第6話 ギルドへGO!
ヴァザーグの住処を出て、俺たちは近くの街に到着した。
ノイヴィルという辺境の街で、規模は他と比べて小さい。
敵情視察のために1度王都を見たことがあったが、人がひしめき合い、何かせき立てられるようなせわしない感じがした。
だが、ノイヴィルにはそんな雰囲気はない。
まるで時間が止まっているかのようにのんびりとしていた。
いい街だな。
俺は直感でそう思った。
ここでなら、第二の人生をスタートできる。
そんな確信を持たせてくれる街だった。
ただしそのためには、
「し~しょ~。ボクを弟子にしてよ~」
俺の腕に絡み、幼児のように甘えた声を上げたのはパフィミアだ。
うるうると瞳に涙を滲ませ、尻尾をぶんぶんと振っている。
ヴァザーグの住処でお願いされてからというもの、ずっとこうだ。
最初は可哀想に思えてきたのだが、段々普通に鬱陶しくなってきた。
「言ったろ。俺もまた修行中の身なんだよ。弟子は取らねぇって」
ここまでの道すがらで、俺の嘘の経歴が決まった。
山で修行をしていた修験者だったが、生活費に困って下山し、今から街で仕事を探しにいくところだった時に、ヴァザーグと遭遇した――ということになった。
自分で言ってて、矛盾を感じなくはないが、世間知らずの聖女様と田舎者の勇者様はすっかりこの嘘を信じてしまったらしい。
逆にこっちが良心の呵責に苛まれるぐらいにだ。
「ともかくありがとな、シャロン、パフィミア。街まで送ってくれて」
「いいえ。わたくしたちがカプア様から受けた恩義に比べれば、足りないぐらいです」
「じゃあ、ここでお別れだな」
「ええ! 師匠、このままお別れしちゃうの?」
やだやだやだやだやだやだ……。
パフィミアは俺に抱きついてきた。
こいつの毛、やわらけぇ~。
なんかケルベロスを思い出すなあ。
でも、勝手に師匠呼ばわりをするな。
弟子を取った覚えはねぇぞ。
俺はシャロンに助けを求めたが、聖女様はクスリと笑うだけだった。
「カプア様、この街でお仕事を探す予定なのですよね」
「まあ、そうだな」
「でしたら、ギルドに登録されるのが1番かと」
「ギルド?」
「職業斡旋所です。そこに行けば、色々な仕事を紹介してもらえます」
「おお! 行く行く!!」
「では、我々も今からギルドに参りますので、そこまでご一緒しましょう」
「ん? お前たちはこれから魔族を討伐しに行くんじゃないのか?」
「本当はそのつもりだったのですが、パフィミア様が」
ちらりとシャロンは、未だに俺の腰に縋り付いたパフィミアを見つめる。
いい加減こっちは離れてほしい。
あと何げにおっ○いが当たってるんだが……。
「あのね。師匠、聞いて! ボク、ヴァザーグとの戦いでわかったことがあるんだ。ボクには戦闘経験が足りていない。今、魔王軍と戦っても弱い魔族に勝てても、強い魔族に勝てないかもって」
まあ、当たってるか。
パフィミアの潜在能力は、俺の目から見ても一級品だ。
今の能力でも、俺たち四天王は無理でも、その下の幹部クラスなら勝てるかもしれない。
やや語彙に乏しいパフィミアに代わって、シャロンが説明を引き継ぐ。
「ですから、まずはパフィミア様に戦闘経験を積んでもらうことにしました。ひとまず、この街のギルドで冒険者登録をしようと思いまして」
「冒険者……?」
「はい。国に代わって、街道沿いの魔獣を討伐したり、魔獣が徘徊する森や山で貴重な薬草や魔獣そのものの部位を採ったりする職業です。戦闘経験を積ませるには、冒険者が1番かと」
「シャロン違うよ。1番は師匠の弟子になることだよ」
「……。つまりは行き先が同じなら、そこまで同行しようぜってことだな」
「はい。その通りです」
「わかった。ギルドまでだからな」
「やった! 師匠とまだ一緒だ!!」
パフィミアはギュウッと俺を締め付ける。
痛い痛い! 本気で絞めるな!!
お前の馬鹿力はわかったから。
「良かったですね、パフィミア様」
「うん。ありがとう、シャロン」
2人とも屈託のない笑顔を浮かべるのだった。
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