第4話 四天王ですが、何か?

 まさか人間の中に、死属性の魔法が使えるヤツがいるとはな。

 あいつらの中では絶滅した技術だと思っていたんだが。

 ちょっともったいないことをした。

 折角、死属性魔法について話せる同志が現れたというのに。

 死属性魔法トークがしたかったぜ。


 ともかく俺はヴァザーグの荷物を漁った。

 人間の街に行くにしても、先立つものが必要だ。

 追い剥ぎというのは、あまり褒められたものではないが、この際仕方ない。

 俺、魔族だしな。


「えっと……。道具袋には薬と金ぐらいか。人間の金の価値は、俺にはわからんなあ。多いのか少ないのかも判断できん。しっかし、しけてんなあ。後は腰蓑ぐらいかよ。お……?」


 俺が目を付けたのは、ヴァザーグが持っていた竜牙刀だ。

 かなり荒削りな武器だが、数種類のエンチャントがかかっている。

 こちらはそれなりに高価のようだ。


「ぐっ! おもっ!!」


 俺は竜牙刀をお手製の魔法袋の中に入れようとしたが、かなり重い。

 こういう時、自分がレベル1なのを痛感させられる。


 なんとか袋にしまい、俺は一息吐いた。


「これは遠征用の装備じゃねぇな。近くに住処でもあるのか? そういや、勇者がどうのこうのって言ってたっけ?」


 ヴァザーグの身体から、本人とは別の死臭がする。

 それもかなり最近のだ。

 亜屍族デミリッチの俺の鼻は、死臭をかぎ分けることができる。


 とはいえ、ヴァザーグの住処なんて見当も付かない。


「仕方ない」


 俺は死属性の魔法を使った。



 死神帳デスノート……。



 手の平に黒い冊子が現れる。

 俺はそれをパラパラとめくった。

 これは死んだ人間の生まれてから死ぬまでの経歴を見ることができる魔法だ。

 死属性の鑑定魔法といったところだろう。


「やはり近くにあるようだな」


 俺は冊子を閉じると、早速ヴァザーグの住み処へと向かった。



 ◆◇◆◇◆



 そこは急な山肌にポッカリと開いた洞穴だった。

 薄暗い中を進む。

 俺は夜の眷属まぞくだ。

 闇には慣れている。


 奥へと辿り着くと、鎖に繋がれた銀髪の少女がいた。

 ロリ――という程、幼い訳ではないが、見目麗しい容姿をしている。

 だが、折角の白い肌は泥や血を被り、腰まで伸びた銀髪はくすんでいた。


 青い瞳に光がない。

 死んではいないが、その精神は死を迎えようとしていた。


 少女は人の気配に気付き、ビクリと肩を震わせる。

 きっとヴァザーグが帰ってきたと思ったんだろう。


「安心しろ、俺はヴァザーグじゃない。あんたはその……勇者の連れか何かか? それともヴァザーグにここに無理やり連れてこられた村の女か?」


「勇者……?」


 人形のように動かなかった少女が、「勇者」という単語を聞いて反応する。

 すると、少女の青い眼から涙があふれた。


「勇者様……。おいたわしや。わたくしを助けに来たばっかりに……」


 察するところ、この少女がヴァザーグに捕まって、それを勇者とやらが助けにきたところを返り討ちにあったって感じか。


 同族の命をなんとも思っていないヴァザーグのような奴もいれば、こうやって1人の命に涙を流す奴もいる。

 人間も色々なんだな。


「なあ……。あんた、教えてくれ。勇者の骸はどこにある?」


 少女は言葉ではなく、目で指し示す。

 部屋のさらに奥に、死体が転がっていた。

 これが勇者……。しかも亜人種で、女か。

 紅色の髪の中に、ふさふさした耳がぴょこりと出てる。

 お尻から大きな尻尾が出ていた。

 おそらく紅狼族こうろうぞくだな。


 触ってみると、まだ生暖かい。

 俺は再び死神帳デスノートを開く。


「なあ、この勇者様の名前は?」


「えっと……。パフィミア・プリミル様ですが、一体何を?」


「パフィミア、パフィミアっと……。あったあった」


 竜牙刀の一撃で死亡って書いてあるな。

 つい1時間前か。

 俺に襲いかかる直前だな。

 なるほど。ヴァザーグは俺を勇者の連れか、自分を討伐しに来た人間と勘違いしたのか。


 まあ、そんなことはどうでもいいか。


 ともかく、この経歴に付け加えよう。



 竜牙刀の一撃で死亡。その後ヽヽヽ息を吹き返すヽヽヽヽヽヽ



「がはっ!!」


 突如、勇者パフィミアは息を吹き返した。

 勇者復活。

 銀髪の少女は目を丸くする。


「そんな……。まさか――今のは死者蘇生魔法…………。高位の神官が100人集まっても、達成できない大魔法を聖壇も、聖遺物もなしに成功させるなんて」


 聖壇に、聖遺物?

 そんなまどろっこしいことしないと、死者も蘇生できないのか、人間は。

 そう言えば人間って1000年前ぐらいまで、死者蘇生技術の研究を禁止していたんだっけ?

 倫理がどうとか、人権がどうとかくだらない理由で。

 だから、死者蘇生技術が魔族よりかなり遅れているのだろう。


 俺なんて毎日1000人単位で生き返らせていたんだがな。

 魔族は人間と違って、生殖能力が低いから、死んだ兵士を生き返らせるのが、俺たち死属性使いの通常業務みたいなものだったし。


 毎日バカバカ死ぬものだから、大変だったぜ。

 デカい戦さの後は、毎日残業させられて、ケルベロスに癒やしてもらったものだ。

 おかげで戦場に赴いて、武功を上げる時間すらなかったけどな。


 ちなみに死神帳デスノートは死体の情報を読み取れる上に、そこに上書きして、こんな風に蘇生させることも可能だ。

 ただこの使い方は死んでから最大で3日目までだけどな。

 それまでに蘇生させないと、肉体の方に限界が来る。

 生き返らせても、肉体のないただの生き霊になってしまうのだ。


「ありがとうございます、聖者様!」


 勇者が生き返ったからだろうか。

 銀髪の少女は涙を流しながら喜んだ。

 熱烈な視線を今生き返ったばかりの勇者ではなく、俺の方へと向ける。


 まさか蘇生して感謝される日が来るとは思わなかった。

 この言葉が、四天王あいつらの口から1回でも聞けたらなあ……(トオイメ)。


「その聖者ってのはなんだ?」


「あなた様は、大変ご高名な聖者様ではありませんか?」


 は? いや、俺は魔族で、あと元四天王なんだけど……。

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