。
やってきたのは、森の妖精――もといルヴィアナであった。
「「「…………」」」
男どもが一斉に黙り込む。
明らかにルヴィアナの恰好に魅了されている様子だった。
なんてことはない。清純そうな真っ白なブラウスに、ふわっとした膝丈ぐらいの黒のスカート。さらにニーソという出で立ちだったのである。
「ちょ! な、なによ! いきなり黙りこくらないくれる」
ルヴィアナは男性陣を睨み付けるが、いつもよりも些か覇気が足りない。その頬は赤くなっていた。
今目の前にあるのは間違いなく、よく知る親友の眼光であったが、何か妙にドギマギしてしまった男性陣は一言も発せず、幼馴染みの恰好に息を呑む。
ブレイゼルなど半分失神しかかっていた。
「も、もう! 行くわよ! ほら!!」
ルヴィアナは勝手に歩き出す。
割と青春ラブコメの1ページみたいな始まり方だったが……。
地獄はここからであった……。
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