メシマズキャラのチョコが、俺の分だけ甘いことについて

どこからどう見てもヴァレンタイン企画!


あ! 3月9日に『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の5巻が出るからよろしくね。


Amazonで予約始まってるよ。表紙はあいつだよ(たぶん)!



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 よう。お前ら、久しぶりだな。

 屍蠍のカプソディアだ。覚えてるか?

 なに? メタい? そういうのはいいから本編更新しろ?

 たまにはいいだろ。どうせ、この作品はシュールギャグだし。

 今回の更新は季節ネタみたいなものだし、ある程度前振りで説明しておかないと、後から読んだ読者はわからないだろ?


 話は変わるが、人間には女が男にチョコレートを渡す習慣があるそうだな。

 日にちも決められているとか。

 何故か知らないが、実は魔王軍にもそういう習慣があってな。

 平たく言うと、そういう話だってことだ。



 ◆◇◆◇◆



 もはや周知のことと思うが、ルヴィアナが作る料理は不味い。

 女の子が作った料理を、男が上から目線で不味いとかいうなって怒られそうだが、「不味い」と称することすら、これでも優しい方なんだぞ。

 何のフィルターも通さず、単純に明快にいうとあれは「●●●●クッキング」だ。


 しかも、本人にはまったく自覚ない。

 もっと言えば、本人は料理好きで、やたらと手料理を振る舞いたがることが、事態に拍車をかけていた。


 幼馴染みの俺やヴォガニス、ブレイゼルはともかくとして、軍学校に入った当初、学校のマドンナが作る手料理に一体何人が餌食になったことかわからない。

 それでも、ブレイゼルみたいに積極的に食べに行く奴もいるがな。


 だが、そんなルヴィアナにも唯一といっていい得意料理がある。

 それがチョコレートだ。


 ただ勘違いしてもらっては困る。

 ルヴィアナが作るチョコレートは、他の料理よりはだいぶその形状に近い形をしているというだけだ。異界の悪魔みたいな形をしていないというだけであって、味はお察しというわけである。


 むしろ見た目だけはちゃんとしているので、余計にタチが悪い。


 なのに本人は毎年飽きもせずに、義理チョコを作って軍学校に登校してくる。たとえ『●●●●クッキング』だとしても、欲しいと思う魔族は多いからだ。

 いつも嫌がられる手作り料理を受け取ってくれるだけに、ルヴィアナも毎年張り切って、大量の義理チョコを作る。


 さて、その大量の義理チョコだが、1つ噂がある。


 義理チョコの中には、1つだけおいしいチョコレートがあって、それはルヴィアナの本命のチョコだという、まったく風聞も甚だしい噂だった。


 しかし、味気のない軍学校の生活に於いて、その噂は一服の清涼剤だったのだ。





 軍学校の通学年数は30年である。

 人間と比べれば、10倍の長さだが、これには1つ理由がある。

 魔族の大半は頭が悪いからだ。


 人間の中には、魔族はとても賢く、進んだ技術を持っていると認識しているようだが、否定はしない。そういう魔族もいるが、一握りである。

 たいていの魔族は、人間が3年で教えるものに対して、30年かかる荒くれ者たちばかりだ。

 集中力もなければ、10分じっとしてることも難しい。

 平たく言えば、子どもである。


 現在、俺は10年生だ。


 ただ俺は3年で軍学校の必要な単位を取ってしまった。

 今は幼馴染みにつきあって、まだ学校のお世話になっている。

 必要単位外の講義も面白いし、そもそも幼馴染みを置いて、卒業するのも面白くない。

 喧嘩は絶えないが、できればあいつらと一緒に魔王軍に入りたいと思っている。


 本日の1限目は座学だ。

 魔族は身体を動かす方を好む。座学は当然の如く不人気だ。

 ヴォガニスは欠席だろうと考えていたら、校舎の廊下を歩くルヴィアナを見つけた。


 本人が担いでいる袋を見て、今日がチョコを渡す日だと思い出す。

 ちなみに名前は忘れた。う゛ぁれ……、バレ……? なんだっけ?

 まあ、いいか。


「よぉ、ルヴィアナ。今年も随分とたくさん作ってきたな」

「あら、カプソディア。おはよう。……ふふん。そうよ。今年の自信作よ」


 ルヴィアナは胸を張る。

 ちなみに「今年の自信作よ」というのは、もはや風物詩となった行事で、ルヴィアナが毎年言ってる言葉だ。

 模擬訓練では慎重すぎるほど慎重なのに、料理のこととなると、なんでこんなにポジティブなのか。長く幼馴染みをやっているが、未だに理解できない部分である。


「はい。カプソディアのぶん」


 そう言って、ルヴィアナは頼みもしないのに、ハート型のチョコを俺に渡す。

 このハート型というのは味噌で、この形にすることだけはできるらしい。

 だから、義理チョコもすべてハート型だ。


「ありがとよ」

「もうちょっと嬉しそうにしなさいよ」

「あれぐらいか?」


 俺が指差したのは校庭のど真ん中で、チョコを持ち固まっていたブレイゼルである。


「おおおおおお! ルヴィアナのチョコ、うれしいよおおおおおお! 我、嬉しいぞおおおおおおおおお! やばい。我、火属性だから消える。チョコが溶けるうぅぅううううう! ぬぼぼぼぼぼぼぼ!!」


 掲げたチョコは、興奮したブレイゼルの炎によって溶け始め、すでに腕がチョコまみれになっていた。


「あそこまで喜ばれたら、作る方もうれしいだろうな」

「い、いや……。さすがにちょっと…………引くかな?」


 ルヴィアナは熱烈なファンから目を背ける。


 だが、ルヴィアナのチョコに白熱していたのは、ブレイゼルだけではなかった。

 講義場に入ると、数人の雄魔族どもが1枚のチョコを巡って何やら騒いでいた。


「お、お前! 本当に食べるのか?」

「あ、当たり前だろ! 食べておいしかったら、ルヴィアナの本命なんだぞ」


 どうやら、ルヴィアナからチョコをもらった魔族が食べるか食べないかで言い争っているらしい。


「し、死ぬかもしれないんだぞ」

「死ぬぐらい怖くて、一人前になれるかよ!」


 1匹がついに食べる。

 パキッという気持ちのいい音が廊下の真ん中で響いた。


「う……」

「う?」

「うめぇ……」


 そう言って、魔族は倒れる。

 親指を立てて、いい顔をしていたが、その目は完全に白目を剥いていた。

 残念ながら、待機していた軍学校の衛生兵見習いたちに運ばれていく。

 おそらくだが、解剖学の実験にでも使われるのだろう。


「ほら、うまいって言ってるでしょ?」

「お前、今のあれを見て、よくそんなことを言えるな!」


 うまいって言って、倒れる料理があってたまるかよ。


「うるさいわねぇ。嫌ならもらわなければいいのよ」

「いや、もらって倒れることの方が問題なんだよ!」

「だいたい誰よ、もう! おいしくできあがったチョコが本命チョコとか噂流した奴! 私からすれば、全部おいしいのに!」


 と、ルヴィアナは怒りを露わにしていた。



 ◆◇◆◇◆  6年前……  ◆◇◆◇◆



 覚えているのは、軍学校のキッチンにいるルヴィアナだ。

 その日もルヴィアナは、キッチンを殺人事件の現場か、拷問部屋かと思う程汚しながら、一生懸命チョコを作っていた。


 とはいえ、4年も同じ学び舎にいれば、化けの皮はとっくに剥がれているものだ。

 1、2年目はともかくとして、3年目となると大量のチョコが投棄されるという事態になった。

 幸いにも、本人に発見される前に俺が発見し、ブレイゼルが燃やし尽くし、ヴォガニスが他の魔族を脅して、黙らせた。


 とはいえ、毎年同じことが繰り返すのは、少々問題がある。

 ウキウキで作ってるルヴィアナを止めるのは憚れるし、毎年魔族たちに見えないところで廃棄しろ、と脅すのも忍びない。


 悩んだ末、ルヴィアナに打ち明けて、やめてもらうことを選択し、幼馴染みを代表して、窓を挟んでキッチンのある所までやって来たのだが、ルヴィアナの楽しそうな顔を見てたら、足が止まってしまった。


(さて、どうしたもんかなあ)


 頭を掻きながら考えていたら、2人の魔族がキッチンで格闘しているルヴィアナの姿を見つけた。


「げっ! またルヴィアナの奴、チョコを作ってるぞ」

「勘弁してくれよ。……料理を作らなければ、いい女なのになあ」

「まったくだ……。あははははは!」

「あははははは!」


 2人して笑っている。


 まったく同感だ。

 料理を作ることと、もう少し性格がお淑やかなら、今も引く手あまただろう。


 2人の魔族の意見に同意した俺だったが、どういうわけか、目の前に立っていた。

 自分でもよくわからず、妙なことを口走っていた。


「よぉ、お前ら」


「げっ! カプソディア」

「な、なんだよ。もしかして、今の聞いていたのか?」


「まあな。……ところで、お前ら知ってるか? ルヴィアナのチョコについての噂……」


「噂?」

「なんの噂だよ」


「ルヴィアナのチョコは1個だけ奇跡的にうまくできているチョコがあってな。それこそが本命のチョコらしいぜ」


「ま、マジか!」

「嘘じゃないだろうな」


「マジマジ。知ってるだろ。俺とルヴィアナが仲いいの」


「マジかよ!」

「明日が楽しみだなあ。……えっと、明日ってなんの日だっけ?」


 とまあ、こうして俺は妙ちくりんな噂を流したのだった。



 ◆◇◆◇◆ 現在 ◆◇◆◇◆



 勢いで言ったことだが、今もその噂は軍学校で使われている。

 さすがに6年も経てば、真偽を疑う者もいるが、ルヴィアナ本人も知るところになり、今や学校のちょっとした風物詩になっていた。


 毎年大量のチョコを作るのは大変だろうが、ルヴィアナは喜んでいるし、度胸試しではあるが、一応口にする奴もいる。

 ま――Win-Winって奴だな。


「ねぇ……。カプソディア」

「ん?」


 なんか昔のことを考えていたら、いつの間にか座学が始まっていたらしい。

 ブレイゼルは未だに校庭で喜んでるいるし、ヴォガニスにいたって今日もサボりらしい。

 真面目なのは俺とルヴィアナぐらいだ。

 ルヴィアナはともかく、いつになったら卒業できるんだろうな、俺たち。


 色々考えていたら、小腹が空いてきた。


「そのチョコ、誰からもらったの?」

「チョコ?」


 いつの間にか講義を聞きながら、俺はチョコを食っていたらしい。

 ――って、え? 待て待て。

 これって、まさかルヴィアナからもらったチョコでは?

 やばっ! 俺、死ぬ? いや、死んでるけど。存在的に……。


 いや、ていうか、そんなことよりもこのチョコ……。


 もしかして、うまい?


「だ、誰って……、そりゃあ?」

「私なわけないでしょ? あんたが私のチョコをそんなに平気そうに食べるわけないし」

「いや、ルヴィアナ……」

「いいのよ。無理しなくても。見てなさい! いつかみんなをギャフンと言わせてやるんだから! 来年こそ!!」


 すでにルヴィアナは今年を諦め、来年に闘士を燃やしていた。

 その横で俺は改めて、チョコを囓る。


 ……おかしい。やっぱりおいしいんだが、このチョコ。



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