リバイバルゲーム2
ロア
第1話 真相と表象
「……はっ!?…」
ここは狭い部屋。ほこりっぽくて、光の差し込むことのない、暗い部屋。
そう…俺の部屋だ。
「サリア!サリアどこだ!」
ついさっきまで俺の隣で座っていた黒い長髪の少女は見当たらない。
サリア…とりあえず、お前を抱きしめたい。この意味不明な状況を打破するためにも、とりあえず、とりあえず…。
俺はサリアの姿を見渡した。しかしサリアどころか、人影すらない。
「困ったな…」
俺は起こしていた状態から戻り、再びベッドに寝そべった。
俺の近くの窓から心地良い風が入ってくる。暗いし、夜だろうか。時間は…どうだろう、わからない。
途方に暮れ、仰向けでぼーっとしていると、俺の耳元で低い声が聞こえた。
「目が覚めたか?」
「うわぁぁ!!!!」
俺は驚き、慌てて上体を起こした。
俺の目の前には、おじさんがいる。いや、こいつは父だ。俺の父。山本優一。
「お前、俺の腕ぶっ放したみてぇだなァ。よくやってくれたぜww。ま、俺は見ての通り無事だがよ!」
そうだ、俺はあの時リサシテーションルームの女から貰った覇剣で父さんの腕を切り落としたんだ。錯乱して。なのに…。
父さんの体には、ちゃーんと両腕が付いてた。もしあの日が昨日なら、1日でこれほどの治癒は不可能なはずだ。なのに、腕がついてる…。
「俺どゆことかわかんねえんだけど。」
俺は気持ちを正直にぶつけた。
父さんは奇妙なほど、ペカっと笑う。
「はっはっは、お前NPCのサリアって女の子好きになったろwはっはっははは!!!w」
NPC…?
「NPCって何だ?」
「NPC、“ノンプレイヤーキャラクター”だよ。ゲーム内で生成され、予めプログラミングされたことしか話さない、それ以上でもそれ以下でもない、ゲーム進行を遂行させるよう仕向ける存在さ。」
父さんは得意げに語った。
「つまり…なんだよ。」
俺の問いに、父さんは一歩引いて答えた。
「お前はな、俺が作ったリバイバルゲームっちゅーVRMMORPGゲームの渦中でサリアってNPCに出会い、その他いろんなNPCと会って冒険してたってことだよ。」
…?
「で、父さんの腕はなんで付いてんだ?俺たしか切り落としたけど。」
父さんは笑う。
「だぁからwお前が俺の腕を切り落とした時間軸も、全てゲーム内ってことだよ。」
「は?」
「試しにゲーム世界と現実世界の狭間でお前を迎え入れたんだよ。試しにな。お前があんまりにも早く魔王城に着いちゃうもんだからさぁ。」
つまり…あれか…。
「俺がサリアやクルトさん、レイラさんと出会い、旅してきた毎日は父さんが作ったゲーム世界での出来事ってことか?」
「そっ!w俺のゲーム世界でのお話。」
よくわからんが、今はわかったことにして父さんの話を聞くのが得策なようだ。
「俺、実は副業でフルダイブ型のVRMMOゲームを作ってんだよ。でな、お前この前誕生日だったろ?あの日ケーキ買って帰るつもりだったんだけど、俺ケーキ代を家に忘れてきちまってよォ。そんで困って、お前を俺のゲーム世界に入れてみよっか、誕生日ケーキの代わりになるかって…」
なんだ…?父さん言ってることがめちゃくちゃだ。
「つまり…なんだ?俺は父さんの試作品のゲーム世界に閉じ込められてたってことか?」
「当ったり!!そゆことォ!!!」
父さん無駄にテンション高いな。んー…とりあえず…俺の言い分をぶつけてみるか。
「父さん…俺n…」
「そうだ賢治!!お前に良い提案がある!」
父さんは俺の言葉を潰して話しかけてきた。
「俺、実は試作品のゲームが“リバイバルゲーム”以外にもたくさんあるんだw!だからさ!お前これからも俺のゲームにフルダイブ没入して、そのゲーム世界がしっかり機能してるか、きちんとゲームクリアできるか、プレイしてくれよ!」
はぁ…?
「もちろん礼は払う!」
「どんくらい…?」
父さんは顎に手を当てて考え込む。
「んー…。よし、時給1万円。」
「…は?」
「俺のゲーム世界にいる間は、1時間につき1万円払う!」
マジかよ。
「じゃあ俺がゲーム世界に1日いたら、24万円?」
「ああそうとも。借金してでも払うさ。ゲームの中とは言え、被験体の健康に害を及ぼさないとは言い切れないからねぇ…。」
「ん?危険なの?」
「いやいやw俺は自分で作ったゲームには自分でフルダイブしたくない主義でね。是非とも他人にフルダイブしてもらって、感想を聞きたいんだ。」
ん…でも時給1万円なら、塾代もなんとかなりそうかな…。
俺は単純に考えてしまった。
「うん。わかった。父さんのゲームにこれからもフルダイブするよ。時給1万円のバイトなんてこの他にないからなw」
父さんの目が煌めいた。
「やったぁ!さすが我が息子。よくぞ俺の提言を飲んでくれた!!じゃあ、さっそく俺の試作品ゲームがある。フルダイブ頼んだよ。」
「うん。でもちょっと待った。リバイバル?ゲームの魔王城、どうしてシステムエラーが出たの?」
父さんは罰が悪い表情で苦笑いした。
「俺、やっぱラスボスの城ステージってこだわりたくて、内装とかいろいろ模作中だったんだよ。でもお前が予想より早く着いちまってよ。驚いたよ。そんで慌ててお前を現実世界に返そうとしたらバグが起こって、ゲーム世界と現実世界の狭間、記号論における言語化し得ないパラディウムの渦中に介在する…」
「あーもうわかったわかったw」
父さんの記号論トークはいつも長いから懲り懲りだ。
「じゃあ…その試作品とやらのゲームにフルダイブさせてくれよ。」
俺も単純な男だ。こんな話にまんまと乗ってしまうとはね。
「了解!頑張れよ。そんじゃ、行ってらっしゃい!」
そう言うと、父さんは俺の首元に転がっていたコードプラグを俺の首元にブッ刺した。
「グハっ…!」
意識が遠のいていく。
やがて俺の目の前に電脳世界のトンネルが見えた。
…こりゃ時給1万円も納得だぜ。
俺は次第に目の当たりになった光の渦に吸い込まれ、そこには見たことない街が見えた。
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